3回の法事のシーンの意味するものは・・・『海街diary』

完全にこちらでのお知らせをした”つもり”になっていました。遅れてすみません。
連載「シネマの女は最後に微笑む」第69回は、久々の邦画で『海街diary』(是枝裕和監督、2015)を取り上げています。

 

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原作の漫画の中のエピソードをピックアップしてまとめてありますが、それにしても、一本の映画の中に三回も法事のシーンを入れた作品も珍しいと思います。もうそれだけで「死」がクローズアップされてきます。
漫画が圧倒的に名作なだけに、比較すると若干の物足りなさは感じられるものの、死者の存在によって生の輪郭が浮かび上がるドラマとして観直してみました。

 

冒頭近く、佳乃が朝、恋人の住む海沿いのマンションから出てきたところで流れる音楽が、『ベニスに死す』に使われたマーラー交響曲第5番・第4楽章アダージェットに雰囲気が似ています。特に出だし。

「死」つながり、なのかなとも思います。漫画になくて映画にあるものの筆頭は音楽(劇伴)なので、意識的に選択されているのかもしれません。

 

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妻が同性愛者とわかった聖職者の決断に注目する『ロニートとエスティ』(連載、更新されています)

「シネマの女は最後に微笑む」第68回は、『ロニートエスティ 彼女たちの選択』(セバスティアン・レリオ監督、2017)を取り上げています。

 

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NYで自由に生きる独身のロニートと、ユダヤ教のコミュニティに住まう既婚のエスティ。正反対の生き方をしている幼馴染の二人が故郷で再会したことから、セクシュアリティをめぐって大きなドラマが展開していきます。
日本人には馴染みのない、戒律の厳しいといわれる正統派ユダヤ教徒の社会が描かれていますが、独身女性に「結婚は?」「子供は?」などと問うのは、日本の社会でもまだ見られる振る舞いかもしれません。

終盤、妻が同性愛者だと知った聖職者の夫の、苦悩の果ての踏ん切りのつけ方が実に見事で、一気に場を攫っていきます。彼が主役だったかと思うほどです。


監督のセバスティアン・レリオは、トランスジェンダー女性を描いた『ナチュラルウーマン』(2017)を撮っている人ですね。

こちらで書いています。

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トニ・コレット姉とキャメロン・ディアス妹のちょっとイタくて沁みる『イン・ハー・シューズ』

連日お暑うございます。
こちらでのお知らせ、遅くなりました。
連載「シネマの女は最後に微笑む」第67回は、『イン・ハー・シューズ』(カーティス・ハンソン監督、2005)を取り上げています。ここのところ、コロナ禍関連の前振りでわりとシリアスな映画が続いていたので、少し息抜き的な感じにしてみました。

 

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正反対の性格の姉妹の成長物語。コメディ味があり脇役もそれぞれ個性的で、なかなか楽しく観られます。シャーリー・マクレーンの貫禄がさすが。
終わりの方の関係修復過程がちょっと上手く行き過ぎかなとは思いますが、C.ディアスの楽しそうな後ろ姿が超チャーミング。


姉はしっかり者で妹はちゃっかり者、あるいは姉がおしとやかで妹がやんちゃ、というパターンが姉妹ものには多い気がしますが、実際はどうなのでしょう。やはり、姉特有の性格、妹特有の性格というものがあるのでしょうか。
自分が二人姉妹の姉なので、姉妹ものはいろいろ突き刺さることが多く、DVD見直しながら離れて住む妹のことを思い出しました。
幼い頃から妹の方が可愛くて愛嬌もありちやほやされてきた(と姉の私から見ると思える)のですが、彼女が私に強烈なコンプレックスを抱いていたと知ったのは大人になってからで、その時はとてもショックでした。
この作品でも昔のアルバムを眺めるシーンがありますが、子供の頃の自分たちの写真を見ると、たった二つ違いでも自分が妹を守るように立っていることが多く、なぜか悲しくなります。

 

 

なりすました女と騙された女の間に浮かび上がる「愛」とは(連載更新されています)

バタバタして告知忘れておりました。すみません。

連載「シネマの女は最後に微笑む」、今回はFaceappの話題を前振りに、「なりすまし」で幸せを得ようとした孤独な女の心理サスペンス『ナンシー』(クリスティーナ・チョー監督、2018)を取り上げています。

 

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初めての長編だというチョー監督の脚本が秀逸です。

ナンシーを演じるアンドレア・ライズボローのリアリティ溢れる演技はじめ、俳優陣が皆非常に良い。個人的には久々にスティーヴ・ブシェミを見て、落ち着いたインテリの役も板についているなぁと感心。

終盤の意外な展開に、深い余韻‥‥。私は泣きました。

 

 

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「モンスター」と言われた女が最後にすがったもの(連載更新されています)

告知遅くなりました。

「シネマの女は最後に微笑む」第66回は、『モンスター』(パティ・ジェンキンス監督、2003)を取り上げてます。無料登録してどうぞ。

 

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1989年~90年のアイリーン・ウォーノスによる連続殺人事件を題材にした作品。公開当時、シャーリーズ・セロンの肉体改造が話題になった作品としても有名。この人は作品毎に大胆に体型を変え、終わるとすぐさま戻しているところが驚異的ですね。もちろんそれ以外に見るべきところはたくさん。

 

「最後に微笑む」というより「不敵な面構えのまま」という底辺の娼婦を演じるセロンがやはり素晴らしいですが、いわゆる鬱展開で、主人公に共感できる部分とちょっとしんどい部分とが交錯します。それが、アイリーンという底辺の娼婦の人物造形にリアリティを与えていると思います。

相手役のクリスティーナ・リッチも、行き場のないレズビアンの若さゆえの残酷さを好演。

 

ところで私は、あの有名な『テルマ&ルイーズ』を、アイリーン・ウォーノス事件を大胆に脚色した作品だと思っていましたが、今回読者の方から指摘を受けて、それは日本で公開当時、配給会社の流した偽情報だったと知りました。

日本版Wikipediaを確認しますと、去年までは偽情報が載っていたのが訂正されています。いやはやすっかり騙されていました。反省しております。

確かに時期を考えると合いませんし、いくら何でも脚色が過ぎます。最初から全然関係ない作品だったのに、『テルマ&ルイーズ』が日本で公開される時にアイリーン・ウォーノス事件が話題だったので、配給会社が話題作りのためにデマを流したと。‥‥ケシカランですね。

 

『モンスター』の方は、事件にかなり忠実に描かれているようです。おすすめ。

 

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政治に敗北する芸術家の運命―『COLD WAR あの歌、2つの心』(連載更新されました)

「シネマの女は最後に微笑む」第64回は、ポーランドの監督パヴェウ・パヴリコフスキの『COLD WAR あの歌、2つの心』(2018)を取り上げています。

冷戦下の欧州を舞台に描かれる、音楽家と歌手の宿命的な恋。芸術と政治を巡る映画としても非常に興味深い作品。

 

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モノクロームの美しい画面。冗長なシーンは一つとしてなく、すべてが濃密にしてパーフェクト。

ネタばれに配慮してませんが、読んだ後でも観る価値は十二分にあります。傑作です。

 

奔放で純粋なズーラを演じるヨアンナ・クリークは、レア・セドゥを彷彿とさせるところもあり魅力的。童顔の素顔とメークした時の妖艶さの落差がいいです。歌が上手いなぁと思ったら、本国で歌手としても活動している人でした。

 

後半は二つの芸術家のタイプを比較しています。

中心になっているのはヴィクトルとズーラですが、男性でもう一人重要な役回りのカチマレクと、前半で姿を消す女性イレーナがいます。ズーラとイレーナは自分の筋を通そうとする芸術家ですが、男性の二人はそれぞれ西側、東側での生きやすさに流れていく。女性たちに一つの理想像を、男性たちに現実の相を担わせているようです。

ポーランド現代史をざっとおさらいしておくといいかもしれません。

 

日本語の予告編は、女性ナレーターの喋りが作品の雰囲気を甘々にして伝えていて好きではないので、こちらを。

 

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黒人差別と白人の同調圧力が同時に描かれる『ヘルプ』(連載、更新されました)

「シネマの女は最後に微笑む」第63回は、先月ミネアポリスで起きたジョージ・フロイド氏暴行死の事件を枕に、メイドとして働く60年代の黒人女性を描いた『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』を取り上げています。

 

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主人公は一応エマ・ストーンが演じる作家志望の女性ですが、冒頭もラストもヴィオラ・デイヴィスの演じるメイドのモノローグであり、下層黒人女性から見た白人女性コミュニティが描かれていると言えます。

 

最初は、NASAの黒人女性を描いてヒットした『ドリーム』(2016)を取り上げようかとも思いましたが、人間関係が『ヘルプ』に比べてやや単調なのと、ケビン・コスナーが演じた白人上司の描き方がカッコ良すぎるのと、黒人でもわずかな成功者ではなく名もなき庶民を描いたものを取り上げたいと思い、こちらに。

設定年代が同じだけに、どちらの作品にも「トイレ問題」が登場します。

 

エマ・ストーンは、この手の映画で理想化された「理解ある良い白人」に陥りそうなところを、彼女の鬱屈や成長を描くことで回避できていると思います。

また、『女神の見えざる手』や『モーリーズ・ゲーム』でキレ者を演じたジェシカ・チャステインが、ちょっとおバカだけど気のいい奥様を演じています。白人の同調圧力からはじき出された存在として重要な役どころ。

 

『ドリーム』にも出演しているオクタヴィア・スペンサーが、勝気なベテランメイドの役で出ています。彼女の密かな復讐が後半の山になっていますが、これはネタばれすると、『カラー・パープル』(1986)でウーピー・ゴールドバーグがやった行為と同じです。強烈さは『ヘルプ』の方が100倍くらいですかね。

 

それにしても、「心をつなぐストーリー」という邦題サブタイトルは何とかならなかったんでしょうか。「ドリーム」(原題:Hidden Figures)もそうですが、妙にフンワリしたイメージを付与するのはやめにしてほしいものです。私なら『ヘルプ~メイドは語る~』にしますね。

 

 

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