あたらしい首輪は軽い 拘束と愛の違いをだれか教えて

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飼い犬タロのつもりで詠む「犬短歌」、2021年下半期の190首です。
まあまあのも今ひとつのも全部上げました。わりと気に入ってる歌の最後には*マークをつけてます(/サキコとあるのは私名義の歌)。

 

◆七月(36首)

もしかして怒ってますかなんか目が怖いんですけどあっごめんなさい

チラシの絵困ったらイヌ特に柴 ネコもたまには出してあげよう

俺が今生きているのは偶然でアイス舐めたいのもまた偶然

ママの顔忘れて七年カルガモの親が子を呼ぶ夏の夕暮れ

自由主義者たちの踊れる世の中で犬は犬なりの礼節を知る

窓口で切手買いたる若力士鬢付け油に香る七月/サキコ   *

泥付きの鼻に鼻キスしたあいつ泥が好きなの俺が好きなの   *

締め切りを忘れたおばさんフィラリアのお薬だけは忘れないでね

ワンワンと吠えて「おや犬らしいね」と言われた何だと思ってたんだ   

災害の町で土砂掘る犬たちと俺は果たして同じ犬なのか

年三百六十四日の不在には耐えられないね犬は。七夕

雨の庭百合の一輪うつむいてレモンイエローの灯りとなれり

飼い主を連れた散歩の顔馴染み雨の合間に生存確認

毎日の飽きた飯にはあのひとの笑顔ふりかけおいしく食べる

夏草や千匹の蟻墓石に集りて死者の夢を乱せり

ゴマダラとゴマドレは少し似てるねと虫摘みつつ呟くおばさん

ゴマダラのカミキリムシを見た今日はゴマドレかけたサラダを食べる   *

深く潜れすべての犬たちよ真夏の軍隊そこまで来たり

言葉ってキャッチボールじゃないんだね忘れた頃に投げ返される/サキコ

タロと呼ぶ声が小さな球となり散らばる庭でわれ遊びたり   *

空色の水草の花咲く甕に棲みたるメダカの子らの眼も青

森の奥深くに隠れて玉虫はネオンのごとく夜を照らせり

この国の蝉はどこでもフィクションとリアルの間でミンミンと鳴く   *

真夏日の小さき鉄線二番花の全力かけた強き紫

あの電柱セミになったのさっきからシャーシャー鳴いては時々黙る   *

空調のリモコン持たぬ手を空に向けそうになる散歩の帰り/サキコ

おばさんに酸っぱい過去のあることはわかった俺には関係ないね

五色雲なんか見えない俺の空そろそろ首輪を替えてください

犬猫が床に落ちてると聞いたが床下に落ちるのが本式ぞ

顔はよく見えないままの「今晩は」夜に溶けゆくわ音の香り

あたらしい首輪は軽い 拘束と愛の違いをだれか教えて   *

青と白染め分けボブで風を切り自転車ガールは夏の彼方へ

明日なんかどうでもよさげな下駄の音 今日は生中二杯と冷酒

鴨を追い川に飛び込み鱒となり跳ねたところで目覚め水呑む

アシナガくん睡蓮の水飲み干して昼寝もせずに午後の仕事か

交換はできぬかわりに色お揃 俺の首輪とあの人の靴


◆八月(32首)

虫の音は闇に小さな電子音ライディーン聴いてた遠い夏の日/サキコ   *

スプレーで道に描かれたイラストは夜のあいだの星のいたずら

自分史上最高の穴が掘れたから月をメダルのかわりに噛んだよ

枝豆の匂いかすかな指先で耳に薬をつけてもらう夜   *

庭箒みたいな尾を立て寄ってきた雑種に蜂起の日を告げるなり

深海に捨てた酷暑の思い出が分解されて浮かんだら秋

立ち枯れた向日葵の影午後三時どこかでカウントされている死   *

タロちゃんの入院中にまた少し世界は悪くなったよごめん/サキコ

許すとか許さないとか人間ってどこまで行ってもバカな生きもの

あの夏はどこにいったのお迎えの声軽やかな退院の朝

おばさんは何に怖がるんだろうと化ける前から思案する夜

化け犬になったらお盆に出ておいでお正月でもいつでもおいで/サキコ

塗り薬つけるたんびに抱きしめてそんなに俺のことが好きなの

送り火の提灯ともす遠くでは国が敗れて他者たちの夏/サキコ

噛まれたり噛んだりする相手もなくて自分の尾を噛み傷つけた夏   

これ以上水分吸えない土だけど遠慮しないで片足上げる

塹壕の外に洪水迫り来てわれ渾身の土手を築けり

脱脂綿みたいな雲傷ついた空ヨードチンキの色の用水

ボロボロとまた空が泣くどうしたら機嫌直るのどっか痛いの

おばさんはお注射打って熱出してただいま奥で臥せっております   *

走らせて疲れた膝に潜り込みいい子と言わせる俺は小悪魔

虚しいの?嘘だぁまだあと何年も俺は生きるよ忘れちゃったの? 

干物を取り込みなさいと鳴いたのに雷怖いのとは何事ぞ

「お座り」の前から座って待つ早くそのポケットの中のもの出せ

千日紅みたいな色の口紅を一度もつけず過ぎてゆく夏/サキコ   *

宿題帳答え合わせをする子らの上にすいすいトンボ飛び交う

これまでの短歌を見るとおばさんの「偏見」は愛「手癖」は妄想

犬にはね犬の倫理があるんです人間みたいにひけらかさないの

お散歩は犬いない刻 病院で剃られた尻はまだ産毛なり/サキコ

ハゲなんぞ人間ほどは気に病まぬ犬の誇りを甘く見るなよ

あの人が帰らなかった一晩中ドロップみたいに月を舐めてた   

喪の衣装まとい逝く夏惜しみつつ御歯黒蜻蛉のしめやかに飛ぶ   *


◆九月(32首)                                                   

夕闇にバットマンの子ら放たれて見上げる俺は犬のジョーカー

体温の低い生きものに寄り添って暖めてやる季節が来たね

警察犬みたいと言うけど探してはいない世界を楽しんでいる

遠吠えに応え去られるさみしさを知らず遠吠えしたいと言う君

ミスタッチひと呼吸して弾き直す秋のソナチネゆっくり歩め/サキコ

足とめてピアノの音に耳澄ます人の隣で耳の裏掻く   *

もう七歳?若く見えると褒められてなぜか犬より喜ぶ飼い主

私より五倍の速さで死に向かうタロよも少し遅くていいよ/サキコ

透きとおる馬に跨がり野を行けば九月の精が眉間を撫でる

あの人は傘の雨音聴く俺は地下に流れる水音を聴く   *

飼い主のいない時には静かだと聞いた今どんな顔してるの/サキコ

犬くせぇ?そりゃあたしかにちげえねぇにんげんだってにんげんくせぇ

あの人に生殺与奪を握られてひとしお沁みる鶏頭の緋

洗われてフェロモン消えたと嘆いたらオヤジ臭よと言われたひどい

雨の中ヒトには解せぬ歌詠みてレプリカントの犬息絶えぬ   *

花は咲き人は作るのが自己主張 犬の場合はただ生きること

タリバンの犬になった同志たちよ君らがアメリカ捨てたんだよね   *

暇だから働こうかな焼きたてのバケット買ってくる仕事とか

バケットは買ったら齧りつつ帰るそれがパリジャン犬のたしなみ

雨長し歩みの遅い台風に誰かリードをつけて引いてよ

ステッキを両手に持ったおじいさんどっちの杖で魔法使うの

黒猫は幸せ運んでくるらしい食べられるかは知らないけれど

おばさんはおじさんって犬飼ってるの?たまにワウワウ吠えているよね   

名も知らぬ花に名をつけ呼んでみるハナコさんとかハナタロさんとか

人間を観察するのもうんざりで尻向けたままの農場の山羊

白魚の指ならこんな色のルビー似合うのになと紫蘇ジュース割り/サキコ

おばさんは指輪しなくていいんだよ甘噛みのとき歯に当たるから

彫刻科出身ならばおばさんもタロをモデルに一発当てなよ

柴犬の領土獲得作戦のさなかに邪魔をしに来るおばさん

草むらでコロボックルの犬たちがごはんを分けてくれた雨の夜   *

勇ましいネズミのリーピチープなら俺よりうんと東に行けたな

魔女の棲む西の森へと旅に出るあの人連れて落葉のころに


◆十月(29首)

板取のクマのプーさん提供のハチミツの色秋の陽の色

おばさんを叱らないでね鉢植えにボールを当てた犯人は犬   

草を食み草に寝ころび草枕とかくに人の世は住みにくい

いつまでも居座っていて帰る場所忘れちゃったの今年の夏は

俺だけの「おばさん」だからやすやすとそう呼ぶ人は噛みつきに行く

あの人がついて来てるか振り向いた鼻をくすぐる秋桜の風   *

青魚食べられなくてブルーだとつまらぬ駄洒落で笑うおばさん

金木犀いい香りねと言う人の後ろ手に持つおやつの香り

大脱走』犬バージョンができるならダニーの役は俺がもらった

あの雲は大きなガーゼ怪我をした犬がいないか探しているよ   *

幼虫の名残りの自分絞り出し軽々空へとツマグロヒョウモン

自分より小さい者と友だちになりたい時は小さくなろう

あの人はヒト目オンナ科オバサン属オオノサキコというわけだ

ミニあんぱんパンのとこだけくれるなら次はミニではないあんぱんを

『犬界で一番賢く勇敢なタロの話』を書いたらどうか

日々実践柴犬領土獲得の基本其の一脱糞行動   

日々実践多種犬領土闘争の監視と諜報・撹乱行動/猫

本能か学習なのかわかったら愛の中身は変わるんだろか

柴犬の鼻が乾いたここに来て涙で濡らせ泣いてる人よ

寒いなら抱きしめなさい人よりも体温高い生きものたちを

「タロ、わたしもう疲れたよ」と言うけれど凍死するのはまだまだ早いぞ

背を向けているのは拗ねてるんじゃないただ背を撫でてほしいだけです   *

この穴はここ掘れワンワンではなくてあのひとの疲れを埋める穴

宇宙人には悪者もいるけれど宇宙人の飼う犬はやさしい   

あんぱんの皮よりうまい食いもんを知らないことが俺の幸せ

鼻キスは一回につき1いいね明日は30いいねを目指す

人に化け妖怪変化し鬼になり生まれ変わっていま犬なのだ  *

人間に尻尾を振るか猿鹿の側につくのか考えどころ

人の夢から這い出しものの身を乾かす夜半の風の強さよ   *


◆十一月(32首)

犬ホテル窓から覗く妖怪の影に吠えてたハロウィンの夜

コッペパンみたいな尻してフランスパン食べているのかフレンチブルは

何歳になっても俺はタロなのにおばさんはおばあちゃんになるのね

あの人の指先のかすかな荒れを舌に感じて秋は深まる   *

電柱の根本に集まる情報に片足上げてツイートひとつ

前脚と手を触れ合うも永遠に埋まらぬ距離の大きさ思う

雉の巣を探せなかった日の夜は色とりどりの卵の夢みる

誰もいない誰もいないのに何回も振り向かないで夜の散歩で/サキコ

何かいる何かいるけどまあいいさ誰もが静かに息を吐く夜

ワタクシハアナタノ犬愛処理機デハナク短歌製造機デモナイ

四ッ足を食う人間は非道だね初めて食べる豚肉うまい

さっきまで覚えてたのに出てこない言葉のように虹が消えてく   *

アカタテハ骸の翅に並びたる紋が見つめし晩秋の空

塀越しにサザンカの写真撮る人の上げた踵の靴下の穴

静かねと言われたけれど弱い犬ほどよく吠えると聞いたからには

目に見えるもので争う人間は難儀だ匂いで競えばいいのに

この時刻この角度だけ銀色に輝く鉄塔おまえが好きだ   *

おばさんにとって自分はエロいのか可愛いのかが気になる昨今

サザンカの微妙なエロと可愛さは俺にもわかる腹が減ったな

おばさんは夜に向かって古くなり翌朝また新しくなってる   

少しずつ古くなってくのよタロもわたしも毎朝見る太陽も/サキコ   *

朝の畑四ツ足たちのパーティの名残俺だけ呼ばれてなかった

夜も更けてただ意味もなくジグザグに彼女とふたり道路を走る

どこへでもどんなステップでも行ける犬と夜風と雨の匂いと/サキコ

おばさんの声真似したら真似されて意味がわからず寝床に戻る   

もしあした「スイッチョねこ」に会ったなら俺は「チンチロリンいぬ」になる

いぬ!いぬ!と声上げ三輪車で突進してくる暴徒を避けつつ歩く   *

老犬の犇く医院を出てひとつ深呼吸した俺まだ若い

血尿であんまり心配されたので青いオシッコ出してみよかな

お砂糖を振ったブラウンケーキだよ畝だけの黒い畑に初霜

いつも逢うトイプーに無視されたあと野菊を嗅いだ気にしてないよ

ベソかいて幼稚園バスに乗った子よ代わりに俺が行ってやろうか   *


◆十二月(29首)

雨なんて降りましたっけと澄ましてる薔薇は不可侵領域の花

何度でも聞きたい「お」付きの日本語はおやつお散歩お利口さんね

黒猫に完全擬態し終わった魔法使いが夜明けの道を   *

木枯らしが赤いインクで冬の詩を書く栃の葉の乾いたおもて

おばさんの眼鏡の下は素顔 でもその下は俺だけが知る顔

金網の向こうに同志はいないけど掘れそうな土見たら掘るべし

金積んであした宇宙に行く人よライカのためにお祈りしてくれ

パソコンの蓋閉じコトリとマグカップ置く音そろそろ散歩の時間   

古い巣を腕に抱えて鳥たちの帰る春待つ桜の大樹   

お客さんいかがですかと尋ねつつ犬の腰揉む六十二歳

サッカーもドッヂボールも飽きたから次はボールになって転がる

ヘマしないように生きてもただたんにヘマしないだけだよつまらんね

蜂蜜も固まる朝に妖精のマントの色の薔薇の花咲く   *

くっつきも離れもしない距離感で冬の匂いを嗅いでいる午後

オス同士めずらしいねと言うけれど他犬と仲良くしたいだけなの

雲早し子の泣く声と豆腐屋のラッパかき消すサイレンの音

BEAMSのロゴ入りTシャツ被せられ我資本主義の犬に堕ちたり

ブランコを止めて言い合う声ひとり帰ってふたたびブランコの音

陽だまりのあのトラ猫は虎になり夏頃溶けてバターになるはず   *

田舎町老人ホームの窓ぎわに揺れてる紙の星金の星

「若見え」の短めボブに「高見え」の中古着物で出かけるおばさん

夜十時魔法が解けて軒下のまたたく星は蜘蛛の巣となる

おばさんにお願いします靴下を下さいそこにおやつを入れろ

西洋画で見た黒雲のわき立って堕天使の影映す溜池   *

風邪ひいて散歩をやめたおばさんよ俺ひとりでも行けるんですよ

雪の朝彼女の息が白いから散歩は最短コースで帰る

犬の飯食べたことない飼い主が横から何度もおいしいねと言う

さっきからサッシにぶつかり続けてるルンバを外に出しておやりよ   *

公園の砂場のトンネル掘ったのはきっとコロボックルの犬たち

 

 

2021年上半期の歌と、犬短歌を作るに至った経緯はこちら。

ohnosakiko.hatenablog.com

 

 

『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』、『モスクワは涙を信じない』(連載更新されました)

年末も押し迫り、急に冷え込んできましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。私はうっかり風邪気味です。。
「シネマの女は最後に微笑む」第99回と第100回(最終回)のお知らせです。

 


◆『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(クレイグ・ガレスピー監督、2017)

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90年代、オリンピックに二度出場したアメリカのフィギュアスケータートーニャ・ハーディングの、波乱に満ちた半生を描いた作品。
ナンシー・ケリガン襲撃事件やリレハンメル五輪での前代未聞のトラブルなど、ダークな印象を残してスケート界を去った彼女を、マーゴット・ロビーが熱演しています。もともとアイスホッケーのチームに所属していたそうで、アクションが得意な彼女のこと、プロスケーターやCGも使っているものの、キレのある動きを見せてくれます。

上品さや出自の良さといったイメージを求めるフィギュアスケート界において、労働者階級出身で泥まみれな中で戦ってきたトーニャ、という人物造形。70%くらい寄り添いつつも、30%は突き放したドライな視点が良いです。
そして何より、トーニャの母を演じるアリソン・ジャネイが凄い。名演。

 


◆『モスクワは涙を信じない』(ウラジーミル・メニショフ監督、1980)

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(画像はイメージです)

 

この作品を最終回に取り上げようと、前から決めていました。初見は1990年頃でしたが、去年久々に見直して、まさに「現代女性」のドラマだと思ったからです。

第一部は1950年代末のモスクワで働く若い女性、第二部は彼女の20年後を描いています。
今から40年余りも昔の旧ソ連の作品でありながら、モチーフはほとんど古さを感じさせません。今でも”あるある”な話が満載。
随所にユーモアやアイロニーを散りばめつつ、骨太な「女の半生」物語になっています。
また、テキストの最後の方に編集者が、主役を演じたヴェーラ・アレントワの近影を入れてくれました。胸熱です。

 


四年に亘った連載「シネマの女は最後に微笑む」、今回にて終了します。当初は40回くらいで行き詰まるかと思いましたが、なんとか100回まで漕ぎ着けました。お読み下さった皆様、ありがとうございました。
以下から全回読めます。

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さて、来年からは同じくForbesJAPANにて、新連載がスタートします。映画関連ですがテーマはがらりと変わり、これまでの月2回から月1回の更新になります。その分、スペシャルな内容にしたいと思っていますので、引き続きどうぞよろしくお願い致します。
始まりましたら、ここでまたお知らせします。乞うご期待!

『本当の目的』、『これが私の人生設計』(連載更新されています)

「シネマの女は最後に微笑む」第97回、第98回のお知らせです。
たまたま対照的な作品になりましたが、いずれも脇で登場する年配の女性の描写が素晴らしいです。

 

◆『本当の目的』(ダリヤン・ペヨフスキ監督、2015)

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マケドニアコソボ合作の異色ミステリー(画像はイメージ)。
双子ものです。感の鋭い人は、中盤くらいで察するでしょう。抑えたトーンの中の、静かな緊迫感に満ちた女優の演技、ひんやりとした色使いで引き締まった映像、脚本の見事さ。
後半に出てくる村で唯一の高齢女性、現地の人かと思うほどのリアリティでした。おすすめ。

 


◆『これが私の人生設計』(リッカルド・ミラーニ監督、2014)

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女性建築士が有名男性建築士の助手と偽って自分のプランを通していこうと画策する、イタリアで大ヒットしたコメディ。
設定の巧さと俳優達の好演が光ってます。笑えるシーンが満載。時たま出てくる田舎のおばちゃんが面白い。様々な「誤解」に焦点を当ててみました。

『シンプル・フェイバー』、『フラワーショウ!』(連載更新されています)

「シネマの女は最後に微笑む」第95回と96回のお知らせです。
今回は本文から抜き書きで。


◆『シンプル・フェイバー』(ポール・フェイグ監督、2018)

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シングルマザーのステファニー(アナ・ケンドリック)がリッチなエミリー(ブレイク・ライヴリー)とママ友になり、互いの秘密を打ち明けるほど親しくなったところで、仕事の都合で子供を預けられるのだが、その日からエミリーはふっつり姿を消す。
彼女の夫ショーン(ヘンリー・ゴールディング)にも勤務先のアパレル会社にも所在がわからない中、ある日なぜか離れた場所で水死体となって発見されるエミリー。
打ちのめされたショーンを支えようとするステファニーだが、しばらくすると死んだはずのエミリーの影が周囲にちらつき始める‥‥。

ミステリードラマとしてよくできている本作だが、では謎解きのスリルに重点が置かれているのかと言えば、ちょっと違う。

 

YouTubeVlog画面で始まり終わる本作は、ミステリーの形式をとりつつ二人の女性の関係性をブラックな笑いを散りばめて描く快作。

アナ・ケンドリックブレイク・ライヴリーも上手い! 少しずつ斜め上に行く展開と、ヒロインを失笑させるキャラにしているところが新鮮です。


◆『フラワーショウ!』(ビビアン・デ・コルシィ監督、2014)

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英国王立園芸協会主催のチェルシー・フラワーショウ2002年大会で、かつてない「雑草の庭」を創出して優勝し、ガーデニング界に新風を巻き起こしたメアリー・レイノルズの実話ドラマである。ざっとあらすじを見ておこう。
1974年、アイルランドの田舎で生まれ自然に親しんで育ったメアリー(エマ・グリーンウェル)は、ガーデン・デザイナーを目指してダブリンに上京、著名人を顧客に持つ造園家シャーロットのアシスタントになる。
シャーロットの豪華絢爛なデザインに次第に違和感を覚えていた頃、メアリーは初めて行ったロンドンのチェルシー・フラワーショウで出会った植物学者クリスティ・コラード(トム・ヒューズ)と意気投合。クリスティはエチオピアの緑化や灌漑に力を注いでおり、メアリーと深いところで価値観を共有できる人物だった。

 

「自然と共に生きること」を巡って、若くユニークなガーデン・デザイナーと、エチオピアの灌漑・緑化に挺身する植物学者の、価値観の共有とずれ、一筋縄ではいかない関係性が興味深い。最後まで結構ハラハラさせられます。映像も美しいです。

『ワタシが私を見つけるまで』、『レイトナイト 私の素敵なボス』(連載更新されてます)

バタバタしていて更新が大幅に遅れました。すみません。
「シネマの女は最後に微笑む」第93回、94回のお知らせです。


◆『ワタシが私を見つけるまで』(クリスチャン・ディッター監督、2016)

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原題はHow to Be Single。邦題は個人的には今ひとつ好みじゃないですが、アラサー独身女性の群像を描いた作品としてなかなかよくできてます。
恋人と一旦別れてニューヨークに出たヒロインが出会っていく人々の背景が興味深く、一つ一つのエピソードに捻りが効いてます。会話をはじめとした細部が光っており、それぞれの最終的な選択、落ち着き方にも好感が持てます。特に30歳前後の方にお勧め。
ヒロインはダコタ・ジョンソン演じるアリスですが、友人ロビンを演じる、コメディエンヌとしてのレベル・ウィルソンが、非常にキレがあって面白い。

メラニー・グリフィスの娘ダコタ・ジョンソンは、顔の雰囲気がイザベル・アジャーニにちょっと似ていると思いました。たまにアン・ハサウェイも入るかな。コスチューム・プレイが見てみたいです。

 

◆『レイトナイト 私の素敵なボス』(2019)

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著名な女性TV司会者と男ばかりの部下、そこに「多様化枠」で形式的に採用される一人のインド人女性‥‥。どこでも叫ばれるようになった「多様性」の実質を、アイロニカルに描く快作。
司会者キャサリン役のエマ・トンプソン、生き馬の目の抜く業界でトップに上り詰めた女性の剛腕、奢り、融通の効かなさ、裏と表のギャップを、これでもかというほどリアルに演じています。

彼女に憧れるインド人モリーを演じるミンディ・カリングは、実にチャーミング。
そして、ボスには戦々恐々としつつ、モリーを歯牙にもかけなかったライターチームの男たちが徐々にですが変わっていくさまも、ユーモアをもって見事に捉えられています。

面白いです! 

 

『私をくいとめて』、『ポルトガル、夏の終わり』(連載更新されています)

どっか行っちゃってた夏が戻ってきて、ちょっとお暑うございますね。
「シネマの女は最後に微笑む」第91回、92回のお知らせです。


◆『私をくいとめて』(大九明子監督、2020)

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同じ原作者(綿矢りさ)と監督の『勝手にふるえてろ』と同様、独身女性の自意識との戦いを描いたドラマですが、エピソードは若干盛り込みすぎかなとも感じるものの、より冒険的でポップな味に仕上がっています。
主演ののんの素晴らしさを満喫できます。相手役の林遣都も初々しいし、配役は隅々までばっちり。のんの恋を示すものとして、「揚げ物」に注目してみました。

ネタばれですが、ラストに大瀧詠一の『君が天然色』が使われています。よくぞこの曲使ってくれたという感じがします。みずみずしく多幸感溢れる楽曲の効果と相まって、実に鮮やかなエンディング。


勝手にふるえてろ』については以前書きました。

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◆『ポルトガル、夏の終わり』(アイラ・サックス監督、2019)

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イザベル・ユペール主演。さまざまな人間模様を描く、淡々として滋味に満ちた大人の映画。
ポルトガルのシントラという遺跡の多い古い避暑地が舞台で、映像が非常に美しいです。マリサ・トメイブレンダン・グリーソンなど脇の人々も安定の良さ。

主役の「大物女優」の役は、イザベル・ユペール以外の誰がやっても重さやアクが出てしまうのではないかと思います。あまり貫禄がある人はダメでしょう。まさにユペールのような、痩身でクールな威厳の中に微かな棘を潜ませることのできる女優に相応しい役。
なんだかんだ言ってイザベル・ユペール大好きです。

 

本連載内で扱った他のイザベル・ユペール主演作品は、以下の二作。エキセントリックな、あるいは病んだ役で輝く彼女ですが、中でも私の一番好きな『ピアニスト』は、著書『あなたたちはあちら、わたしはこちら』で気合い入れて書いてます。どうぞよろしく。

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※書籍のご紹介

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『デンジャラス・ビューティ』、ミスコンを巡る笑いのバランス(連載、更新されています)

連日、お暑うございます。
次まで少し間があいてしまうので、「シネマの女は最後に微笑む」第90回のお知らせしておきます。

 

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サンドラ・ブロック主演のサスペンス・コメディ『デンジャラス・ビューティ』(ドナルド・ペトリ監督、2001)。懐かしいって人、多いですよね? ちょうど20年前の作品になりますが、定番の展開ながら今見ても十分面白いです。

ミスコンの扱い方にバランス感覚が発揮されています。テキストでは言及していませんが、ステージから恋人への愛を叫ぶレズビアン女性とか、放送局での上司と部下の感覚のズレとか、細部までよく考えられているなと。
そして、マイケル・ケインの「ヒギンズ教授」が嵌り役。最高ですね。

 

疲れることの多い毎日ですが、さっぱりした笑いをどうぞ。