『ねことオルガン』が教えてくれたこと

『ねことオルガン』(1962、今西祐行、小峰書店)。小峰書店の創作幼年童話シリーズのうちの一冊だが、長らく絶版となっている。 子どもの頃に読んだこの本のことを最近急に思い出し、実家にまだあるか母に聞いてみると、姪(妹の娘)が小さい時にあげたとい…

お知らせ

9月末に出た拙書ですが、ようやく紙媒体で言及されました。今朝の読売新聞9面の『時の余白に』(編集委員 芥川喜好)という長めのコラム欄の終わりの方です(書評欄ではありません)。*1 *2 アスリートという言葉の流行への違和感が綴られた後に、『アーテ…

アート、症候、ドーナツの穴

私はTwitterをやっていないが、興味をもった10数人のアート関係の人々のtweetを時々見ている。その中で最近印象深かった発言。 ともあれ、ブリュットであろうがファインであろうが、「アートは表現する」と言うのは正しくない。もしくはきわめて瑣末な属性で…

丸木俊と丸木俊子

雨がシトシト降る中、三岸節子記念美術館で開催中の「生誕100年記念 丸木俊展」を観に行った(私の今住んでいる一宮市は三岸節子の出身地)。2月から5月にかけて丸木美術館で行われた企画展の一部が来たものらしい。 洋画家 丸木俊(旧名 赤松俊子、1912−20…

非ヤンキーはヤンキーを語る

斎藤環先生の「ヤンキー文化」ツィート - Togetter 『世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析』(角川書店、2012)で、ヤンキー文化論(という名の日本人論)の最前線に躍り出た感のある斎藤環。以下は、特に印象に残った斎藤先生のtweet。 ●地方の学校…

「愛知ビエンナーレ」なんてありません

新著を読んでくれた知人から、メールで間違いを指摘された。「はじめに」の最初の方。 「P7、愛知も、ビエンナーレではなくトリエンナーレですよ(笑)。」 ぎゃーっ!! なんてこった!!!! あまりに堂々としたミスに3センチくらい飛び上がってしまった。 地元…

新刊のご案内 - 『アート・ヒステリー なんでもかんでもアートな国・ニッポン』

アート・ヒステリー ---なんでもかんでもアートな国・ニッポン作者: 大野左紀子出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2012/09/26メディア: 単行本購入: 39人 クリック: 508回この商品を含むブログ (15件) を見る ” その言葉が盛んに叫ばれ、常にプラスの価…

消費者でもクリエイターでもなくプロでもアマでもなく

ネットによって文章を書くようになった人たちは消費者でもなくクリエイターでもなかった – Togetter 素人が増えただけで仕事を失うプロなんて、淘汰されるしかあるまい – シロクマの屑籠 ネットによって文章を書くようになった人たちに淘汰されるプロの怨念 …

1964年の夏、波にさらわれたビーチボールの話

海とマリ ― 少女の思い出 それは、わたしがまだ五つぐらいの女の子だったころのことです。 そのころ、わたしのおとうさんは、とても遠いところにある学校の先生をしていました。その学校は、きれいな海のそばにあるので、ある夏の日に、おとうさんは、わたし…

隠喩から換喩へ、そして‥‥(「文学2.0」読書メモ)

『日本2.0 思想地図β3vol.3』に掲載の「文学2.0 余が言文一致の未来」(市川真人)読了。メインの分析対象として取り上げられている国民的マンガ『ONE PIECE』を読んでいないばかりか、そもそも最近の小説や文芸批評にもほとんど目を通していない私のような…

読書メモ

話題性に流されて最近買った本。 独立国家のつくりかた (講談社現代新書)作者: 坂口恭平出版社/メーカー: 講談社発売日: 2012/05/18メディア: 新書購入: 19人 クリック: 814回この商品を含むブログ (89件) を見る『TOKYO 0円ハウス0円生活』を読んで興味を…

老人たち

父を介護している母を訪ねてまた実家に行くと、「今、これ読んでるの」と母が差し出した本が、『母の遺産 新聞小説』(水村美苗、中央公論新社、2012)だった。 母の遺産―新聞小説作者: 水村美苗出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2012/03メディア: 単行…

「人形を相手にしている女の子、あれは決して遊んでいるのではない」(読書メモ)

時代が病むということ―無意識の構造と美術作者: 鈴木國文出版社/メーカー: 日本評論社発売日: 2006/01/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 53回この商品を含むブログ (2件) を見る 『時代が病むということ 無意識の構造と美術』(鈴木國文、日本評論社、…

J.ボードリヤールの『芸術の陰謀』と画家の逆ギレ

芸術の陰謀―消費社会と現代アート作者: ジャン・ボードリヤール,塚原史出版社/メーカー: エヌティティ出版発売日: 2011/10/12メディア: 単行本購入: 11人 クリック: 138回この商品を含むブログ (6件) を見る 1996年、『リベラシオン』紙上に J.ボードリヤー…

奇想天外「毬と殿さま」

先日触れた『コドモノクニ名作選 vol.3』に、童謡のCDがついていた。 大正から昭和初期に作られて、以後ずっと歌われている童謡は案外多い。「赤い鳥小鳥」「かたつむり」「赤とんぼ」「アメフリ」「グッドバイ」「赤い靴」「青い目の人形」「七つの子」「夕…

私は「コドモノクニ」から来た

だいぶ前から気になっていた『コドモノクニ名作選』(全2巻/アシェット婦人画報社)と、それに続く『コドモノクニ』vol.2、vol.3 をまとめて買った。私にとって、三冊一気買いするには少々お高い買い物だったが思い切って。 『コドモノクニ』とは、関東大…

「徳久造船所 仕事十訓」(大竹伸朗のカタログより)

教師の心得 - bluelinesという記事が、今月とてもブックマークを集めている。ブログ主がアメリカの大学院で「Professional methods」という授業を取った際、「教授法」の回で先生が配ったものだそうだ。その立場にいる者としては非常によくわかる&耳の痛い…

韓国で出ました

左が今日漸く手元に届いた、(韓国では)7月1日発行の『アーティスト症候群』(サムンナンテキ出版社)、右が去年出版された『「女」が邪魔をする』(WORDS&BOOK PUBLISHING CO./韓国版のタイトルは『彼女についてのすべて』に変更されている)。 「アー…

芸術への「信仰」

「「芸術」否定の書」と背表紙に銘打たれた『芸術崇拝の思想 政教分離とヨーロッパの新しい神』(松宮秀治、2008、白水社)は、「芸術はいかにしてとなったのか」を近代ヨーロッパの思想、文化などと絡めて論じた本。 国家権力から分離した宗教の穴を埋める…

「この暑さにやられてる」とロシアの作家は言った・・・ソローキンの思い出

今からもう10年以上前のことなのに、時々昨日のように思い出す。 歳下の友人のN、Sと私、そしてロシア語通訳として同行を頼んだ知人のKは、東京は北区滝野川にある東京外国語大学教職員宿舎を目指して、テクテクと住宅街の中を歩いていた。カンカン照りのう…

『長距離列車の少女』

長い汽車の旅だった。真一のお祖母さんが死んだという電報が来て、真一の父親は九州の熊本にある郷里へ行くことになった。ちょうど夏休みだったので、真一もついて行くことになり、母親とまだ幼い妹を残して、九州への旅に出たのだった。もちろん、真一はそ…

『アーティスト症候群』文庫版出ました(5名にプレゼント)

2008年に出した『アーティスト症候群 アートと職人、クリエイターと芸能人』(内容紹介はこちら)が、河出書房新社より文庫化されました。アーティスト症候群---アートと職人、クリエイターと芸能人 (河出文庫)作者: 大野左紀子出版社/メーカー: 河出書房新…

男性のオウチ進出 - 『喜婚男と避婚男』を読む

喜婚男と避婚男 (新潮新書)作者: ツノダ姉妹出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2011/05メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 124回この商品を含むブログ (7件) を見る オビの文句は「愛を叫ぶか、愛を避けるか。バブル世代のマーケッター姉妹が「男×オウチ」の…

あらしが来るとは誰も思っていなかった ---- ドラ・ド・ヨング『あらしの前/あらしのあと』

『あらしの前/あらしのあと』(岩波少年少女文学全集、1961、吉野源三郎訳)を、久しぶりに再読した。 著者のドラ・ド・ヨングはオランダ人女性だが、「あらしの前」(原題:THE LEVEL LAND)は1950年にアメリカで出版されて好評を得、その7年後に「あらし…

第十六師団の山中貞雄

映画監督 山中貞雄作者:加藤 泰キネマ旬報社Amazon『映画監督 山中貞雄』(加藤泰 著、(株)キネマ旬報社、1985)を読み終えた。 山中貞雄の甥でやはり映画監督であった著者が、膨大な資料収集と関係者へのインタビューを経て、8年がかりで書き上げた労作で…

猫と偏屈男

先日取り上げた映画『宗方姉妹』(小津安二郎、1950)の中に、猫がちょくちょく登場する。姉夫婦と妹の同居する家で、猫を飼っているのだ。母猫に子猫が3〜4匹。 子猫が長椅子の上で戯れているシーンや、母猫の周りで廊下をぴょんぴょこ飛び跳ねてるシーン…

来たりて去りし物語

ノラや―内田百けん集成〈9〉 ちくま文庫作者: 内田百けん出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2003/06/01メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 24回この商品を含むブログ (31件) を見る ある日、庭の茂みをくぐり抜けて姿を消したまま戻って来ない飼い猫ノラの行…

女をモノ扱いするのは男の仕様、あるいは男の性の脆弱性と所有欲について

今週は、女をモノ扱いし女の人格を尊重しない男が世の中には多いので、女性にとって性的に欲望されることは単純に歓迎できないという話のブクマタワーがどんどん高くなっていくのを、あっけにとられて見ていた。 おそらくここでも、内容の是非というよりは話…

夢から逃れて

朝、目覚めた時しばしば、100メートルを全力疾走した直後のような状態になっている。心臓が高鳴りぐったりして汗を掻いていたりする。疲れを取るために寝ているのに、起きた直後がクタクタってどういうこと? いよいよ本格的に更年期障害かという気もするが…

ブコメにお返事

先日のこれが男の生きる道?- 上野千鶴子vs澁谷知美、‥‥‥そして橋本治についたブックマークコメントのいくつかについてコメントを返したかったのですが、ブコメでは書ききれないので、エントリ立てました(追加あるかも)。再度のご意見などありましたら、当…