正月の会話

「久しぶりにおばさんの顔見たいって言って、昨日Sちゃんが来たの」
と、電話で母は言った。
Sちゃんは母の姪。東京の外資系企業のバリキャリ、35歳。私は彼女が子どもの頃に会ったっきりである。
弟のK君はとても大人しい子で、Sちゃんは逆に子どもの頃から男の子っぽかった。高校の時、アメリカに語学留学して、大学もアメリカ。祖母は「姉さんと弟が入れ替わってれば良かった」と言っていたらしい。昔の人だから、そういう考え方になる。


「ところでSちゃん、結婚はしてなかったんだっけ」と聞いてみた。
「してないのよ」と、母はいかにも深刻な話をするような声で言った。
「好きな人いないの?って聞いたら、いないって。婚活もしたことないんだって」
「ふうん」
「会社にいい人いないの?って聞いたけど、男の人はみんな既婚で、女の人はシングルマザーが多いんだって」
「へえ」
「仕事で知り合って結婚しても、旦那さんも急がしくて家事育児できないでしょ。逆に手間かかったりして。奥さんはもう子ども一人の面倒見るので一杯で、旦那さんはいらないってなるらしいわ」
「ああねえ。そういう話を身近で聞いてたら、あんまり結婚する気なくなるかもね」


「でもSちゃんもねぇ」と、母は不満そうに言った。
「色も白いしスラッとしてるのに、ちょっと愛想がないのがねぇ。女の子はもうちょっとニコニコして愛想がないと、男の人に好かれないわよね」
戦前生まれの母も、やはり祖母と同じ考えである。まあ一般論としてはそう言えるのかもしれないと思って黙っていると、母は私が同意したと思ったようで畳み掛けた。
「昔から、女は愛嬌、男は度胸って言ってねぇ」
思わず、「今は違うよ。女は度胸、男は愛嬌でしょ」と遮った。私の周囲でうまくいっていそうなカップルは、そういう感じが多いのです。
あ、この子はそういうツッコミをしたがる子だったと思い出したらしく「ああそう」と受けた母は、「でもやっぱり男も女も、30くらいまでに結婚した方がいいと思うのよね、私は」と、持論を主張した。
「お母さん、Sちゃんにそう言ったの?」
「言ってはいないけど」
うん、なら、いいです。正月に帰省した時、「早く結婚した方がいいよ」と言う親戚のおばさんほど鬱陶しいものはないでしょうからね‥‥。


Sちゃんは一人で楽しく生きていくのだろうか。そのうちパートナーを見つけるのだろうか。
どっちでもいいけど、お酒が好きらしいので、いつか二人で飲みたいなと思った。