説教師・細木数子

罵倒系占い師

良い占い師は、占い結果をそのまま伝えるようなことはしないという。
例えばある人について、「今年は仕事を干される」という占い結果が出たとすると、「今年はあまりがつがつ働かず、充電期間に当てましょう」。「恋人にフラれる」と出たら、「今の相手は運命の人ではないかもしれません」。
占い師も商売している人だから、相手に致命的なショックを与えず、有り難いことを聞いたという気にさせて、ちゃんとお金を取れるよう創意工夫を凝らしている。一時的な精神安定剤を売っているようなものだ。それに、どうとでもとれるような曖昧な言い方をした方が、当らなかった場合にうまく逃げられるし。
たまに、すごく不吉な内容‥‥「身内に不幸があるでしょう」「一生異性に縁はない」 「死相が出ている」といったあまり聞きたくないことを、ズバズバ言う人もいるらしいが、サービス業としては儲からないのではないかと思う。


さてそういう癒し系占い師が多い中で、一人ズバズバズケズケ言って法外に儲けている占い師は、言わずと知れた細木数子である。
7月に放映された二本の特番は高視聴率を記録し、その後『ズバリ言うわよ!』というレギュラー番組まで始まってもう一ヶ月。そこで「鑑定」と称して言いたい放題言いまくり、それがまた高視聴率に結びついているらしい。


細木数子六星占術の運勢占いは「女性自身」誌に載っているので時々見てたが、自分に関しては当った試しがない。私は一時占いフリークで、あらゆる雑誌の占い欄をチェックしていたが、細木数子が一番ピンとこなかった。
まあそれは私が例外だったのかもしれないと思っていたら、最近は「谷亮子は金を獲れない」と予測していたのを見事外した。
ズバリ言ってもズバリ当らなかったことは証明されたのだから、早く番組打止めにするべきではないか? 
だがよく考えると、この番組で細木がやるのは「ズバリ言う」ことであって、「ズバリ当てる」とは謳っていない。実に賢いタイトル。細木は、かつての野村佐知代やデヴィ夫人と同じ枠ということだ(というか故宜保愛子の後釜?)。


そういう女は常に一定の需要があるらしい。変なもの見たさの野次馬と、自分には到底言えないような下品かつ無遠慮なことを、テレビではっきり言ってもらえるとすっきりするという毒舌オバサン好きオバサンが、そうした番組の視聴率を支えている。
更に細木の場合、どんな失礼なことをズケズケ言ったとしても、全部「鑑定ではそう出てる」という一点で許容される。「鑑定」には出てないけど、個人的に気に入らない芸能人だからわざとズケズケ言ってたとしても、悪意をカムフラージュできる。実に賢い立ち位置。細木にとっても、視聴者にとっても、テレビ局にとっても大変都合よくできている。


ちなみに谷亮子に対しては相当悪意があるのか、予測が外れた悔し紛れなのか、「谷佳知とはいずれ別れるだろう」と女性セブンの中で予言していた。こうなったら谷は、この先どんなことがあっても、たとえ夫が無職になっても、離婚だけはしないでほしいと思ってしまった。


「女に理性はない」

作ってる人も見てる人も知能指数の低そうな細木番組で、あの成金婆さんの横に侍らせられているタッキーは、生け贄の気分であろう。とても見る気は起こらないが、先々週の日曜日、『細木数子の人生ダメ出し道場』(なんつうタイトル)というのは、ちらっと見た。
芸能人相手に「バカ女」「何をやってもダメ」「地獄に堕ちる」と「ダメ出し」を連発し、飴と鞭を使い分けて、間の取り方なども妙に芝居がかっていた。
押しつけがましさを芸だと思っている様子。すごい大物感の自己演出だ。あれは一種のお笑いとして見るのが正しい。


かの「女性セブン」誌では、3ページに渡って「女のあり方」を説いていた。前振りの細木の主張を彼女の言葉を使って要約すると、
「女が勘違いして出しゃばり過ぎたために、世の中がめちゃくちゃになってしまった。女が結婚もせず仕事に邁進するのは、宇宙の原理、自然の摂理に反している。結婚して子供を産む、そういう女本来の生き方をするべきである」。
細木数子=バリバリの反ジェンフリ女‥‥そんな今どきの「常識」を、私は女性セブンに教えられるまでよく知らなかった。
前振りの後には、箇条書きの「教え」が続く。
1. 女に理性はなく、情がある。
2. 夫に「行っていらっしゃい」と言ってはいけない
3. 夫の内ポケットを探ってはいけない。
4. 娘には勉強より料理を。


以下は「親と子の差を意識しろ」「貧乏を恥じるな」「他人と自分を比べるな」と続くが、最初の四つがすごい。
いやすごい以前に、ハテナ?


「女に理性はなく‥‥」というのには、さすがの女性セブンも少々引いていたようだが、女は「情」があって愛されるものだから、それをわきまえて家で愛情細やかに夫に尽くせということらしい。理性のない女が毎日家で待っていたら、夫は家に帰りたくないと思うが。
夫に「行ってらっしゃい」と言わずに何と言えばよいかというと、「お早いお帰りを」だそうである。笑ってはいけない、ちゃんと理由がある。
そういう妻の言葉を聞いて会社に出掛けた夫は、退社時間になるとその言葉と妻の顔を思い出し、早く帰ろうと思うはずだそうだ。言葉による行動拘束‥‥。


まあどうでもいいことだけど、書いていてなんだか”愉快”になってきたので、3と4についても詳しく書くと、「夫の内ポケットを探ってはいけない」のは、細かいことを詮索して夫にプレッシャーをかけるべきではないということ。
男は浮気するものである。怪しいと思っても気づかないフリをしていれば、いずれ妻の元に戻ってくるものである、と。
更に、夫に愛妻弁当を持たせるべきだと細木は言う。
彼女の知り合いの女性はハートマークを描いた弁当を夫に持たせて、夫婦円満だそうだ。そういう弁当を夫が職場で広げていれば、他の女は寄ってこない。しかし毎日ハートマークではちょっとしつこいので、一週間に2回くらいに止めておいた方がよい。笑ってはいけない、細木はマジである。
そうなると、娘に「勉強より料理を」しつけねばならないのは、当然だろう。
女が学を積んでもロクなことはない。料理をきちんと覚えてさっさと嫁に行くのが、女の幸せである。細木のところには若い女性からの相談が多いそうだが、「男に甘えなさい」「早く結婚しなさい」と勧めており、その助言に従って結婚した女は皆幸せになっているそうだ。


この記事を読んで、細木がなぜ谷亮子を目の敵にするのか、なんとなくわかった。結婚してるのに仕事している女、夫に尽くさない女、やりたいことをやってる女は、細木にとってすべて批判対象(「地獄行き」)なのだ。
細木からすると、私も谷亮子と同類である。びっくり。


オヤジとしての野望

細木数子の言動を見ていて思うのは、この人は元々から、他人に高圧的に説教したい種類の人なんだろなということだ。
説教というか、何か暴言を吐いて相手を威嚇し支配したいという欲望を、大昔から持っていたのではないか。ある意味すごく「男らしい」欲望を。


確かに、そういうことに占いは適していると言える。
どんな突拍子もないことでも、「鑑定ではそう出てる」と言えば相手の口を封じられる。占いが当たったかのように思わせるテクニックだってある。有名人が占ってもらっていることになれば、ほぼ絶対の信用をゲット。占いブームに乗って本の数冊も売れれば、占い師としては大成功。そういう「実績」を積んで、細木数子はここまでの地位を築いたのだろう。つまり商売上手だったということだ。
しかし占いは所詮占いであって、常に「外れるかもしれない」というリスクを背負っている。思いきって断言したのを次から次へと外していたら、占い師としては死活問題。
そこへいくと、説教にそういうリスクはない。それが人気占い師の説教なら、真剣に耳を傾ける人も出てくるだろうし、そこで何かパフォーマンスできれば、占い以外の仕事も舞い込むだろう。


細木数子は、目立つのが大好きだ。だから占い師枠をはみ出して、説教師となった。
占いでも大殺界だの何だの大袈裟なことを言っていたが、説教でも同じである。だって、人を見下ろして威嚇したいだけだから。それで人を自分の足下にひれ伏させたいわけだから。今のところ、テレビではその演出が上手くいっているようだ。
しかし細木が主張している「女のあり方」というものが、いったいどうやって彼女の人生経験から導き出されるのだろうか。
細木はずっと仕事をしてきた野心家の女である。ここまで成功するのに「情」ではなく、「理性」で生きてきたはずである。それは、本人の言う「宇宙の原理、自然の摂理」に思いきり反する生き方だろう。でもそれでどんどん儲かり有名になったのだから、そう簡単にはやめられない。


つまり細木数子という女の内面は、富と権力を求めるタイプのオヤジそのものである。 だから、そういうオヤジが好むような、古風な「女のあり方」を説いているのだ。
21才で結婚、離婚した時、「理性」を捨てて「情」に生きることができない私は「女」として不幸だわ、という思い込みと私怨の反動で、彼女はオヤジになったのだろうか。それとも、水商売してた時みたいにオヤジに媚びを売りたいのだろうか。


細木が最も巧妙なところは、機を見るに敏だということである。
仕事に忙殺されて疲れきっている女は多いし、家庭と仕事の両立に苦しんでいる女も多い。そういう女を見てきて、もう男社会に出て苦労するのは嫌だとか、やっぱり専業が一番かなあと思う女もいる。
それは単純に、女の側の甘えだけとも言い切れない。現に一部のエリートを除いて、普通の女性が働いて自活していくのは楽ではないし。しかもジェンダーフリー・バッシングを始め、「女は家庭に帰れ」的復古的な言説はじわじわ広がっている。


そういう状況を素早く味方につけ(たつもりになって)、細木数子はこちらが腰砕けになるほど古めかしいことを、得意気に言い立てる。それが、自分のことは棚に上げた噴飯ものの人生訓でも、どんな失礼な暴言でも、細木数子だから許される。
目立ちたい欲とエバりたい欲と金儲け欲が満たせるそのおいしいポジションを、メディアは彼女に提供した。占い界のみのもんた?いや石原慎太郎かもしれない。