文化部の女子(または「帝国」の不安)

露悪趣味の純情

どことなくヤバくて見てられない。イタい感じスレスレ。それがこないだ『おしゃれカンケイ』にゲストで出ていた中村うさぎであった。
プライベートをネタにしている女性のもの書きは、一つ間違うと「痛々しい女」になってしまう。中村は破天荒で無頼な女王様キャラのはずだったが、『おしゃれカンケイ』では中途半端にいい人みたいでつらかった。
韓国に内縁の夫、タイに愛人(相手は家族持ち)がいて、39歳でどっちの子かわからない子供(しかも前夫の子と合わせて3人目)を産むことにした、と女性セブンで公表した岩井志麻子の方が、肝の太さを感じさせる(先週号の女性セブン参照。内縁の夫と愛人のリアクションは要注目)。
岩井はほとんどテレビに出ないが、前一度だけバラエティに出ているのを見た。コラムや対談と同様、超然とした不気味さと不思議なユーモアを漂わせ、うさぎよりは数段マシだった。


その岩井志麻子中村うさぎ森奈津子の『最後のY談』を、先月友人から借りて読んだ。
すごいです。大爆笑。私も話に参加したくなったくらい。ストレートなセックス本音話が中心だが、エロを突き抜けていて読後感はさわやか(と言っていいんだかどうだか)。
同時に読んだ斎藤綾子他の鼎談『男を抱くということ』は、更に重くてナマで切実なところがあり、これも面白い。
ただ、女に永久にオタクな幻想を持ち続けたい小心な男子は、読まない方がいいかもしれない。メガトン級の衝撃に一週間くらい勃ち直れないと思う。また、オカズとして読むのも無駄。ぬける種類の読み物ではない。


自分のセックス、セクシャリティを爽快なまでに正直に語る女。その語りは露悪趣味と受け取られるだろうが、むしろ生真面目さの裏返しだろう。
自己の体験と内面を直視し、できるだけ正確に表現しようとする点において、彼女達は至極マジで純情となる。普通の男はそこでやや引いてしまうわけだが、適当にお茶を濁して男に媚びることは断じてしないところが、なかなかそこまでいけないで悶々としている女の支持を得る。
先日の中村うさぎのヤバさは、そこんとこでちょっとよろめいて迷いが出てしまったようなヤバさに見えた。
今まで通り八方破れな開き直りで高笑いしながら突っ走るとしたら、相当タフでないといけない。それにもの書きなら、ただ正直でいればいいってものでもない。毒舌コラムにも、世間は飽きてきてるし。


ところで最近はタレントで、露悪趣味をウリにしている女がいろいろいる。杉田かおるとか杉本彩とか。やたらとバラエティで対決させられているが、あまり興味は持てない。彼女達自身というより、ゲテモノ対決として面白がっている構図がなんとなく不快だ。
飯島愛みたいに本書いてヒットして言いたいこと言える女みたいなのも、あまり興味は持てない。どちらも、自虐自分史観と古典的な恋愛論から抜け出てないように思う。
「本音トーク」の若手女性タレントとしての重宝も「女性の共感」を集める点であって、所詮は視聴者サービスとしてのぬるい「本音」だ。テレビという「学校」の中では、授業サボって男友達と遊んでいる、偏差値の低い憎めない不良女子生徒といった役回り。

不自然な自然

では、不良ではない女子、偏差値高めで身だしなみの良い若手女性タレントとは。
そういう人は、あまりバラエティには出て来ず、教育番組やカルチャー系の番組にいる。私はむしろこちらに興味がある。杉田かおる飯島愛とは、絶対に同じ土俵に出ない文化部の女子。
代表としてここでは、緒川たまき、はな、本上まなみの三人を挙げたい。プロフィールをざっと見てみる。


緒川たまきは、1972年生まれ。モデル、タレント、女優。芸名の"たまき"は竹久夢二の妻の名前からとった。趣味は読書(主に純文学)、散歩しながらお気に入りのカメラで写真を撮ることetc。写真集も出している。NHK教育の『新・日曜美術館』『デジタル・スタジアム』の最初の頃の司会アシスタント。その他アート、カルチャー系の番組出演が目立つ。


はなは、1971年生まれ。モデル出身。上智大卒で英語、フランス語に堪能。趣味はお菓子作りと仏像観賞で『はなのとっておきスウィーツBOOK』他数冊本を出し、雑誌にエッセーなども連載。以前はNHKの『中国語講座』のアシスタント、『トップランナー』のMC、現在『新・日曜美術館』の司会アシスタント。


本上まなみは、1975年生まれ。女優、タレント、エッセイスト。趣味はモヤシ栽培、旅行、料理、写真(カメラ)、フライフィッシング、どんぐり拾い、ペタンク、短歌(雅号:鶯まなみ)、読書(谷崎潤一郎宮沢賢治)、生け花。様々な文化系番組に出演しているが、NHK関係では現在『トップランナー』のMC。


以上は、それぞれの個人HP、ファンサイト、NHK教育関係のサイトから抜き書きしてまとめたもの。わざわざ書いたのは、三人の立ち位置、特に趣味嗜好の「いかにも」感を改めて見るためである(ちなみにたまきも愛読書に谷崎を挙げている)。
それぞれのテレビでのレギュラーの仕事は、メイン司会者の横にいてシナリオ通りに進行を手伝い、時々頷いたり当たり障りのないコメントを挟むだけ。印象に残るような発言はない。しかし、何となく文化の香りがあるやや高めの女というポジションを確立している。


「言葉」には、何か特徴があるように思う。
緒川たまきはちょっと不思議なアート系の感性みたいなもんを発散している、という人らしく、あまりピントの合ったことを言わない。おっとりしていて「天然」かつ「別格」な感じ。
はなは「ナチュラルでオシャレ」が身上であるが、喋り方が妙に子供っぽく舌足らずな点に違和感を覚える。
本上まなみは上の「趣味」を見てもわかるように、やたらと自己紹介が詳しく、「好きな食べ物、好きな動物、愛用品、異性のタイプ、許せないタイプ、嫌いなもの、苦手なもの」と、延々事細かに続くのである、「ユーモア」を交えた自分語りが。
他の二人もそうだが、この人のエッセイも、全身がムズ痒くなるようなのんびりゆったりの「自然体」。 「文化部」にしては、幼い語り口だ。


彼女達の特徴を抽象的に表現すると、地上から5センチくらい浮いているようなたたずまいと言おうか。常にふわ〜っとした曖昧な空気を纏っている。いくつになっても透明感があって少女のような? 澄ましているけど実はおちゃめ? 
そういうのがステキと思えれば問題はないが、思えないと30メートルくらい後ろから走っていって飛び蹴りを喰らわせたくなるような、軽くムカつく感じ。
何なのだろうか、この内面がいっさいわからない感じは。見ていて苛つくだけでなく、不安になる。その不安は、何かがごっそりと抜け落ちている感じからくる。抜け落ちているのは、性の匂いである。


三人とも70年代前半生まれの30前後というお年頃。当然オナニーもすればセックスもしているであろう。女の30代と言えば何かと、ドロドロしつつもめくるめくようなせつなく味わい深い大人の体験が目白押し(ではないか?)。
ここまでエッセイやら写真集やらで自分語りをし、「自然体の私」みたいなものを表出しているにも関わらず、そういう色気方面の要素だけがきれいに払拭されているところが、美人なだけになんだか怖い。自然さを装っているのにどこか不自然。
やはり「帝国」(前の記事参照)の住人なのか。

30女の脱皮の困難

同世代の「隠れ文化部」に、『たけしの誰でもピカソ』『おしゃれカンケイ』などの司会、MCの、渡辺満里奈がいる。
元アイドルというだけでとりたてて芸があるわけではないのに、何となくいいポジションに常にいる彼女を見ていると誰でも「なんであんたが」と思うが、しかし頭がいいとは思う。
満里奈がディープなサブカルおたくで、音楽やアートの情報通というのは有名である。かつてはフリッパーズ・ギターの男二人を手玉にとり、遂に解散に追い込んだという噂も有名。色気方面もそれなりにしっかりやってきた、バリバリ文化部の女だ。
しかしそういう教養を、テレビでは絶対にひけらかさない。常に一歩引きの姿勢をキープ。


彼女に、先日の中村うさぎはどう映っただろうか。やはり痛々しく映ったと思う。
番組では素直なアシスト役に徹しているが、中村のエッセイに最も共感できる位置にいるのは、たまきでもはなでもまなみでもなく、実は満里奈だ。私の直感では。
甘いもの好き、ボサノバ好きなど表向きの趣味では「はなちゃん」と酷似しているが、ほんとにそれだけで満足か?という疑念が拭えない。
岡崎京子のマンガを理解するようにすんなりと、彼女は中村うさぎ斎藤綾子を読めるだろう。岩井志麻子の小説やコラムも読んでるだろう。AVなんかも普通に見てると思う。表には絶対出さないが。
それから、隠れてこっそりエロ小説などを書いていそうである。それも結構上手だったりして、匿名でどこかに投稿していたりする(たぶんしてない)。
そういう想像は、たまきやはなやまなみにはできない。せいぜい宮沢賢治を真似て失敗したようなポエムを書いているといった、貧困なイメージしか浮かばない。
満里奈にはセコい成り上がり女の匂いがあるが、そのセコさを一人で見つめる内面はまだあると思う。たまき以下にはそれが全然ない。


しかし渡辺満里奈も、いつまでもオヤジタレントの横にいてはダメである。 今のままでは、ただ器用でお行儀のいい座持ち女に過ぎない。本人も内心「いい加減飽きたな、金のためとは言え」と思っているはずだ。
かといって、エッセイ出したり自分で撮った写真集出したり絵本出したりという、安易な文化方面に流れるのは、よくない。そんなもの、もうみんなうんざりしている。どうもそっち方面が好きらしいが、ちょっとセーブしてほしい。


キャラクター的にもポジション的にも大変難しいことだが、渡辺満里奈には同世代の女性タレントと "最初のY談" をやってほしいと思う。33で「最後」じゃあんまりなので「最初」。
まず先の三人を呼んで、とことん本音を語らせてもらいたい。大衆は、タレントや女優の性生活を覗き見たいという下衆な欲望しかないので、ゲストは覆面でもいい。司会を一人でやるのが負担だったら、飯島愛とか不良を入れてもいい。もう恥ずかしがる歳でもないので、文化部裏番長としてはおしゃれ系はほどほどにして、そろそろ性に真正面から取り組むべきだ。
テレビタレントでそれをやったら、満里奈の株は相当上がるだろう。もう怖いものなし。本もバカ売れ。キャラも一皮むけると思う。


‥‥という妄想をふと抱いたのだが、あまりに現実離れした話だろうか。リアリティがなさ過ぎるだろうか。
しかし本当にリアリティがないのは、文化部の女子の方ではないか? まるで雑誌からコピペしてきたようなイメージを「等身大で自然体の私」として見せびらかしていても、騙せるのは素朴な人だけだろう。
カフェでスイーツを食べましただの、アートって日常にありますよねだの、今日はお散歩とお昼寝の日だの。大人のくせに、女の子なのかおばあさんなのかわからんようなことを、いつまでも言ってんじゃないよ。


既に手垢のつき出した退屈なイメージに、自分で何の違和感も持たないのはおかしい。いい歳して全然疑ってないとしたら、ちょっと気持ち悪い。
中村うさぎと同世代の私はそう感じるが、「帝国」から疎外されている(自らを疎外した)若い女子は、更に激しくそう思っていると思う。