専業主夫願望を叶えるために

家事万能ホスト

『バックラッシュ!』を非難する深夜のシマネコBlog)……「女性が社会進出したために仕事を奪われた「弱者」の男は困窮している。誰か僕をお嫁にもらってくれ」という主張。


上のブログ主は、フェミニズムが「男女平等」を唱えるなら、社会進出して経済的に「強者」となった女性は、今までの男が女にしてきたように、仕事に就けない「弱者」の男性を扶養すべきであり、男性にも専業主夫ルートが用意されるべきだと言っている。
そこを押さえないで、女性の権利ばかり主張するのは「弱者」男性を切り捨てた「女性優遇」にしかならず、そうしたフェミニズムに対してバックラッシュが起こるのも当然ではないかとの見方。
これに対していろいろと意見が出た。私が見たのは以下の通り。
共感はできても賛同してはいけない「『バックラッシュ!』を非難する(macska dot org)……フェミニストからの反論(それに対する反論
順番が違う(kmizusawaの日記)……女の問題に取り組んできたのがフェミニズムだから、男は男でやったらどう?という提案
本当に抑圧されているのは誰か〜「フェミニズム」と「ジェンダーフリー」は別物なの?〜(純粋なココロ2.0)……社会規範への抵抗としてフェミニズムを捉えれば、社会に順応できない弱者男性のジェンダー問題はフェミニズムのテーマになるべきでは?という意見
フェミニズムって二つの顔があるんじゃなかろうか(九尾のネコ鞭)……政治運動としてのフェミニズムと、学問、思想としてのフェミニズムとが、ごっちゃでわかりにくいという指摘


少し違う角度で考えてみたい。
普通の男なら普通に仕事に就けた時代が終わったのは、優遇された女が男から仕事を奪ったからではない。だったら無職や非正規雇用の男が同様の女よりずっと多いはずだが、そういう話は聞いたことがない。
若年失業者が増えてきたのは、景気が低迷した期間が長く、雇用状況が悪化したからだ。それでも、日本の失業率などまだかなり低い方だと言われている(フランスでは26才以下の失業率が23%)。ともかく日本の男性は世界的に見れば、就職に関しては今までは結構恵まれていたのである。


しかし(というかだから)、バカみたいな安賃金で、非正規雇用の労働者として働き続けるしか生きる道がないとなれば、誰でもうんざりはする。「男だったら普通に職に就けたはずなのに」と思ってきた日本の男なら、尚更だ。
そこで、稼いでいる女(自分一人を食わせるので精一杯じゃダメなので、都市部なら最低年収500万くらいは必要?)と結婚して、家事一切を引き受ける代わりに食わせてもらおうという発想が出てくる。
それはこれまで、仕事に就けない女、就きたくない女、あるいは就かなくてもいいとされた女が選んできた道である。その道を、構造的に生み出された「弱者」の男が、フェミニズムの「男女平等」というかけ声を逆手にとって「強者」の女に求めた。当事者の切実感と怒りが共感を呼んだのか、件のブログ記事には多くのブックマークがついた。


ここでまず考えねばならないのは、女なら誰でも「強者」の男の結婚対象になったわけではない、ということである。そこには、条件がある。
もし「強者」の女性との結婚を現実的に考えるなら、専業願望の独身男はそれを参照しといた方がいいと思う。


ではこれまで「強者」の男は、稼ぎのない「弱者」の女を結婚相手に選ぶ際、何を求めてきたか? 
第一に、若くて美人で健康であること。
次に、料理が上手くて並以上の家事処理能力があること。
更に、夫関係の社交をそつなくこなせる程度にバカでなく、性格は明るく控えめで、経済観念はしっかりしており、夫に頼らず子育てできること。
これが古今東西変わらぬ「いい嫁」の条件(これ以外に、ハイソな趣味や教養が求められることもある)。
実際、「いいとこの奥さん」はだいたい美人である。そして、『家庭画報』に出て来るようなキッチンで長たらしい横文字の料理を作ったりしているものである。だから「いいとこ」にお嫁に行きたい女は、以上の諸条件をクリアできるよう花嫁修業をしてきたのだ。今でもしている。美容も料理教室もテーブルマナーもすべて、セレブ主婦への道。
「気だてのいいしっかり者の別嬪を嫁にしたい」。専業妻を求める男の心は、今も昔もそう変わらないはずである。


ということは普通に考えて、稼ぎのある「強者」の女と結婚して主夫になりたい男は、「いい嫁」と同じ条件をクリアしないとならないということだ。
つまり、若くてイケメンで健康で、家事処理能力に優れ、妻を立てることができ、バカではなく、性格は良く、無駄遣いはせず、子育ても安心して任せられる(子どもが欲しくない場合は別)という条件を。もちろん専業妻と同様、"夜のお務め"もきちんとこなすことが求められるだろう。
専業主婦をひっくり返した専業主夫とは、家事万能のホストである。

究極の「男女平等」

で、実際のところ「強者」の女は、便利なホスト、いや専業主夫を求めているかどうか?ということである。
年若いイケメンを恋人にしたい女は多かろう。しかし、主夫の需要は低そうだ。
たとえば、年収450万(圧倒的な「強者」ではないが、女性の平均年収からすると約二倍)の未婚の女性で、結婚しても仕事を続けたい人がいたとする。彼女の理想の結婚は、「共稼ぎで、家事はできるだけ分担」であろう。相手には、自分と同等かそれ以上の収入を求めるだろう。無収入なんてもってのほか。だって生活レベルを落としたくないから。
今の状態をキープし、できればもっと豊かになりたい。ここまで頑張ったのだから、これより下に落ちたくない。年収がいかほどであろうと、男でも女でも、そう思わない人はいない。


従って、今よりちょっと経済的余裕がなくなってもいいから、専業志向の彼と結婚したいと彼女に思わせるためには、彼によほどの魅力がないとダメだ。
絶対に他の女には渡したくない、私が一生養ってでも傍にいてほしいと思わせるだけの魅力。
家事という慣れれば誰でもできることではなく、そこにいるだけで癒されるとか(ペットでも代用できるが)、イケメンでむちゃくちゃ性格が良くてマッサージが上手くてセックスの相性もぴったりとか。少なくとも、専業主夫として優秀な程度では難しい。


‥‥と、ここまで書いて、私は極めて「男女平等」で且つ、どう頑張ってもまともな仕事にありつけない専業志向の男にとって、理想的な状況を思いついた。


かつては、男がほとんど経済「強者」、女のほとんどが経済「弱者」であり、多くの男が結婚して妻を養っていた。
逆に言えば、一部の女を除いて大半の女は、仕事に就いても自活していくのがやっとで、雇用条件も劣悪だったので、いずれ結婚しなければならなかった。子育てするにはそれしか道がない。
一方の性が労働市場をほぼ独占していれば、もう一方の性は結婚して家庭に入ることになる。専業主婦はそうして生まれたものである。


従って、本当に「男女平等」にして、若い「弱者」男を救済しようとするならば、まず状況を完全に逆転せねばならない。具体的には、バックラッシャーが「女性優遇」だと糾弾するところの状況を、更に加速させる。そして逆男女格差を作る。雇用も昇進もすべての待遇が「女性優遇」。
するとやがて男は働く気力をなくし、女の多くが社会的経済的「強者」に、男の大半が「弱者」になるはずだ。つまり、専業主婦が大量に生まれた時代とは正反対の、「女社会」ができあがる。
そうなると、「強者」と結婚できる女は激減し、稼げる女と稼ぎが悪いか仕事のない男が大量に出現し、結婚したい勤労女性は必然的に「弱者」の男を養わねばならなくなるだろう。
「弱者」の男にとっては、外見アップと花婿修行さえ励めば、"玉の輿"はよりどりみどりである。
メンズ「ゼクシィ」が売れ、男性向け美容産業が活性化する。
専業になりたくない、あくまで経済的自立にこだわる男は、「女社会」の中で逆風に逆らって、男性の正当な権利獲得のために闘って頂く。
一旦こうなって初めて「男女平等」になったと言えるのではないか? 
いや、フェミニズムもそこまでは言っていないと思うが、「弱者」の男にとっては専業コースを選びやすくなるのだから、理想的ということにはなると思う。


だいたい、男一人養えるくらい「強者」の女の数が、男と比べて相当少ない今の時点では、やっとの思いでそのポジションを獲得した女に「主夫やるから結婚して」と言っても無理。
そういう、仕事ができて知性も教養も高く”自分磨き”なんかも怠らない女には、近くにいる同じようなタイプの男が既にアプローチしている。男の方は仕事だけでなく、普通に家事なんかもできたりするし、女の仕事にも理解がある。「美人キャリア妻」も、「強者」男のステイタスの一つ。
結局、何もかも持ってやがる同志でくっつくことになっているのだ。そこに「弱者」の出る幕はほとんどない。出る幕があるとすれば、経済的には「強者」になったが恋愛・結婚方面では「弱者」だったような女へのアプローチ。
稼ぎがあっても、ブサイクだったり男受けしない雰囲気だったり男に縁のない環境だったりして、結婚していない女性はいるだろう。でも結婚願望は捨てきれてない女性。歳は既に四十近いくらいの。


若くて仕事にあぶれて困窮している男は、そういう年増女と結婚して主夫をやってみてはと思うが、どうか。
そんなのやだ? ワガママ言うんじゃない。
少数の若くて奇麗な「強者」の女は、「強者」の男に独占されているのだ。しかも「強者」の男は数に任せて、「弱者」の女のいいとこもかっさらっていく。理不尽だと思うなら、「弱者」で団結して「強者」の男を倒せ。それが無理なら大人しく婿に行きなさい。結婚したくてもできないまま歳をとってく男もいるんだから、多少のことには目を瞑らねば。


相手の男がブサイクでも傲慢でもオヤジでも、嫁がねば生活に困る女は、昔からそうしてきたのである。
金さえ稼げれば、男はなんとか嫁はもらえた。そういう男に「弱者」の女は従って、黙々と家事と子育てと"夜のお務め"をやってきた。社会の底辺で一人で生きていきたくなければ、そうするしかなかったのだ。
「弱者」の男が専業になりたいなら、そういう選択もありではないか。「男女平等」ということで。




ちなみに夫は、20年以上続けてきた仕事に疲れ、この数年はだんだん限界に近づいている。時々、見るも気の毒な状態になっている。できるものなら私がもっと稼げるようになって「強者」になり、彼には仕事を辞めてもらいたいと思う。
「もしもそうなった場合、専業やる気ある?」
と聞くと、
「喜んでやる」
とのことだった。
全然期待してない声だったけど。