続・テレビとジェンダー論(後日談)

内容証明郵便とアポなし訪問

女性向け情報番組の特集にジェンダー論講師という肩書きでコメントを寄せたのに、まったく不備な紹介をされたので頭に来て抗議したら、制作スタッフに「ちゃんと紹介する予定だったけど、ナマなので時間不足になっちゃった、ごめんなさい」と謝られ、テレビだからしょうがないのかと諦めかけたが、後で送ってもらった最終台本を見たら、「ちゃんと」も何も、最初からジェンダー観点が入ってないことがわかり、怒り再燃(詳しくは7/2の記事参照)。


要は、番組スタッフの誰も、「ジェンダー論講師にコメント依頼した」という事実を重要視していなかった。ジェンダー論のジの字も頭になかったんで、私のコメントも読めてなかった。そんなとこだと思う。
単にいろんな「ムカつく女」の例を出して、専門家の言葉を散りばめて面白可笑しく料理すればいいかな程度に思っていたのだろう。
ところがコメント取ったジェンダー論者から思いがけず文句が来た。なんか憤慨している。ありゃ、厄介な相手を怒らせてしまったのか? で、ひたすら謝り倒してコトを収めたと。


そこで私が感じたことは、現場のスタッフの人にいくら抗議しても仕方ないということだ。向うはただ、事態を穏便に収拾したいばかり(私の立場は無しのままで)。
ではどうするか? もっと上の人に直接訴えるしかない。相談した知人にはそう言われた。
私もこのまま引き下がり、悶々とした思いを募らせているのは精神衛生に悪そうなので嫌だ。それで、テレビ局の報道制作局長宛に、内容証明付き郵便で「事実関係を調査し、責任の所在を明らかにし、どうやって私の名誉回復をしてくれるのか文書で回答して下さい」という通知書を送ることにした。


内容証明郵便というのは、クーリングオフや借金の督促や慰謝料請求などの際によく使われる。そういう通知書を出しましたよという証拠が郵便局に残るので、そんなの受け取ってないと言い逃れすることができない。
つまりそれが来ると、ちょっとギクッとしてかなり心理的なプレッシャーがかかる種類のものである。書式は細かく決まっていて、手続きにも少し時間がかかり、料金も普通郵便よりかなり割高。


内容証明郵便の書き方はネットで検索してわかったのでいいが、テレビ局に電話して報道制作局長常務取締役の氏名を聞き出すのが一苦労だった。
理由を述べたら根掘り葉掘り経緯を訊かれ、2回人が替わり、「ちょっとお待ちください」を4回くらい言われ、「改めて担当者を謝罪に行かせます」で話が終わりそうになるのを粘って、30分くらいかかってやっと教えてもらえた。
これではかばかしい回答がなければ、知人に頼んでしかるべき関係団体に話を持ち込んでもらい、何らかの公的アクションを期待する(右翼じゃないよ、ジェンダー論関係)。
別にテレビ局を敵に回したいわけではないが、個人でワーワー言っても何も聞いてくれなかったら、そうするしかない。
私は訴訟を起こすことまではしたくないのだ。エネルギーも手間も時間も取られたあげく、どうせ数十万の和解金もらって終わりだ。その手の和解金なんて、テレビ局にとったら端金である。


で、先週火曜日に通知書を送ったその3日後の夕刻。インターホンが鳴ったので出たら、テレビ局のプロデューサーだった。
「回答書をお持ちしました。それに直接お詫びもしたいので参りました」
普通そういう文書は郵送するものだ。それに、私が通知書に書いた期限は7月いっぱいである。調査して対応策を考えるのに、そのくらいかかるだろうと思ったのだ。3日後なんて早過ぎる。
しかも突然来るってどういうこと。カーテン越しにちらっと玄関先を伺うと、三人も男性が立っているではないか。
そしてその時、私はお風呂から上がったばかりで、バスタオル一枚だった。
「すいません、今取り込み中なので、ちょっと出て行けません。回答書はポストに入れといて下さい」
とインターホンで言った。名古屋からこんなとこまで来てもらって門前払いは悪いと思ったが、事前の連絡もなく来るのは非常識である。
それにあまりにも対応が早いのが、なんかあやしい。
男三人でいきなり押し掛けてくるのも、なんかこわい。


しばらく経って外に出たら、門の柵に大きな菓子折りの袋がぶら下がっていた。
名古屋では有名な和菓子処、坂角のお煎餅であった。

パート2の提案

回答書の半分は、私の予想していた通りだった。
番組スタッフ側にあったのは「女性の行動心理についての分析コメント」という認識だけで、ジェンダーについての見識は欠けていたので、私の念押しにも関わらずコメントのポイントを意識できなかった、とあった。
しかしそう書いて謝罪しているのに、台本には「キーワードを明記」したなどと書いてある。なかったって、そんなの。そっちの考える「キーワード」は、ジェンダーについてのところじゃない枝葉のところだっての。


しかも、私の名前の字が一字間違っている。ほかにも誤字が一カ所ある。よほど急いで作成したのだろう。
報道制作局長の名前で来ていて印も押してあるが、私の内容証明郵便、本当に局長本人に届いてたのか?
私の電話でそういうのが来ることがわかってたので、下の方で止めて慌てて回答書作っちゃったとかじゃない? 
いや、内容証明郵便を受け取るには本人の捺印が必要だから、そんなことはないはずだが、誤字といい、アポなし訪問といい、対応がバタバタ慌て過ぎな印象。
最後に、今後こういうことのないよう、指導を徹底するとあった。そして、この企画の「パート2」の放送を検討するので、再度協力してほしいと書いてあった。そこで、今回入れられなかったジェンダー的観点を踏まえると。それが、「私の名誉回復を」への回答らしい。


はっきり言って、その回答書は責任の所在を明らかにしていない。電話でスタッフが謝った内容と、私が文書で指摘した内容の繰り返しである。そして「もう一回言われたようにやるから、それで勘弁して」。そう言っている。
さあ、これを信用するべきか、疑うべきか。素直に乗るべきか、つっぱねるべきか。坂角の煎餅は開けて食べていいのか、送り返した方がいいのか。
こはちょっと悩みどころ。


こんな誤字だらけの回答書じゃ納得できない、会社として誰かに責任を取らせろ、担当者に謝罪文を出させろ、などとゴネることもできるだろう。
しかし、それで私は何か得るものがあるのだろうか?とも思う。自分がいい加減に扱われたということの恨みを、ただ晴らしたいだけにならないか。
ゴネればゴネるほど、向うは「厄介な奴に頼んじゃったな」「ジェンダー論の人って始末に負えないな」「もうジェンダー関係はタッチしないってことで決定」、そういうふうにならないか。
ともかくトラブル回避。地雷は避けて通る。それがテレビ局の現場の方針だということは、今回の経験ではっきり感じている。


考えた末、私は番組スタッフの申し入れを受け入れることにした。
「バカなテレビの犠牲になっちまった」と不毛な怒りを燃やし続けるより、向うの示した提案を前向きに受け入れ、少しでもこっちの言いたいことを伝えられるチャンスに乗った方がいい。回答書に関する迅速過ぎる行動は、一刻も早く問題を解決しなければ(という姿勢を見せなければヤバいことになるかもしれん)という現場スタッフの危機感の現れである、と思うことにした。


とりあえず、また報道制作局長宛で、今回の企画の「女性の行動心理の分析」にジェンダーは欠かせない視点であること、台本通りにやれればよかったようなことが書いてあるが、それでもダメだったんだということ、パート2は充分な打ち合わせをした上で出演できるのなら協力するということを書いた。
同時に、同じ文をプロデューサーに当ててメールで送った。たぶんあの回答書を持ってきたプロデューサーが、文面を作った人のはずだから。


今日、制作部長とプロデューサーと木曜担当の人と、名古屋で初めて会った。
三人の人に同時に謝られるという経験が、私はない。テレビ局の人は、頭を下げ慣れているのだろうか。こちらの口を挟む暇がないほどの謝罪の嵐。
それにしてもなんだかなと思うのは、責任者がみんな男性だということだ。奥様情報番組で、テーマは「女がムカつく女」なのに、電話でもメールでも打ち合わせでも、出て来る人はみんな男。そのへんからしてなんか少し間違ってるような。


その後、パート2の話を聞いた。これからすぐにアンケート調査にとりかかり、放映は9月初旬予定とのことである。一ヶ月かけて作るということだ。
渡されたレジュメには、打ち合わせの予定が何回かあった。そして出演と共に、特集全体の監修に参加を要請された。
それなら思惑と全然違うことにはならないだろう。よほどのハプニングがない限り。
テレビ局の人は、本当にジェンダーについてあまり知らないようだったので少し話した。
「男女平等」とか「男女共同参画」とかはよく聞くが、正直なところ、視聴者は耳タコな言葉である。そういう切り口でないところからカジュアルにジェンダー分析するものだったから、あの企画は面白いと思ったと伝えた。それから、
「男女の言動の違いってこんなとこでひょっこり出て来ますよねえ」
「そうですね、実は私も‥‥」
という雑談に。本来、こういうレベルから打ち合わせをするべきだったのだ。たぶん向うもそう思っていたんじゃないかと思う。


‥‥といういうわけで、去る6月29日の東海テレビ情報番組『ぴーかんテレビ』における、「それのどこがジェンダー論?」の誤解と、「その人のどこが専門家?」の汚名は、放映から約二ヶ月後になんとか晴らすことができそうな見通しとなった。


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