褒めちゃダメ?

異性を褒めることの難しさが一部で話題になっていたので、例によって便乗してみようと思う。
異性愛者が異性を誉めると恋愛感情を持っていると勘違いされやすい問題がある限り、異性を誉めるのは難しい(kanose氏)
日本の男女が異性を褒めない理由(pal-9999氏)
異性の何を褒めるのかということがはっきりしてないが、仕事のできる人の仕事ぶりや、特別親切な人の親切ぶりを褒めても、それは当たり前のことで、わざわざ恋愛感情の表明とは受け取られないだろうと思う。
たとえば、kanoseさんにいくら
「議論のまとめが上手いですね」「いつも冷静でいらっしゃいますね」
と褒めても、変な誤解はされまい。またpal-9999さんに
「絵が上手いですね」「ギャグセンスありますね」
と褒めても、「それがなにか?」で終わりであろう。


褒め方でも変わってくる。リアルでは、皆のいる前で談笑しながら褒められるのと、二人きりの時に真面目な顔でボソッと褒められるのとでは、随分受ける感じが違うだろう。
また、その人のキャラクターでも変わってくる。わりとラフに人を褒めるタイプの人と滅多に褒めない人とでは、言葉の重みが違う。
普段異性に褒められることに慣れている人、つまりモテる人は、「ヤバい、これは恋愛感情の現れでは?」などといちいち動揺しないだろう。「私のこと好きなのね。はいはいどうも。あーまたモテちゃった」というふうに処理して、30分後には忘れている。
こういう人は、それがお世辞か本心からの褒め言葉かという腑分けも、経験と勘によって瞬時にできる。そして好意を持っている異性からの褒め言葉には丁寧に、そうでない異性にはそれなりに返し、その微妙な差をわからせてくれる。よく知らないがたぶんそうだと思う。


たまに異性に褒められることはあるという人なら、褒め言葉はまず普通に嬉しいのではないかと思う。
それがこれまで褒められたことのある点であれば、「や、ありがとう」という気分だろうし、それほど褒められないが自分ではまあまあ自信のあることであれば、「見てくれてる人は見てくれてるんだな」と感謝するし、褒められたことのない点を褒められれば「そんなところまで見てくれてたのか」と感激する。嫌いだった人でもちょっとは見直したりする。
褒め(殺し)言葉大サービスで「褒め」の価値下落状態を引き起こす「小悪魔」を苦々しく思う女性は、その辺を考えてみるといいかもしれない。
ともかく、あまり人の気づかないポイント、本人でさえ強く意識してないポイントを探し出されて褒められると、「この人はそこまで自分のことを観察していたんだなあ」と嫌でも思うことになる。
その結果、「もしや恋愛感情をもっているのでは?」と思われることも充分あり得る。「恋愛感情なんかではなく、ただちょっと関心があるだけです」と強弁しても、恋の始まりは関心からである。関心の表明は褒め言葉からである。


そもそも、誰かを褒めるという行為には、相手に自分の感覚や価値観を知らせると同時に、好感の持てる人だと思われたいという感情が含まれている。平たく言えば、相手から(自分も)褒められたいと無意識のうちに思っているはずである。
だとすれば異性を褒めたい感情は、ものすごーく薄まった恋愛感情だと言ってしまっていいのではないだろうか。
いや、気持ち悪いとか言わないで。「つきあいたいとは思わないが、関心はある」「ここだけは褒めたい」と思う異性がたくさんいた方が、その逆より楽しいし。


問題となっているのは、女性の褒め言葉に対し「俺のことが好きに違いない」との思い込みを激しくして、見当違いの対応を始める男性のようである。
異性に褒められることに全然慣れてない人は、ちょっと褒められると滅多に味わったことのない幸福感がすぐ不安に変わり、「この人はなぜ自分を褒めたのか?」「何か下心があるのか?」と疑心暗鬼になり、妄想が妄想を呼んでおかしな態度をとってしまうのだろう。
しかしこれが、異性に褒められ慣れている男性の場合だと、事情は違ってくる。
相手の褒め言葉にいつものノリで返していたつもりのところに、いきなり
「あんたのことなんか、別に何とも思ってないんだからね!」
といった態度を取られても、
「え、なに、どゆこと?」
という対応しか取れない。そして自意識過剰な勘違いは、その女性の方だったということになりかねない。


男性はもともと「社会的評価」という形の「褒め」があったから、日常的褒め言葉などはむしろ男性から女性に向けられる「エチケット」だった。「社会的評価」の恩恵に預かれない女性は、その代わりに男性からの褒め言葉によって自己評価していた。女性同士の褒め合い合戦も活発だった。
ところが社会的位相で男女差が縮んでくると、異性への褒め言葉は過剰に深読みされるようになる。
文化のせいもあるかもしれない。
昔イタリアに旅行に行った時、店などに入っても通りすがりに道を聞いても男の人があまりに愛想がいいので、「ついに私もモテ出したか!」と思ったが、それは「女と見れば愛想よくしとけ」という伝統文化なのだった。
一方、私の夫は女性に対してまったく愛想というものがない。上手な褒め言葉も知らない。たまにこちらが褒めると、「どうしたんだ。なんか奢れということか」などと身構える。たぶん典型的な日本人男性だ。


ということでまとめに入ると、kanoseさんに
「ヘボメガネさんより「いい人」な感じが、文章からひしひしと伝わってきます」
と言ったり、pal-9999さんに
「あなたこそ女性の真の味方であり理解者です」
と言うと、大層驚かれて「これは‥‥恋愛感情を持たれているのではないか?」と警戒される畏れがあるので、言わない方がいい。
私にはどんな突拍子もない褒め言葉を言って下さっても絶対に誤解しませんので、大丈夫です。「既婚者は誉めても、あまり勘ぐられない」とkanoseさんも追記に書いておられるし(そういう結論)。