結婚と経済

収入と家事

また個人的な話だが、結婚当初、夫と私の収入は同じくらいか、若干夫が多めといったところだった。毎月給料明細を見せ合って、勝ったの負けたの言い合っていた。
その後、数年の間に大きく差をつけられた。自分の方はほとんど変化なしで、相手の仕事が忙しくなったのである。私は制作活動のため仕事を一定にセーブしていたが、彼は拘束時間も家での仕事の時間も急激に増え、家事は全面的に私がやることになった。
今、私と夫の年収比率は約2:5、労働時間(家での仕事も含む)の比率は年間でならして約1:2、家事の比率はだいたい4:1。
私としてはもうちょっと家事に協力してほしいところだが、仕事に対するストレスは、私と夫ではおそらく1:3くらいであろうと推察されるので、そのあたりを鑑みてあまり文句は言わない。


うちの場合はどちらも非常勤だが、共働きの40代で私のところのような夫婦は、わりあい多いのではないかと思う。夫が正規雇用で妻がパートだったりすれば、年収に差が生じる。もちろん正規雇用でも職種によって、当然給与は違ってくる。
稼ぎの多寡は家事労働の配分に響くもので、男性の収入の方が高く拘束時間も長ければ、女性が家事の多くを引き受けることになる。場合によっては、拘束時間はそう変わらないのに妻にだけ家事の負担がかかっていることもあるだろう。
いくら稼ぎが少ないからとはいえ、実質労働時間は変わりなくその上家事全般が自分の肩にかかってくれば、女性に不満が溜まるのは目に見えている。たまにプレゼントなどもらって騙された気になっていても、負担が軽減されるわけではない。
だから結婚後も仕事を続けたい女性は、相手が家事に協力的かどうかを真剣に検討するのである。


最近、フルタイム労働者の男女の収入格差は、やっと10:7まで縮まってきた。34歳以下の単身勤労者に限って言えば、男女の平均所得差は2003年の段階で約10 :9。度々改正された均等法の御陰だけでなく、女性の高学歴化が進んだこと、どの分野も能力主義が行き渡りつつあることなどが原因だろう。
にも関わらず、男性が結婚相手の収入をそれほど問題にしないのに対し、女性にとってはそれが重要な懸案事項となっているという話は至るところで聞く(私の授業アンケートでも毎年そうした結果が出ている)。
自分より経済力の低い男性でもいいという女性は、かなり肝が座っているか、純愛に生きているか、平均男性に勝る経済力を持っている人と看做される、と言ってもいいくらいだ。

上方婚と下方婚

女性がいつまでたっても「上方婚」を望む傾向が強い理由は何か。なぜ、男性に依存しなければ食べていけなかった時代の姿勢を、21世紀になってもそのまま温存させているのか。
理由はいろいろあるだろうが、性本能云々というところに落としこまずに考えられるのは以下。


1.育児休業問題‥‥「子どもが幼少時は母親が家にいるのが望ましい」という考え方が根強くあるため、女性が働き盛りの頃に、育児で仕事を一定期間中断する、あるいは正規雇用からパートなどに切り替える場合が多く、その分失われる収入を男性に求める(非正規雇用者の三分の一は既婚女性)。
2. 消費志向問題‥‥独身時代と同じか、より潤沢な消費生活を求めている(特に美容、服飾関係。結婚後もできるだけ長くキレイで若々しくいたい)。
3. 「下方婚」問題‥‥男性は女性に、社会的属性(収入や地位)より容姿を求める傾向がある。


結局、1、2、3とも、ジェンダー規範に関係する問題である。
自活していくのも困難なパートタイムの女性が、自分より「上」の男性を求める気持ちはわかる。が、もし収入の比較的高い女性も同世代の男性と大差ない女性も、結婚相手が自分以上でないと妥協できないとなると、ごく大雑把に考えて、平均的な収入の男性の半分と低収入の男性の大部分は相手にされないことになる。実際、非正規雇用の若年層は経済的理由で結婚を避けているし、「できちゃった婚」しても親の援助が必須だ。
98年の厚生白書で紹介された「新・専業主婦志向」も、まだ衰えていないように思われる。
「どうせ男社会だし女が同じように頑張ってもしんどいだけなので、高収入で家事も手伝ってくれる男性と結婚して、子どもの手が離れたら趣味的なお仕事をしたい」とするこのような若い女性(私の授業の学生の中にも一定数いる)は、ある意味で「正しい」だろう。この「正しさ」は、1、2、3を全面的に「正しい」とした上での「正しさ」である。


だからそれを批判するに際しては、「結婚を望むすべての男性が、相手に容貌より就労者であることを優先的に求め、尚かつ家事育児を積極的に分担するようになる」という、男性のジェンダー規範が崩れる見通しか、「全体的な男女収入格差が解消され、育児休業制度と保育所が行き渡り、1人で子育てできる環境が整って結婚のメリットがほとんどなくなる」という、結婚制度が事実上空洞化する見通しを述べねば、彼女達は納得しない。結婚制度前提でも否定でもフェミニズムの主張を採らない限り、"身の程知らず"なセレブ主婦志向の若い女を批判することはできない。
ということで、「女は男の金にたかるハイエナだ」とか「女は男を搾取、抑圧している」とお怒りの男性の皆さんは、一度フェミニストになられてからモノ申してみてはどうかと思う。説得力は保障しないけど、ミソジニスト呼ばわりされることはないでしょう。


●参考資料
平成17年版国民生活白書「子育て世代の生活と意識」
「上方婚」と「下方婚」
厚生白書(平成10年版)



●ブクマに反応(抜粋)
Blue-Period さん 「パートタイム」とか「フルタイム」の定義も細分化したほうがいいよなぁ  *パートタイムは非正規雇用、フルタイムは正規雇用の意で使ってます。これ以上の「細分化」はよくわからない。
tomo-moonさん 流石に出産してから数年間は育児(家事)に専念していたい。  *という女性は一頃より増えているようです。再就職がスムーズな人ならいいのではないかと。
PANZIGさん 女性の経済的地位の男性との対等化と男性のジェンダーロールからの離脱がタイムラグなく出来たらこんなに揉めることはないのに、と常々思う。  *うまくいかないものですね。若年層に少し期待。
morutanさん 本当に「ジェンダー規範の変化」によって経済的な格差は解消されるのだろうか?  *最終的には効率主義の経済構造が変わらないと難しいと思います。
keijisさん 「一度フェミニストになられてからモノ申してみてはどうかと思う。」、これがそういうことを主張する男性にメリットがあるなら、説得力があると思うんだけど。現実的にはほとんど無いような・・・  *すいません、あそこは皮肉です。メリットは別にないでしょう。
bluedeさん 男女双方の非対称な事情をバランスよく書いているという姿勢が伝わらないことにはなかなか説得は難しいと思う。  *これで「全面的に女性寄り」の姿勢に見えると言われるとかなり困りますが、最後の「女性にお怒りの男性」を説得しようとして書いているわけではないです。無駄だと思うので。
tfjさん フルタイム労働者の収入増加は雇用のパートタイム化の効果も含まれ得るので要注意。平成不況中に女性の経済条件は悪化したという研究もあり。  *フルタイム労働者について。女性の実質所得は緩やかに上昇している 男性の実質所得はやや減少している フルタイム労働者の減少に伴ってパートタイム労働者は増加している関係で、男女とも全体的には平均所得は伸びていません。