「そんなに金欲しいの?」

数年前、30代の公務員の男性に「ジェンダーの授業って何教えるの?」と訊かれて、いろいろ話していた時のこと。わりと通り一遍の話しかしなかったと思う。
男性が言った。
「今、女の人は選択肢が増えたから、かえって大変だよね。昔だったら結婚して主婦になることが多かったじゃん。だからそう疑問ももたずに済んだわけ。でも今は一生仕事をする道もあるし、結婚しない道もあるし、専業になる道もあるしさ。女の人は迷うよね」。
何が言いたいのかなと思いながら、私は答えた。
「選択肢が増えたからいいんじゃないの? っていうか、男が金を稼いでいるなら、自分もと思うのってわりと普通じゃない?」
「でもさー、なんか金稼ぐことがカッコいいことみたいに煽り過ぎたところもあるんじゃないの? フェミニズムが」
「働く女性がカッコいいみたいな言い方は、もう過去のもんでしょ。今じゃ女の人でも仕事持たないとなかなかやってけないよ」
「旦那の給料だけでやってる人だっているじゃん」
「やっていける人はいいでしょうよ。それに、やっていけてもやっぱり仕事したい人だっているでしょ」
「そんなに金欲しいの?」
彼は薄ら笑いを浮かべていた。私はそれ以上話す気をなくした。


生きるために金が必要だから仕事が欲しい。
できれば自分の学んだことを活かせる仕事が欲しい。
それがなければ少なくとも普通に生活できるだけの仕事が欲しい。
自分が稼いだ金で欲しいものを買いたい。
最低限のではなく少しはゆとりのある生活をしたい。自分の力でそれをしたい。
女はそういう欲求を持たないものだと思っているのだろうか。
そもそも働かないと生活が成り立たない女性がどれだけいるか、知らないのだろうか。
一生安泰な公務員だからわからないのか、単に無知で無神経なのか‥‥どっちだったのかな。