「合コン」はやめよう

査定の恐怖

「合コンに参加して相手を見つけるというような合目的っぽい行動は、自意識がジャマしてできません。棚からボタ餅ってないの?」(乱暴な意訳)という草実さんの記事と、それを取り上げたショータさんの記事、そして「合コンはいけないことですか?」という羽天使さんの記事を読んで、合コンについて考えてみたい。


そもそも合コンっていつ頃から始まっていたのかと思い調べてみたら、こんな資料があった。
合コンの歴史
合コンライブラリー
70年代の後半から80年代にかけて、大学生を中心に合コンが盛んになっていったと。
ふむ。そう言えば私もあの頃は、毎週のようにあちこちのクラブやカヘバーで、慶応上智青学成蹊の大学生との合コンに打ち興じていたものよ。男子の三人に二人はポロシャツの襟立てていて、女子はサーファーカットが多かったね。化粧品代と服代に金がかかってしょうがなかったわ(遠い目)。


‥‥‥すいません、ウソです、大ウソ。
合コン、一度も行ったことがありません。
誘われたこともありません。
身近で合コンが行われているという話を聞いたこともありません! 


それはあんたの耳に入ってなかっただけではないか? 
いや、私のような合コン処女は、その当時アート系女子ではわりと普通であった。他大学との合コン(というか交流会?)はサークル単位ではあったかもしれないが、相手は同じ大学内で見つける人が多かったし、大学が違ってもやはり美大生同士で、予備校時代からつきあっていたり、大学祭で仲良くなったり、友達のグループ展で知り合ったり‥‥みたいなパターン。
例外として、古美術見学旅行時におけるナラジョとの合コンという風習(おそらく東京美術学校時代からの悪しき伝統)はあったが。


もし万一間違って、人数合わせのために合コンに誘われたとしても、行かなかっただろうと思う。
行かないってより、怖くて行けない。理由は二つある。


第一に、合コンは異性として比較され査定される場である。それにはまず、査定に耐えうるだけの「外見資本」が必要である。
資本の多寡を、初対面の男性達に0.1秒くらいで判断され、「順位」をつけられるのである。人数合わせ要員の私などまず最下位だ。そのハンデを、いったいどこでどうやって挽回したらいい。そういうことを考えただけでも脚がすくむ。
羽天使さんのように、「行ったことがない」けど「需要と供給の釣り合った恋愛イベントでいいじゃん」と涼しく言ってのける余裕はなかった。だってその需要と供給の枠組みから、自分が真っ先にこぼれ落ちることはわかってんだもん。
雑誌JJに出てくる「私たちの合コンファッション」の女子大生を見て、自分とは種類の違う生物だと二十歳の私は確信していた。


第二に、合コンとは他人と競って異性を獲得する行為である。闘争心と的確な判断力、素早い行動力が必要だ。
深追いすれば道を誤り、二頭追う者は一頭も得ず、逆に獲物に喰い殺されることもあろう。そんな弱肉強食の厳しい世界に、進んで入っていけるわけがない。狩猟民族でもなければ無理。
いや、本物の狩猟ならまだいい。合コンは、あらかじめ川に鮎を放流して釣らせるようなものである。というか、釣り堀だ。
そもそも、恋愛のために集団行動を取るという形式がわからない。
恋人って普通、一対一の関係でしょう。とりあえず自分と相手以外は、どうでもいいはずじゃないですか。なぜ、4人も5人もぞろぞろ連れ立って行かねばならないの。相手も同人数だから、下手すると10人にもなる。10人も人がいてどうやって話をすればいいの。しかも半分は初対面だし。
そのあたりで思考停止になる。


多人数の中で最初に会話をリードするのは、まあ大抵男性だろう。その話に合わせながらも、みな虎視眈々とめぼしい物件の動向を見張っているのである(行ったことないので想像)。その物件が誰を一番気にしているか、自分のことはどう思っているか、顔に笑みを貼付けたまま、仕草や発言や目線から読み取らねばならない(想像)。そつのない受け答えをしながら、ライバルたる同性の動向にも気を配らねばならない(想像)。
そんな器用なことができるか、聖徳太子でもないのに。


お酒を飲みながら、表面は笑顔で水面下では熾烈な駆け引きというのが、私の一番苦手とするところだ。それも仕事だったら仕方ないが、合コンの目的は恋人獲得である。
もし憎からず思っている異性がいて、その人とどうしても付き合いたいと思っていたら、どんなこともしよう。ええしますとも。
でもそうでなかったら、物欲しそうな顔してのこのこ出ていくのは厭だ。のこのこ出て行って惨めな気持ちになるくらいなら、最初から単独行動をとる。単独行動で自爆する方が、合コン査定に耐えるよりマシ。

ノリの違和感

結局のところ、この無駄なプライドの高さと、自信のなさと、恋愛を必要以上に特別視する心性が、すべてのネックだった。
その裏返しで、合コンしている男女をバカにしていたのであった。


学生時代、周りに狩猟民族は少なく、定住型の農耕民族が多かった。恋愛も、畑を耕し種を蒔き、肥料をやり雑草を取り、ジワジワ育てるタイプ。
だいたい普段の格好がツナギとか首にタオルとか、農民と同じである。
飲み会も多かった。一つ課題が終わると終了コンパ。近くで酒を買って来て、作業着のままでアトリエでコンパ。農民の男女が収穫祭をしているようなものだ。
気心の知れた農民同士で仲良くするのはらくちんだ。くっついた離れたも村の中の出来事。
大学を出たところで、村がちょっと大きくなっただけで、基本は同じである。せいぜい隣村(音楽とか演劇とか映画とか)に遊びに行くくらい。展覧会のオープニングパーティやライブや公演の打ち上げなど、飲み会には事欠かない環境だったが、合コンは聞いたことがなかった。


こうして合コンにネガティブイメージを抱いていた自分が、一層それを確信するようなこともあった。
昔、ある飲み会の席でのこと。参加者の年齢は二十歳過ぎから三十代半ばで、男女比は6:4くらいだった。
男女混合の飲み会と言ってもワーキャー楽しそうなものではなく、あっちで三人がガヤガヤ議論しているこっちで三人がボソボソ喋り、後の人はガヤガヤとボソボソを交互に聞いていて時々口を挟み、一人くらいが途中から酔いつぶれて寝ているといったもの。
そこに、誰かの高校時代の友達だという若い会社員の男性が来た。初対面なのにえらくテンションが高く、つまらんギャグを連発して、リアクションがないと
「あれれ?スベった?皆さん飲みが足りないのかな?」
とか言う、そういうタイプ。二言目には
「さすがゲージュツ関係の人は違いますねー」
私達はすっかりシラケてしまった。
そして案の定彼は、いつのまにか一番若くて別嬪な女の子の横に陣取って、その子を笑わせようとやたら身振り手振りで喋りながら、どんどん酒を飲ませていた。ああこいつ、ここを合コン会場と間違えてるよ‥‥。


飲み会終了後、その場違いな奴の友達だという男子は、
「なんであんなのを誘ったの?」
とみんなに責められた。
「どうしても一回来たいって言うから。昔はあんなじゃなかったけどなぁ。いや大学時代はほとんど会ってないんでわからん。ごめんもう二度と誘わない」
推測するにその人は、大学、社会人と合コンをやりまくって、妙齢の男女が混合の酒の席は、みな合コンに見えるようになってしまったのではないかと思う。向こうにしてみれば、なんでこいつらこんなに暗いんだと思っていたかもしれないが、それにしてもベタなノリだった。
合コンのノリがどういうものだかは、私は実地体験がないので、ドラマ『やまとなでしこ』(2000)の第一話くらいでしか知らないけど。


やまとなでしこ』のヒロイン桜子は、大病院の跡継ぎのフィアンセがいるにも関わらず、もっと金持ちが見つかるかもしれないと合コンに精を出す女性だ。男性に家の近くまで送らせ見送った直後に、フィアンセが車で登場する。彼女が美人でモテるので、彼はいつもちょっと不安である。そこでこんな会話があった。
「誰かに送ってもらったの?」
「ううん、お友達とちょっと」
「そう。いや、僕も君と合コンで知り合ったから、それでつい‥‥」
「ありえないわ。合コンって恋人のいない人のするものでしょ? 私はあの時たった一人の人に出会えたの。あれが最後の合コンよ」(相手の目をじっと見つめる)
合コンは否定的に描かれている。最後に桜子と結婚する金持ちではない欧介は、最初は合コンで出会ったものの一旦振られ、最後に出会い直して結ばれるのだ。
合コンは女性にとって、金持ちの男性を獲得する場。「本当の愛」は、そこから離れた場所で生まれ育まれるのだというロマンティシズム。
この縛りがあるので、「恋愛はしたいけど合コンなんて‥‥」という人も出てくるのだろう。


さて、合コン未体験で結婚し、合コン処女のまま一生を終えそうな私であるが、最後に一つ提案したい。
もう「合コン」などという、バブルの匂いのするカビ臭い言葉を使うのはやめよう。男女合同の「合」は、男女がいろんな場面で棲み分けしていた時代だからこそ意味をもったのであって、今は相応しくない。ゴーコンという言葉の響きも美しくない。ゴーマン、ゴーカン、ゴーモン‥‥悪い言葉ばかり連想させる。「合」を取って普通に「コンパ」と呼ぼうではないか。
それでは、異性が入っているか同性だけかわからない? そこでいい案がある。
女子学生だけのコンパを、かつて「メスコン」と言った。コンパ(飲み会)は男子中心だったからだ。これを復活させればいい。
女性だけの飲み会は「メスコン」、男性だけの飲み会は「オスコン」、両者混じっているのは「コンパ」。どうでしょうか。
蓋を開けてみたらオス・メス比率がえらい不均衡でも、それはそれで味わいがあると思います。