buu‥‥

注意!お食事前の方とシモネタの苦手な方は御遠慮下さい


どうも私は、家族の前で平気でオナラをする男性と暮らす運命にあるようだ。
家族の前だったら普通じゃない? そうかもしれない。私も家ではオナラくらいはしています。相手も音出しでするので、私もちょっとくらいはいいやということで。それでもなるべく控えめにするようにはしている。
しかし男性は、わざわざ音を聞かせたがる人が多い気がする。父も昔よく豪快なオナラをしては、母や妹や私が「ちょっっとー!」と厭がると、ニヤニヤしながら「いい音だったろ?」と言うような人だった。オナラによるハラスメント。略してナラハラ。
夫もそうなのである。もちろん最初の半年くらいは、聞いたことがなかった。初めて音出ししてしまった時は、顔を赤らめて「あ、ごめん‥‥」「で、でちゃうものはしかたないし」。初々しかったな、あの頃は。しかし一回してしまってから後はもう承認を得たと思ったらしく、顔色一つ変えずにし放題。


それにしても男性のオナラというのは、芋ばかり食べているわけでもないのに、何であんなに音が大きく回数が多いのでしょう。腸にガスが溜まり易いようになっているのかな、男性は。
女性は男性より腸が長いらしいので、食物の摂取により体内で発生したメタンガスは、肛門に辿り着く前に腸壁から吸収されてしまい、オナラとして排出される頻度が低いのか。


夫の話によると昔は、予備校の授業中にオナラが出そうになるとわざわざマイクを尻のところに持っていって一発カマし、教室の笑いを取ろうとする悪趣味極まりない講師もいたそうだ。夫は小心者なので、そこまでして笑いを取る蛮勇はないようだが、私の前では平気だ。
慣れとは恐ろしいもので、少しは遠慮や恥じらいというものがないのかと呆れていた私も、三年目くらいからは気が向くと「今のはヌケが悪い」「もっと音域広げられないの?」と寸評するようになった。オナラをする夫がかわいいとすら思えた時もある。臭いについては‥‥何も言うまい。
今では、居間で本を読んだりテレビを見たりしながら、buuとかbuとかpusとか pu,pu,puとかbuppppとか毎回微妙に異なる音色、音程のオナラをする。それも片方の尻に重心をかけ片方を持ち上げて。明らかに積極的に音を出して人に聞かせようとしている。


しかし、昨晩のは最悪だった。


buu‥‥buch!


「なに今の !?」
「う」
「早くパンツ脱いで洗って洗濯機に入れてーっ」
夫は『シコふんじゃった。』の竹中直人みたいな変な前傾姿勢で洗面所に走っていった。
「あのねぇ、私にだって許せる音と許せない音があるんだよ」
「いい音出そうとして力み過ぎた。ボケツ掘った」
駄洒落言うな。


相手にオナラを聞かせて憚らない関係というのは、男女関係としてどうなのだろうか。
お互いの恥部を見せ合うという意味では、もっとも親密な関係とも言えそうだが、わざわざ恥部を見せつけるというか、聞こえよがしというか、おまえだから聞かせてるんだよ的な怠惰な馴れ馴れしさが鼻につくようになってきた今日この頃。


これは肛門期への退行ではないかという気がふとした。
フロイトは人のリビドー(性欲動)が段階的に発達するとして、乳児期を口唇期(母親のおっぱいに吸い付くことでリビドーを満たす)、2〜3歳頃までを肛門期(肛門括約筋を収縮させて排便することでリビドーを満たす)、4〜6歳までを男根期(性器に関心を示す)と名付けた。オナラも肛門からの排出行為であるから、それに執着を見せるのは肛門期に特徴的な症状に思われる。
「便は汚い」という意識が植え付けられる前の肛門期の幼児は、排便したものを「贈り物」として母親に与えたりする。母の話によれば、私も1歳半くらいの頃、オムツの隙間から転がり落ちたウンチを掴んで、「あい」とか言って差し出していたらしい。
オナラを私に聞かせようとする夫は、これと同じではないか‥‥。
互いにオナラを我慢していた頃が懐かしい。