こちら、ホタテのグリルになります

前の記事(わたし、あなたのこと好きになってもいいですか?)に、興味深いコメントがついた。一部抜粋して紹介します。

 当店のアルバイトは以前、「トイレを借りても良かったですか?」とよく聞いた。僕が冷たく「駄目だね」と応えると、『何という理不尽なことをいうんだ』というような顔をして、「どうしてですか」とむくれて聞いてくる。
 トイレを借りてもよいかどうか聞くということは、今それほどせっぱ詰まっていない状態で聞いているのだろうし、しかも過去形なのだから、それはもう終わったお願いなのではないか?であれば、今店の中がどんなに暇であったとしても、僕としては許可を出す必要がないと答える。そう応えられると、応答に窮するらしく、「どういう風にいえばいいんでしょう」と聞いてくるので、留めることのできない自然現象の制御を人に委ねるというのが間違っているので、現象の解決は、相手に丁寧な言葉で強制しなければならないのだから、「トイレを貸して下さい」というのが当たり前だと思うけどね、などと答えます。


カッコいい。尿意や便意を催している若者を前に、ここまで冷静なツッコミを入れられるのが。「言葉の使い方の講釈はいいから、いいよって早く言ってくれ〜」とアルバイトの人は思っていたかもしれないが、こんなふうに理路整然と返されてはすぐさま「トイレを貸して下さい」と言わざるをえないでしょう。


「トイレを借りても良かったですか?」は言われたことがないが、専門学校で授業中に「トイレ行っていいですか?」と言う学生は時々いる。実技の個人指導をそういう質問で中断されたくないので、最初に「トイレに行きたくなった人は黙って行きなさい。いちいち訊かなくていいから」と言っているにも関わらず、それを忘れて訊きに来る。どんなことも教官の許可を得なければならないというルールが染み付いているのだ。
今度からは、「留めることのできない自然現象の制御を人に委ねるというのが間違っているので、現象の解決は、相手に丁寧な言葉で強制しなければならないのだから、「トイレを貸して下さい」というのが当たり前だと思うけどね」と冷たく言うことにしよう。いひひ。(追記:学校のトイレは学生のためにあるんだから「トイレを貸して下さい」はおかしかった。「トイレに行かせて下さい」だ)
あ、ほんとはトイレ行くふりしてタバコ吸いに行きたいので、その後ろめたさから偽りの理由をわざわざ言いに来た学生もいたかもしれないな。今度跡をつけてやる(嘘)。


「〜しても良かったですか?」は、一昔前は聞かなかったもの言いだ。コメントの指摘にもあるように、時制がおかしい。「私は既に〜してしまったんだけれども、〜しても良かったですか? もしかして拙かったですかね?」という、過去の行為についての不安の表明ならわかるが、これからの行為について過去形を使って訊ねているのだ。
そう言えば、レストランなどでも「お皿、お下げしてもよろしかったですか?」という言い方を聞いたことがある。「よろしいですか?」ではなく。
無理矢理理屈をつけてみると、「お客様は、お皿を下げても良いと既に思っていらっしゃいましたか? でしたら下げさせて頂きますが」みたいなニュアンスだろうか。にしても変だね。


その手の言い方をする人は、「よろしいですか?」より「よろしかったですか?」の方が、より婉曲な言い回しになると思っているのだろう。その方が相手に対して気遣いのある言い方とさえ思っているフシがある。すごくムズムズする。
「わたし、あなたのこと好きになってもよかったですか?」。気色悪さ倍増だ。


飲食関係では、ほかにも時制のおかしな有名な言い回しがある。
「こちら、ホタテのグリルになります」
なに、「なります」って。これまだ「ホタテのグリル」になってないんかい。何分待ったらなるの? なってから持ってきてくれますか?
「よろしいですか?」が「よろしかったですか?」、「です」が「になります」。発音する音が増えている。つまり少し長たらしくいえば、丁寧でソフトに聞こえるだろうということだ。そうすればより良いと思って言っていることが自己満足に過ぎず、逆に相手をイラつかせているのである。


などとブツブツ言っている人は、融通が利かないとか空気が読めないとか言われるのかな。
言われてもいいや。私は頑固者になるぞ。