All You Need Is Love

今日も、彼は私の顔を見るや否や飛んでくる。思い切り体を押し付けられた。意外に強い力によろめく。「厭。乱暴にしないでよ」。押し返すとちょっと傷ついた顔になって、私をじっと見つめた。ただひたすら愛を訴えている目だ。
かわいい。どうにもかわいい。こいつだけは手放せない。
彼の背中を優しくさすってやり、肩を抱いた。顔が迫ってくる。キスの嵐。キス、あんまり上手じゃないんだけど、そんなことどうでもいい。


ひとしきり戯れて、ふと視線を下に落とすと、早くもちんちんが勃起している。やあねぇ。睨みつけて無理矢理体を引き離してやった。もちろんこのくらいのことでめげる男ではなく、さらに猛烈な勢いで今度は私の股間を狙ってきた。
その顔を両手で挟み、茶色がかった奇麗な目を見つめて、いつものセリフをきっぱり言う。
「それだけはおあずけなの。永遠におあずけなの。運命だから。ごめんね」。


部屋に戻ると、「お前、犬くせぇ」と夫に言われた。
「別の男の匂いがすると言ってほしい」
「アホか ww」



文春のコラムによれば、中村うさぎ女王様はついにヘテロの男に見切りをつけ、「女」をターゲットにすることにしたそうだ。『私という病』でも『幸福論』(小倉千加子との対談)でも予告していた通りの展開。
レズビアンを描いたアメリカのドラマ『Lの世界』のヒットにも触れ、「男なんて、話も通じないし心も通わないし、自意識も世界観も違い過ぎて、深く関わろうとすればするほど、虚無と疲弊と絶望に浸されるだけだ。その点、相手が女ならば、魂のいろんな部分を共有できそうな気がするじゃない?」(週刊文春6月12号 p.115)
シスターフッドヘテロ愛より強い。それが私(たち)の安住の地なのだと。


しかしそこまで同性に期待しても、色恋となれば男との間で起こったことと似たことが起こるのではないか。女性同士というだけで、それ以外の属性や条件を簡単に超えられるものなのか。それでも「女同士の性愛」は、男とよりは「魂のいろんな部分を共有できそう」? 
ふむ。そうかな。そうかもしれない。ある意味では。少なくとも犬を「男」に見立てて遊んでいるよりは、ずっと前向きな気はする。


中村うさぎは「欠損」を埋めるためにジタバタしてきた人である。
買い物依存症、ホスト狂い、美容整形、デリヘル嬢体験‥‥。ほとんど身を切り売りするようなかたちで、自らのアディクションの遍歴を一種の芸として売りにしてもきた。そして行き着いたところがレズビアンだ。なんというか、一つの流れにハマり過ぎなくらいきれいにハマっている感もある。
「でも、こういうことを言うと、また「モテない女がレズに逃げた」と解釈する奴が現れるんだろうな。」(同上)
それはたぶん間違いない。おばさんだから男に相手にされないだけだろ、とニヤニヤ顔で言う男はわんさといそうだ。
もし「女同士の絆」ができても、そういう男の視線と闘わねばならないなら、安住の地はないだろうと思う。だがそれも、中村はわかってやっているのだろう。



●関連記事
わたしのことはあなたがすべてわかってくれる- Ohnoblog
『私という病』を読む- Ohnoblog