股間を描け(前記事の続き)

三次元ヌードへの拒否反応について、アニメ云々に限らず、初めて女性ヌードを描くという状況に(若さゆえに)緊張して気分が悪くなったのでは?という意見が散見された。
そういうことは確かにあると思う。私の経験でもコースを問わず、始まるまでは騒いだりソワソワしてた男子学生が、いざモデルさんが立つとしばらく固まってしまい、なかなか手が動かなかったりしたことは普通にあった。性欲云々ではないと思う。単純に、非日常的な事態に対応できないのだ。モデルさんの休憩時間はすぐさま外に出て「うへぇ、しんどー」とか言っている。疲れるのは当たり前だと思う(しかしそれも大抵すぐ慣れる。「慣れ」とは恐ろしいものである)。


しかし、気分が悪くて数人(おそらく20人くらいのクラスと思われる)が退室までするというのは聞いたことがなかった。明記しなかったが、女子生徒も含まれている。デザイン系専門学校の仕事はあちこち経験しているそのモデルさんは、「こんなことは初めてで驚いた」と若干困惑気味の顔をしていた。
私が前の記事前半部にその「理由」として書いたことは、彼女が当事者として現場で聞いてきた話だ。そういうこともあるのかと思ったので記事にしたが、一部の現象として書いたことがアニオタ全体の話、ひいてはオタク批判の記事として読まれてしまった向きがある。非オタがオタク界隈のことについて書く時は、かなり書き方に神経を遣わないといけないということかと思った。
記事後半部の「アニメ、マンガ専攻の学生にヌードクロッキーや人物デッサンは必須か?」については、y_arimさんのコメントを参照のこと。



私の担当クラスは、建築インテリア、インテリアCAD、グラフィックである。グラフィックでは結構描ける学生も混じっているが、女の子の絵を描くのが好きだという子は少ない。女子の中にはコースを問わず、マンガ的表現(脚が長過ぎるとか、顔がアニメっぽい)が見られることはわりとある。だが建築、CADの男子に限って言えばほぼ皆無。
そもそも絵を描くことにあまり興味のない子が結構いる。人によっては、最初の1、2枚など、女はおろか人間にも見えなかったりする。いきなり裸の女に目の前に立たれて、動揺して描けないということもあるだろう。あれが着衣だったら、まだ冷静に観察できると思う。


総じて見られる傾向としては、他のところは描くのに、股間をちゃんと描かない学生が結構いるということだ。そこを曖昧にしているから、臍から股までが変に短かく見えたり、脚の付き方がおかしくなったりする。「股間を描け」「股を描かなきゃ脚が描けないよ」「恥骨重要」とうるさく言って、加筆して、ようやく描くようになる。
なかなかモデルさんの正面に来ない学生もたまにいる。やっと正面に来ても、股間はおろか乳首も描こうとしない。「乳首、描け」「乳首重要」。やっと描く。
気持ちはわかるのだ。だってちょっと恥ずかしいもんね。その気持ちは大切にしたい。最初から全然恥ずかしがらない学生など、美術系にもいない。内心「はずかしー」とか「何この異様な状況」とか「生身ってキモー」とか思っていても、勉強だと肚を括って乗り越えるのだと思う。


形が多少うまく取れてなくても、「面白い」ものや、モデルの雰囲気を直感的に掴んでいるものはある。いわゆる「残酷な似方」をしているものも。描いた本人はあまり意識してなかったりするが、それはそれで魅力的なクロッキーになっている。講評で「色っぽく描けたなぁ」「これは面白い」と褒めると、笑いながら恥ずかしそうにしている。
グラフィックはちょっと別として、建築やCADの学生は人体を正確に描く技能が求められるわけではない。クロッキー力もあるに越したことはない程度だ(デッサンの授業自体、一年前期で終わりである)。なので一応おかしいところはバンバン指摘して回るが、最終的には勢いとか雰囲気とか絵としての面白さみたいなものを評価したくなる。これは私が美術系出身だからかもしれない。ちなみに私のクラスではクロッキーに関しては点数をつけていない。