「男の子っぽい女の子」になりたい男の子

久しぶりにヘア・サロンに行ってきた。
大方の女性にとってそうだと思うが、美容室は非日常的癒しを買う場所である。若いイケメン美容師が「大野さま、いらっしゃいませ」と出迎えてくれる。若いイケメン美容師が回転椅子を回して座らせてくれ、黙っていても雑誌を持ってきてくれる。若いイケメン美容師が「何かお飲物はいかがですか?」と訊いてくれる。まさに癒し。非・日常。
なぜ美容室が若いイケメンを雇っているかと言えば、私のようなおばさんも若い女性も喜ぶからなのだよね。もちろん女性の美容師もいるが、この美容室では男性のほうが多い。接客商売だから女性客のあしらいは上手いが、歯の浮くようなお世辞は言わない。礼儀正しく物腰は柔らか。美容師の男はみな草食系男子である(‥‥あれ、ちょっと使い方違っているかも。ま、いいや)。
髪を切ってくれるのは友人のベテラン美容師(女性)だが、福山雅治似の美容師君にカラーリングの後丁寧にシャンプーしてもらい、トリートメントを馴染ませる間に、ジャニーズ系の美容師君に優しくフェイスエステを施してもらい、寝たまま軽くメークまでしてもらって、おばさん大満足。二万近いお支払いも惜しくはないわ。


さて気色わるい文章はここまでにして、友人の美容師から聞いた「今構想しているヘア写真」の話。ヘアって当然頭のヘアです。
写真撮影にはいつも女性のモデルかニューハーフのモデルを使っている彼女だが、今度は福山君とジャニーズ君を起用するという。
「福山は男っぽいから普通に男のモデルとして使うんだけど、ジャニーズはアンドロジナスな感じにしようと思うんだよね。それで福山を後ろに立たせて撮る」
そのツーショット写真は絶対欲しがるお客さんがいるわ。で、アンドロジナスな感じって具体的には?
「男の子っぽい女の子、つまりボーイッシュな女の子、になりたがってる男の子、という設定を考えてる」
ややこしいな。
「オカマモデル使って女以上に女っぽく作り込むやつは飽きてきたし、今時、男の女装も当たり前だし、ちょっと捻りを入れたいと思ってさ」
たしかに普通の女装では意外性がないから、面白いかもしれない。ジャニーズ君は小柄で線が細く愛らしい顔をしているので、その「ボーイッシュな女の子になりたがってる男の子」役はぴったりだと思う。


「女になる」ことを本格的に目指すとまでいかなくても、「女装してみたい」という若い男性の話はちょくちょく聞く。「女の子になってみたい」という意見もたまに見る。それはやはり、「いかにも女の子らしい女の子」を目指すものではないかと思う。ニューハーフや女装趣味の人が、外から見れば過剰な女性性をまといたがるように。
そこで「男の子っぽい女の子」「ボーイッシュな女の子」という選択肢は、最初からないように見える。


「男の子っぽい女の子」「ボーイッシュな女の子」の典型は、「スカートなんか穿きたくないよ。男の子っぽくしたい」という、女ジェンダーに違和感をもつようなタイプだ。思春期のある時期に、こういう女子は一定数現れる。髪をショートにして、メークはせず、汚っぽいジーンズにライダースジャケットとか、男仕立てのシャツに細いネクタイとかしてみる(私もその昔はやった)。
FtMの人は外見的にもなるべく完全に近い男らしさを目指すのだろうけど、「スカートなんか」のレベルだとどうしても「ボーイッシュ」という、これも一つの女の子っぽさを表現するカテゴリーに回収される。


この「『男の子っぽくしたい』って感じになってるボーイッシュな女の子」になりたい男の子、というのは、トランスジェンダー的にかなり高度な感じがするのだが。そういう一回転したメンタリティの男性はいるのでしょうか。



●追記
ボーイッシュなニューハーフは結構いる(メディアには出てこないだけ、「過剰な女性性をまとう」はメディアが作り出したステロタイプ)という指摘がブコメにあったのでお返事。
「ニューハーフ」とは、「性同一性障害」「トランスセクシャル」「MtF」とは違って職種を表す言葉で、職業として女性を演じている(元)男性を指しています(たとえば、ニューハーフで性同一性障害からMtFとなった人はいますが、MtFの人をニューハーフとは呼びません)。
そこではまず、外見のステロタイプな女らしさにこだわることが職業的出発点としてあります。従って「過剰な女性性をまといたがる」としたのは、ニューハーフという職種の"傾向"としての話です。
「ボーイッシュ」も「男の子っぽい女の子」として「一つの女の子っぽさ」に回収されるスタイルですから、そういうニューハーフの人もいるでしょう。こうした差異化は図られているとしても、ステロタイプな女らしさを目指す傾向は依然として強いのではないでしょうか。
余談ですが、「過剰な女性性」によって逆に男性要素が浮かび上がり、その微妙な感じを売りにすることもあるようです。


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