カウンターの会話

時々飲みに行く家の近くの和食屋さんのカウンターに、「これからお勤めです」という感じの女性が二人並んでいた。その店ではたまに、近くの町工場や不動産屋のオヤジと出勤前のおねえさんとの同伴を見かけたが、女性二人というのは初めて見る。私はついちらちらと彼女たちを観察した。
34、5歳くらいの一人の女性は、セミロングの髪に黒いシックなジャケットで、ダイヤのネックレスをしていた。もう一人の21、2歳くらいの女の子は、ショートの茶パツで肩まで下がったロングピアスをつけ、つけ睫毛がハンパでない濃さだった。
30分くらいの間に女の子の携帯が3回鳴り、その度外に出ていった。店の中はお客さんが少なかったせいもあって、外でキャハキャハ喋っている声がほとんど筒抜けだった。3回目に女の子が戻ってくると、年上の女性は「彼氏なん?」と訊ねた。
こういう赤の他人の会話は一人でいる時妙に気になるもので、同じカウンターの端っこでビールを飲みながら、私の耳は自然とダンボになった。年上の女性の声は低く、女の子は声が大きかった。


「元カレ、もう誰といるんだとか言ってー#○×@※△□××□%△(←早口でよく聞き取れないor忘れた)
「元カレなのにしょっちゅうかけて来るん?」
「くるのーウザい」
「もうかけて来んでって言えばいいのに」
「あーでも#○×○@※△□××□%△だから○×@※△□××□%△でもウザい」
「すぐ切ってやればいいのに」
「つか切ってもまたかけてくるしー」
「着信拒否にすればいいやん」
「つかみんなで会うじゃんね、んでまたおまえ#○×@※△□××□%△とか言われて#○×@※△□××□%△したらさぁこないだまた#○×@※△□××□%△だってーキャハハもうバカだって#○×@※△□××□%△じゃんねほんとなんでーって感じ」
「厭じゃないの?」
「何が?」
「その、そういうことのすべてが」
「え何どゆこと?」
「だから、そんなしつこくされてムカつかんの?」
「一瞬はねー、でもちょっとすると忘れるし」
「ふーん‥‥」


年上の女性は煙草に火をつけた。とてもきれいにメークした顔の眉間のあたりに、うっすらと縦皺が見えた。
それを見て、私の眉間にはもっとはっきりした皺が寄ってるだろうなぁ今‥‥と思った。