「お疲れ」は別れの挨拶

「やべぇ」が「凄い」という意味で若者の間でカジュアルに使われているという件につき、自分の身の回りの例をこちらの記事で書いてみたが、以前からもっと気になっている言葉がある。
デザイン専門学校の学生が時々私に対して使う、「お疲れっす」という言葉。授業が終わって学生が後片付けしたのを大体見て教室から出て行く時や、帰る学生達と建物の外ですれ違った時、「さよなら」と声をかける。それに返ってくるのが「お疲れっす」。すごく変な感じです。
「お疲れさまです(でした)」とは、仕事した人へのねぎらい、慰労の言葉である。学生は仕事の依頼者でも仕事仲間でもない。基本的に、こちらが「お疲れ」かどうかなどということは気にしなくていい立場のはずだ。私が彼らに「お疲れさまです」と言われる謂れはない、とモヤモヤ。


「お疲れっす」と言うのは、圧倒的に男子である。それも少し横着だったりヤンキー臭かったり、構って君だったりおしゃべりだったりするタイプが口にする。そういう学生に手こずらされて「ほんとにこいつらの相手は疲れるわ」とこっちが思っているのを知ってか知らずか、妙に快活に「お疲れーっす!」と言って去っていかれると、なんか尻がモゾモゾする。
別に気遣ってくれなくていいんだよ。それより授業中無駄に疲れさせんなや。


観察していると彼らは、友達同士で別れる時もよく「お疲れー」と言っている。「さよなら」はまず聞かない。「バイバイ」もあんまり聞かない。「じゃーね」はたまにあるが、女子もやっぱり「お疲れー」と言っているのを時々耳にする。「お疲れ」は別れの挨拶なのである。
「お疲れさまです」を彼らはバイト先で覚えたのではないかと思う。「お先に失礼します」「お疲れさまです」。「お先に〜」「お疲れー」。そこから自然と、友達同士でも「お疲れ」が「さよなら」の代わりとなったのではないだろうかと推測。
遊びに行ったり飲みに行ったりイベントなどの帰りに自然と「お疲れ」が出るのはわかるが、授業の後も「お疲れ」って‥‥。いや授業だからこそと考えるべきか。そう言えば私もたまに、長い課題の終わった後や授業の最終日などに「皆さんお疲れさまでした」と言うことはあるけども。


「お疲れさま」とは不思議な言葉である。「お疲れになったでしょう」と相手の立場を慮ることで、間接的に感謝や慰労の気持ちを表現している。これに当たる英語はないようだ。調べたら近いのは、Good job! とかWell done! あるいは Thank you for your hard work. あたり。相手の仕事や為したことに対して、「良かったよ!」「ありがとう」と直接的表現になる。
学生たちは(というか今時の若者は)、「さよなら」や「バイバイ」という単なる別れの挨拶では物足りず、そこにねぎらいなどポジティヴな感情を込めた「お疲れ」を使うことで、友達関係を再確認しているのだろうか。
そう考えると、なんかいろいろ大変そうだなとも思った。