増田記事解読 - フロイト導入の巻

増田記事解読合戦 - 「盗み」と「所有」を巡って - Ohnoblog2
増田記事解読続き - Ohnoblog2


フロイトのエディプス(オイディプス)・コンプレックス*1の概念を下敷きにしないとid:Midasブコメが読み解けないというところに追い詰められて、というか無理矢理追い込んで、破れかぶれで結論を出す。これで「違う。」と言われたらもう後の手がない。


※増田記事関連についてMidasブコメ一覧を見たい人は、増田記事解読合戦の火付け役、消毒さんのこちらの記事後半をどうぞ。以下の"〜"内はすべてそこから抜粋。


まずエディプス・コンプレックスのおさらい。
幼児は生まれてまもなくの間、母子一体の万能感の中にいる。しかしやがて自分と母親の間に、父親の存在があることに気づく。そこで幼児は父親を亡き者とし母親を独占したいと願うようになる(近親相姦願望)。しかしどう考えても父親にはかないそうになく、また父を憎んだことに対し罪悪感も生まれ、幼児は葛藤する。この心理をエディプス・コンプレックスと言う。
さて幼児は最初、ペニスを普遍的な存在だと信じている。しかしある時、女性にはペニスがないことを知る。これを幼児は「切り取られた」のだと解釈し、自分が母親に愛情を向けると父親にペニスをちょん切られるのではないかという不安に怯える(去勢コンプレックス)。
こうして幼児は母への愛を諦め、父の存在を受け入れ、エディプス・コンプレックスは解消される。


このようにフロイトは当初、男児をモデルにしてエディプス・コンプレックスを考えたが、後に女児の場合についても述べている。
男児の場合は去勢コンプレックスによってエディプス・コンプレックスが終わらされるが、女児の場合は逆に去勢コンプレックスがエディプス・コンプレックスの開始となるという。


女児もまず母親に愛情を向ける。だがある時男児にはペニスがあるのに、自分には無い(「去勢」されている)ことに気づく。それにコンプレックスを覚えた女児は、自分をそういう存在に生んだ母親を憎み、また母にもペニスがないことを発見して幻滅し("欠如はある意味女性の条件")、父親に愛情を向けるようになる。この時女児は、母親に自分を同一化し、父親に対して母親が取っている位置を自分が占めたいと望む一方、母親を敵視し対抗意識を燃やす。
これが女子のエディプス・コンプレックスである。「パパと結婚したい」などというのはその典型だろう。父をめぐって、母への同一化と母への対抗心の間で女児は葛藤する。"誰(どんな女)なら男(父親)を所有したまま返さずにいられるか"がエディプス・コンプレックスに囚われた女児のテーマである。*2


フロイトエディプス・コンプレックスとその解消を、人が性的成熟を遂げる過程において必ず通過するプロセスとしている(つまり、父/母を"盗んだことない人はいない")。



以上を叩き台として、再度、増田記事を娘の立場を中心に読んでみる。


母親の離婚は、娘が物心つかない乳児の頃ではなく、エディプス・コンプレックスが生じて後だとする。
娘は、母に替わって父親の愛を独占したいという願望を抱いていた。娘にとって母はライバルである("母-娘の力関係")。
しかし母の離婚によって、愛の対象であった父は失われた。これは娘にとって思いがけない挫折体験=トラウマであり、自分自身への説明をつけるため、自分が母を敵視し父を独占しようとしたからだと想像した。
一方、"母の深層心理には「私は男の正当な所有者でなかった(盗んできたに等しい)」という罪悪感がある。" それを感知して、男の所有は"必要なの?"と娘は問う。お父さんを愛していたのは私だと。
同時に母に見受けられるのは、他人への"「不幸自慢してる」という嫉妬"である。嫉妬は愛を喪失した者の感情である。ではやはり父の愛はもともと母のものだったのか。私の愛は母に負けていたのか。両親は既に離婚していて確かめることはできない。
こうした葛藤の中で、"娘は母に「所有権は女の資格?」" 、女は"いかにして愛をわが物にするかと問"わねばならなくなる。
娘は何度も他人の"ソフト=父親=対象"を盗み、母に叱られる。母に抵抗し、盗みが発覚し醜態を晒すのは、「お父さんを愛していたのは私だ」という母へのライバル心の現れと、"肩書き「盗っ人」が欲しい"からだ。娘は、父への愛=母になり替わりその位置を占めたいというかつての願望を母に見せた上で、それを罰してもらいたいのである。


まとめ。
娘のエディプス・コンプレックスは、父不在のまま固着した。ライバルであった母は離婚し、他人への嫉妬に苦しんでいる。すべては私がお母さんに対抗してお父さんを独占したいと思ったからだ。この自責の念から逃れるために、娘は「盗む→見つかり叱られる」を繰り返す。これが娘の"人格形成としての自罰パラノイア"である。
彼女が母親の離婚を母親自身の選択として受け入れ、新たな愛情の対象を見出した時、おそらく自責の念は消えて母親への感情は別のものに変わる。


‥‥ほんとかよ!


以上。


●参照:さあて、ラカンとヤカンの区別くらいはついたか? - 消毒しましょ!

*1:紀元前4世紀にソフォクレスによって書かれた「オイディプス王」の戯曲がベースとなっている。オイディプスは幼い頃に捨てられ、成長の後に父と知らずに父を殺して王の座につき母と契った。

*2:フロイトは、女児のエディプス・コンプレックスの解消は、去勢コンプレックスを経る男児の場合のようには明瞭でない、としている。