ニューハーフのショーパブに行った

「たまには息抜きが必要だよ」と友人に言われ、結構息抜きしているのだが、こう言われた時は遊びの誘いだからすぐに乗る。行き先は名古屋では有名なニューハーフのショーパブ「ガラシャ」。
友人は美容師で毎年大変凝ったヘアショーを開催しており、この店のニューハーフの人々をモデルに何度か使ってきた。そのショーは見に行ったことがある(詳しくはこちら)が、お店に行くのは初めてだ。
他に一緒だったのは、友人のママ友二人、その知人の華道家の人、振り付け師(このショーパブのダンスの振り付けを担当なさっている)の人。


キャパおよそ70〜80人ほどはありそうな広い店内。ボックス席に来てくれたニューハーフの一人に、友人が私を紹介した。
友「この人はね、あなた達みたいな人のことを研究して大学で教えている人」
わわ、やめてぇそういう紹介は。「研究」なんて立派なことしてないし(汗)。
ニ「あら、先生?見えないわー。どんなことやってらっしゃるの?」
私「えーと、『ヘドウィグ&ザ・アングリーインチ』とか、映画を見せて感想文書かせたりしてるんです(大汗)」
ニ「知ってるわよ「ヘドウィグ」。舞台じゃ三上博史がやってたわね」
友「ここのショーでもやってみたら面白いんじゃない?」
ニ「そうねぇ、あとで先生(振り付け師)に相談してみるわ。でも1インチってどうすんの?ここに1インチくっつけるの?難しいわよーギャハハハハ」
などと話しているうちに、客席もほぼ埋まり(圧倒的に男性の方が多い)ショーが始まった。


毒のある自虐トークで何度も爆笑を誘う司会者のMCの後、40分ほどの間に、十数通りのダンスとパフォーマンスが次々と披露された。少し前に話題になった映画『ブラック・スワン』も音楽と衣装で取り入れられていた。やみつきになって通う人がいるのもわかる完成度の高さ。
しかし(どこの店もそうかもしれないが)ニューハーフの外国人率は高い。特に韓国人とフィリピン人。出稼ぎ労働者だ。一人一人の紹介を聞いていた限りでは、日本人は半分くらいか。
エロも笑いもてんこ盛りで楽しかったが、チェックのシャツを胸の下で結んだキュートなカウガールの格好で踊っている「カントリー・ロード」に、思わずじーんとしてしまった私。歌詞*1をご存知の方は、理由がわかるでしょう。
いつのまにか、「皆さんこのステージに上がるまでには、そりゃあいろんなことがあったでしょうねぇ‥‥」と、下積みの苦労を重ねた演歌歌手に拍手を送る演歌ファンのおばさんのような気分(想像だが)になっていた。なんだこの感傷は。


ダンサー達が客席の間を回るとファンが次々お札を握らせる。5、6年前に見たヘアショーやファッションショーでのニューハーフは結構攻撃的で近寄りがたい美貌の持ち主が目立ったが、最近はもっと親しみやすいカジュアル(?)な感じに作っている人が多いようだ。流行があるのだろうか。
ショーの後、私達のボックス席に来たエキゾチックな顔立ちの初々しい新米さんに、ママ友二人は「肌きれーい。お手入れどうやってるの?」「どうしたらそんなに細くなれるの?」と真剣な顔で質問を浴びせかけ、"ガールズトーク"で盛り上がる。
隣のボックス席の、30代前半と思しき7、8人のグループは常連らしく、お気に入りを数人侍らせて賑やかだ。モデルのようなスタイルとルックスの彼女達はどこから見ても「女」で、その「女」の腰に手を回して楽しそうにイチャついているのは、普通にキャバクラの情景(見たことないけど)。惚れてしまう男性もいるだろうね。


目の前の新米さんにママ友その1が尋ねる。
「好きな男の人とかいないの?」
「いなーい。芸能人はいるけどね」
「でも可愛いからモテるでしょう」
「ううん、ちょっと違うね。私たちはオモチャ」
トークにあまり慣れてない(というか日本語がたどたどしい)新米さんが自嘲的な感じで言ったので、少し会話が途切れた。こういう時の咄嗟のフォローの用意が私にはない。
次いで来たK-POPのアイドルみたいな(アバウトな形容)のスレンダーな美人に、ママ友その2がまた同じような質問をする。
「スタイルすごくいいね。街歩いていても声かけられるでしょう」
「外人にはね。日本人はダメ。日本の男の人、自分より小さい女性が好きだから。大きくてもいいって人知らない?(笑)」


「ニューハーフの人、そんなこと言ってたよ」と家に帰って夫に報告すると、以前たまに付き合いでゲイバーに行っていた彼は、
「ずっと前「誰かいい人いたら紹介して」って言われて、「じゃあ当ってみるわ」とは答えたんだけど、そう言えば一回も訊いてない」
と言った。
「そこらの若い男に、ニューハーフだけど可愛くていい子だから一回会ってみないか?って、なかなか言いにくいよな。まあ「誰か紹介して」っていうのは、結婚相手じゃなくて、お客さん連れて来てってことだったのかもしれんけど」


お気に入りの「女の子」がいてニューハーフパブやゲイバーに通い詰める男性は、「女」という記号を愛で、疑似恋愛のゲームを楽しみたいのだろうか。であればキャバクラに行くのと同じだ。
想像だが、人工的な「女」だから却って安心できるとか、ベテランニューハーフの話術が魅力とか、「オモチャ」として愛でたい欲望とか、困難なトランスを果たし性のケモノ道を歩む人への畏敬とか、いろんなものが混じってそうな気はする。


女性がニューハーフに感じる近親感の理由は、たぶん一つだと思う。どちらも「女」を演じていることだ。いや演じていると意識すらしなくなった状態を「女」と呼ぶのかもしれない。
どうせ演技ならもっと開き直って無茶苦茶やればよかったかもな‥‥と、中途半端な"女優生命(笑)"が終わりに近づいていく中でシミジミ思う今日この頃。



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●おまけ
初音ミク(達)の「カントリー・ロード」。きれいにハモってる。

*1:J. Denverの元歌の方ではなく、ジブリアニメ『耳をすませば』で使われた鈴木麻美子の訳詞の方。ほとんど逆かと思えるくらい意味が違っている。