「どや」と紳助は言った。

「どや、俺の引退記者会見。100点満点やったろ。解説したるわ。まずは相手に恩義があったということの強調や。恩義のある人だから無下にはできんかった。人として当たり前のことやないか。俺、「人として」「心」「感謝」各2回言ったわ、前半で。これ視聴者の気持ちをつかむ豆知識な。紳助、義理人情に厚いなと世間は思うやろ。ヤクザとつきおうとるのが悪い言われることは知ってんねん。だからバレんよう気ィつけてやってきたんやから。ほんまにどっから漏れたんかな。ま、俺の足引っ張りたい奴はぎょうさんおるから、それは今はおいとこ。でな、最初に「正直に話します」言うたからって、「内心はバレたらヤバいと思ってました」とか素直に言うてみ、「ヤバいと思ってやっとったんか!」て大バッシングに決まっとる。そやから「悪いと思ってなかった」で通さないかんねん。自分で悪いと思てることはせん紳助、義理人情に厚くて芸能界の「ルール」に疎い不器用な紳助、や。どや。ここで視聴者の半分はもう俺に同情的やろ。な? 次に、すぐ引退を決意したいうのが大事なとこや。こうゆうことは長引かしたらいかん、スパッといかな格好悪いで。グズグズすればするほどボロが‥‥噂が噂呼んで週刊誌があることないこと書き立てるんよ。それがほんま鬱陶しいねん。こんなことで何度も頭下げて神妙な顔して芸能界で生かしといてもらうのは、てっぺん取った俺のプライドにかかわるねん。噂が出た、紳助またやらかしたか謹慎かなと一部で思われてるうちに、さくっと潔く引退やて。どや、男らしいやろ。つまりこうゆうことや。F1の超人気レーサーがやね、スピード違反で捕まったとするわ。世間の顰蹙は買うかもしれんけど、法的には罰金程度で済むわな。それを本人「もう免許証返還します」ゆうたようなもんや。世間も振り上げた拳の降ろしどころがないわ。みんな大慌てやで。スポンサーもな。お前らこんなつまらんことで、不世出のスター潰したんやで?でっかい魚逃したんやで?損したのはこっちやないで、お前らやで?ええんか?てなもんや。まあレギュラー少ななってから辞めるよりはましかもしれんとは思ったな。落ち目でこうなってみ、惨めやでー。俺は金があるからええけどな。それから忘れてあかんポイントは、後輩思いゆうことよ。自分がここで辞めな後輩達にしめしがつかん、若い人に過ちを犯させないために自分が手本を示す、ちゅうこっちゃ。どや。先輩の鑑やろ。不祥事があっても何やらかんやら有耶無耶にする政治家と比べてみい、紳助偉いやっちゃいうことになるやんか。な? 吉本のイメージを落とさんために人身御供になってくれはった紳助さんゆうことで、吉本の若手らも俺に一生頭が上がらんわ。で、こんなに紳助を追い込んだんはやっぱり週刊誌かと視聴者が思い始めたところで、チクッと批判するんよ。どんな嘘八百書かれても我慢してきました言うてな。でも明日から一般人なので嘘書かれたら告訴します、言うとけば、紳助もずいぶん悔しい思いしたんだろなぁとますます同情票集まるわ。嘘ばっか書くえげつないマスコミのせいで、引退を決意せざるを得なくなった大物芸人島田紳助。悪いのは週刊誌や。こっちは被害者や。ワイドショー見てみ。もうなんとなくそういう扱いになっとるわ。あ、批判し過ぎはあかんで。チラッと言うだけ。でも俺「告訴」2回言うたでな。大事なことなので2回言いました。そんだけで効果絶大や。後半も、自分で自分に一番重い罰を与えるという、俺の道徳観念の強さを強調したやろ。週刊誌と俺とどっちが道徳的かいう話になるがな。今までいろいろトラブル書かれてきたけど、これで帳消しやな。これで週刊誌が俺を叩いたら悪者は完全に週刊誌や。周囲のみんなに引退を引き止められたが曲げんかったゆう話もええやろ。ここは泣くとこや。さあさあ貰い泣きしてええで。散りばめた人名も重要よ。ダウンタウンの松本、上岡龍太郎上地雄輔孫正義武田鉄矢、さんま。あと嫁と娘な。つまりヤンキー上がりの俺がやな、先輩スターや仲間や家族の支えとファンの励ましがあって、やっとここまで上り詰めたんやと。まあ俺の才能やけどな。そういう、レギュラー6つも持ってる天才大物芸人がつまらんことで足掬われて人気の頂点で引退という、ほんまにほんまに残念な話やねんこれは。俺は悲劇のヒーローやねん。そんで「世の中の役に立ちたい」でシメな。やっぱしええ人なんやなぁ紳助は、と。最後は「切腹のかいしゃくをしてくださってありがとうございました」。サムライやなぁ紳助は、と。これで飯ドンブリ10杯はいけるやろ。どや」



会見の録画をワイドショーで見ていたら、なぜか副音声で聞こえてきた島田紳助の声でした。
空耳だったかな。



●参照
http://www.asahi.com/showbiz/nikkan/NIK201108230219.html