学歴と絵の才能はあまり関係ない(けど少しはある)

最近一部で話題になっていた件について。

やはり有村悠さんは15年前に東大に現役合格したという頭脳が足枷になっている。やらおんくらいの低知能なら、黙々と絵を描き続け、絵心がないながらも線だけは綺麗に引けただろう。東大に入れたのだからついでに絵の才能もあるに違いないと本人は思い込んでいる。漫画家の多くが低学歴なのを考えれば、知能と絵心の両立が困難であることなどわかりそうなものだが、岡田斗司夫の影響でオタクをやってる有村悠さんは頭でっかちにオタやってるので、本能が機能してない。痛快ビッグダディDQNな父親は絵心があり、なかなかセンスのあるイラストを描く。そういうものなのである。


有村悠さんが売れない同人作家としてやらおんに取り上げられる|ブログ運営のためのブログ運営より


頭が良過ぎて絵が描けない、つまり学歴(偏差値)と絵の才能とは反比例するのではないかという説。それに対して、芸大生は絵の才能があって学歴も高いからその説は当たらないよという意味の突っ込みがあった。

jassmaz いやー。単純にありむーは絵の教育と練習が足りないんでしょ。高学歴どうこう言ったら、芸大の連中はどうなるんだよって話になりますし。 2013/02/23


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このブックマークコメントにスターがたくさんついていたが、元「芸大の連中」として一言言いたい。
芸大卒を「高学歴」と言うのかどうかは知らないけれども、芸大の偏差値は全然高くありません。もちろん東大とは比べようもありません。
東京芸大は合格難易度の高さによって学力も高いだろうと世間に誤解される向きがあるようだが、芸術学科はまだしも油画、日本画、彫刻あたりの実技系は総じて低め。偏差値で言えばせいぜい創価大学くらい。(参照:東京都大学偏差値ランキング ※ここに「東京芸術大学[美術]63」とあるが、他のデータで見る限り平均はこんなに高くないので、これは学科重視の芸術学科だけの偏差値だと思われる


難関と言われる東京の芸術・美術大学の実技系の科の偏差値を、予備校サイトで見てみよう。
東京芸術大学美術学部
 油画54、日本画53、彫刻52、工芸55、デザイン55
多摩美術大学
 日本画54、油画53、版画50、彫刻50、工芸50、デザイン50〜53(コースで差がある)
武蔵野美術大学
 日本画54、油絵51、版画50、彫刻50、デザイン47〜57(コースで差がある)


美術系大学予備校で長く仕事をしていたが、共通テストで数学が0点に近かったにも関わらず、実技が飛び抜けていたので芸大油画科に合格したという例がある。ともかく実技試験の出来で決まる。中には非常に学科のできるアタマのいい人もいるが、だいたいは元から勉強が苦手な方か、美術に熱中してだんだん勉強しなくなるので、学力は下がる。
卑近な例で申し訳ないが、私が何よりの証拠だ。中学、高校の成績は中の上で数学はいつも赤点スレスレだった。芸大受験期以降は一層勉強から離れた(そのツケは30歳過ぎてからじわじわ来た)。私のようなタイプは美術系を目指した人にわりと多いと思う。
ちなみに同じ高校の普通科は、地元の名古屋大学に進学するのが中位クラスで、東大や京大に行く生徒も数多くいる進学校だったが、その中にたまにとても絵の上手い、芸大受けたら現役合格するんじゃないの?と思えるような人もいた。しかし絵なんかいくら上手くたって、勉強ができるのだから東大や京大に行くのである。


では、勉強ができなくても絵は上手くなるのか(いや勉強ができない方が絵は上手くなるのか)? というと、そういうわけではない。
再び予備校サイトから、上記以外の芸術・美術系大学の偏差値をいくつか。


愛知県立芸術大学美術学部
 実技系(芸術学科よりは低い)のデータはなかったが、平均して多摩美武蔵美とほぼ同じランクと思われる
京都造形芸術大学 
 美術工芸48、マンガ46、デザイン46〜49(コースによって差がある)
大阪芸術大学美術学部
 美術42、デザイン43、工芸43
名古屋芸術大学美術学部
 日本画40、洋画40、彫刻40、デザイン50
(これより低い大学もあるがこのあたりで‥‥)


名古屋芸術大学は、愛知県立芸術大学を目指す人がよく滑り止めで受ける私大である。そこで非常勤(一般教養)をしているので一応フォローしておくと、こういう偏差値低めの大学でも、驚くほど大人っぽいレポートを書く学生や、優れたアーティストになる人がいないわけではない。そもそも上手い絵がアートとして評価されるとは限らないし、絵の専門教育を受けないでアーティストになっている人も少なくない。
ただ、入試レベルの絵の上手さは、一定のレベルまではトレーニングの賜物であり、クリアすべき内容をよく理解し、目標を立て日々努力するという学科の勉強に通じるところがあるので、そういう意味での「頭の良さ」は必要になる。予備校講師をしていた時に感じたが、学科の勉強で成果を上げたことのない人は、デッサンも少し練習して上手くならないと諦めてしまう傾向はある(一方、ほとんど勉強しなくても学科の点が取れるタイプの人にとって、デッサンのトレーニングは辛いものがあるかもしれない)。
デザイン専門学校でマンガコースやイラストコースの基礎デッサンを何度か担当したが、自分の好きな既存の絵を真似るのは上手くても、どういう絵がデッサン力に裏打ちされているか、どういう線が美しく気持ちの良い線なのかを的確に判断できる学生は少ない。


難しいのは、どんなにデッサン力をつけ技術的に上手い絵が描けるようになったとしても、それが他人から見て「おいしそうな絵」「ソソる絵」「欲しい絵」であるかどうかは、また別ということ。それはたぶん同人誌業界でもアート業界でも同じだと思う。そしてこれは、努力だけではどうしようもないことなのだ。