なぜ誰も「かわいい女の子」ではなく「かわいい子猫」になりたいと言わないのか

「かわいい女の子になりたいオタク」話が少し前に盛り上がっていた。その話の肝は(こちらのブコメにも書いたが)おそらく「女の子になりたい」ではなく、「かわいい(者)になりたい」。
「かわいい女の子になりたい」が時々「女の子になりたい」という言い方に短縮されているのを見かけるのは、「性別を超越」云々ではなく、そこで”「女の子」=「かわいい」の最たるもの”という図式が前提とされているからに過ぎない。
かわいい男の子をよく「女の子みたいにかわいい」と言ったりする(逆はない)ことからも、「かわいい」を一番効果的に体現している/させられているのは「女の子」である。


だから、「女の子になりたいオタク」の人のほとんどは、「かわいくなくてもいいから女の子になりたい」とは思っていないと思う。「かわいくない女の子」のリアルでの冷遇され具合は、彼女たちを冷遇しがちな立場の者が一番よく知っている(そこでは「かわいくない女の子」は「女の子」ではない)。
人は見かけが99%の時代、「かわいい」が社会の中心的優性価値となった「かわいい」の専制時代において、「かわいくない」の茫漠とした荒野から、「かわいい」の絶対安全領域へ避難したいということだ。
そのココロは、「誰からも愛されたい」つまり「誰にも嫌われたくない」。自分を攻撃したり軽蔑したり嗤ったりする者が、一人もいないこと。すべての人にポジティブな感情をもたれること。その願いを叶える条件は、単純に「かわいい」に尽きる、と。何をやっても「かわいい」んだから、失敗を恐れることもなくなる。スバラシイ。


とすると、別に人間でなくてもいいことにならないか。
実際、「かわいい女の子」というポジションは同性の嫉妬の対象になることもあるので、「100%誰からも愛される」とまでは言いきれない。では、誰にも嫌われない「かわいい」を体現する者とは? それは子猫である(反論は認めない)。
かわいい子猫の写真や動画が広く人気を集めているように、生まれて数週間から2ヶ月くらいまでの子猫ほど、人の警戒心を緩めさせ人を惹き付け愛情を掻き立てる存在はない。「かわいい子猫」は「頭痛が痛い」と同じく冗語で、”子猫=かわいい”という図式は鉄板。私など、今度は絶対に子猫に生まれてきたいと思っているくらいだ。
子猫は、かわい過ぎるからと嫉妬心を燃やされることもない。子猫においては「女の子」の方が「男の子」より「かわいい」が体現できている、などということもない。それこそ「性別を超越した」かわいさがあるだけだ。
なぜ誰も、「(かわいい)子猫になりたい」と言わないのか。


たぶん「自意識の問題」だろうと思った。
子猫は、皆に「かわいい」「かわいい」と言われ実際にかわいがられ、そこで子猫なりの充足感を味わっていたとしても、「私はかわいい」といった自覚は持っていないだろう。
たしかに子猫には時々、自らの暴力的なまでのかわいらしさを熟知しているかのようなコケティッシュな行動が見受けられるが、それは子猫の外見、仕草に魅せられている人間が知らず知らず対象を擬人化し錯覚を起こしているのであって、子猫はただ遊んだりおやつが欲しいから甘えたりしているだけである。
「私が皆に愛されるのは、私がこんなにかわいいから(私ってラッキー♪)」と、子猫が意識できるわけがない。


この意識が人間にはある。「かわいい女の子」は自分がかわいいことを自覚している。最初気付いていなかったとしても、この「かわいい」の専制時代においては、否が応でも自覚させられる。
つまり「かわいい女の子になりたいオタク」から見た「かわいい女の子」とは、「私が皆に愛されるのは私がかわいいから(私ってラッキー♪)」という幸福感を常に味わうことのできる存在なのだ。もっと言えば「私はかわいいから皆に愛されて当たり前!」という自信をもって生きることができる存在なのだ。多くの人がさまざまなコンプレックスに悩まされている世界で、「かわいい」に幸福感と自信がもれなくついてくるのだ。
そりゃ子猫よりか女の子になりたいはずだと思った。



●追記
何か、猫に反応が集中してますが、正直、猫はどうでもいいのです。「女の子になりたい」願望の中に、「かわいい自分を確かめたい欲望」があるのでは?という見方を提示するために、そういう欲望や自意識などない猫を、女の子からかけ離れた存在として持ってきただけなので。
もちろん猫はかわいいですが、死んで猫に生まれ変わるならまだしも、今、猫になりたいかといったら私は嫌ですね。だって猫自身は「猫っていいなぁ」という気分に浸れるわけでもないし、「猫かわいい!」という猫を可愛がる幸せも、そこにはないんですから(‥‥猫になったら人間的な意識は失われるという当たり前のことは本文にも書いているのですが、ヒトの意識を保持したまま猫になる想定をしている人が多いんですね)。