ブルージーンズの位相

久しぶりにアキ・カウリスマキのDVDを借りてきて観た。『ル・アーヴルの靴磨き』(2012)。安定のカウリスマキ節を堪能。


庶民の生活を描くカウリスマキの映画には、ブルージーンズの労働者がよく登場する。ジーンズはブルーカラーの制服である。
この映画でも、「異変」が起こって朝早く警察がやってきた港で、コンテナの前に立って見守る二人の港湾労働者がブルージーンズ、そこに「何があった?」と言いながら自転車でやってくる同業者もブルージーンズを穿いている。
カウリスマキのやや青みがかった画面に、労働者の穿き古したジーンズはよく似合う。おしゃれな若者が穿く流行を意識したジーンズでも”プレミアム・ジーンズ”でもない、生活に密着したワークパンツだ。


ところで、先頃受けたホームヘルパーの講座においては服装規定があり、ブラウスやスカート、短パン、そしてGパンが禁じられていた。推奨されているのはTシャツやトレーナー、ジャージである。
ブラウスやスカートや短パンがダメなのはわかるが、Gパンはなぜ? 不思議に思って講師の人に質問してみると、「遊び着だと思われるから」。
いやGパンって、もともと作業着でしょうに‥‥と思ったが、介護業界の顧客層世代においてGパンは、「若者」「理由なき反抗」「流行」「カジュアル」「遊び」といった連想が働くものなのだろうか。というか、そう取られることを見越してGパンを禁じているという方が近いのかもしれない。
私自身は高校の美術科で彫刻を専攻して以来ずっと、制作の時はツナギかジーンズだったので、「遊び着」というより「作業着」という認識だったが世間は違ったようだ。
実習で行ったデイサービスや施設の職員の制服は、下は皆トレパンのようなコットンのパンツだった。


ジーンズは「OFFの時の服」というイメージが定着して久しい。ジーンズが若者向けファッションとして広まった結果、本来の作業着としての意味は薄まった。実際の現場の制服などももっと軽くて丈夫な布地が主流で、重くて乾きにくいデニムは使われなくなっているのだろう。
今やホームレスからIT企業の社長まで、3歳の子どもからお爺さんまでジーンズを穿いている。ジーンズほど穿く人によって異なる表情を見せるアイテムはないが、個人的に好きじゃないのは中高年の男性が高そうなジャケットにドレスダウンしたつもりで穿いている、たぶん2万か3万円くらいのジーンズ。カジュアルなおしゃれをしてますよというアピールが何か見苦しい。
一番セクシーに感じるのはもちろんカウリスマキの映画に出てくるような、色の褪せ方もくたびれ方もちょっとダサい、肉体労働者の穿くチープな感じのブルージーンズだ。
ジーンズにおいて、色気はなければないほど滲み出てくる。