『CLASSY.』5月号で大々的に復活していたバブルスタイル

『CLASSY.』は「シャツの襟を立てるカースト上位文化」に属する雑誌である。私にとっては世代はもちろん、文化的にも接点のないファッション誌。数年前にたまたま光文社から一冊本を出したことがあったが、そこのJJ系列女性雑誌とはほぼ無縁。
が、たまには異文化に接してみようかな、ボケ防止に‥‥と、喫茶店で5月号を手に取った。


まず、「里子」という見出しが目についた。「里子を作る12の色」「里子シンプル」「里子になれる服 第三弾」‥‥。里子(さとご)とファッションといったい何の関係が? とよくよく見たら、それは小泉里子という『CLASSY.』の専属モデルの名前であった。
当然、表紙も小泉里子。5月号では、白いシャツに白いショートパンツという、普通の人が着ていたら「体操着のコスプレですか?」というような難易度高めの組み合わせを爽やかに着こなしている(参照:http://www.kobunsha.com/shelf/magazine/current?seriesid=102002)。
この人が読者のロールモデルとなっているために、名前が見出しにも登場していたと。昔の『Cancam』の「エビちゃん」と同じだ。里子ってちょっと地味な字面から「さとご」しか浮かばなんだわおばさんは。


カジュアルなファッションが主流の昨今、『CLASSY.』もコンサバワンピの紹介ページは少なく、シャツやニットとパンツの組み合わせの写真が多い。とは言え、やはりブランド志向で男受けも女受けもカレシのママ受けもばっちりの上品無難なカッコばっかよね〜と思いながらページをめくっていって、私はあることに気付いた。
腰に巻きものをしている写真がちょくちょくある。シャツやニットやGジャンを、モデルが腰に巻いて袖を前で結んでいる。こういうのって、いつからありになったんだっけ?


私の記憶では、上物を腰に巻くスタイルが流行ったのは80年代の中頃から後半だ。ほぼバブル期と重なっている。私もよくやっておりました。だが流行は廃れカッコ悪いものになって、誰も腰に何か巻いたりしない時代が続いていたはず。少なくともこの20年近くは。
いやちょっと待て。腰にチェックのネルシャツなどをラフに巻き付けてる若者を、わりと普通に見るようになってしばらく経つなぁ、そう言えば。かつての森ガールファッションにも「重ね着」の一つとしてあったような気がする。
流行とは関係なく、腰巻きは地味に定着していたのか。こっちがぼんやりしているうちにオシャレとして復活していたのか。


とすると。あの時代に流行った、肩にセーターを掛けて前で袖を結ぶスタイルも、もしかして復活していたりして‥‥。
いやいやいや。あんな恰好は今時、お笑い芸人の小石田純一と松岡修造くらいしかしていない。”松岡修造ですら”していないと言うべきかもだが、いくら何でもアレはない。


と思っていたら、していたのであった。『CLASSY.』のモデルが。カジュアルなファッションに薄手のニットなどを肩に掛け、袖を胸の前にダランと垂らしている。昔のように左右の袖を結んでいる写真もあるではないか。い つ の ま に 。
この数年、ストールやショールなどの首周りの巻きものが流行っていたのでその流れと言えないこともないが、上物肩掛けとはあまりに意表を衝く展開。肩パッドが(一部で)復活していた時以上の衝撃だ。
ユニークだったのは、カーディガン。カーディガンを袖を通さずに羽織るという着方に、もう一捻りしてある。「第一ボタンのみをとめて、アシメトリーにカーデを羽織れば、こなれ度が3割増しに!」。
写真を見ると、昔の子どもがスーパーマンなどを真似て風呂敷を首のところで結んだのが遊んでいるうちにずれちゃった‥‥みたいに見える。セーター肩掛けがいつのまにかそういう感じにずれている人、昔もいました(私です)。こんな見方をするのは『CLASSY.』読者世代よりずっと上の、40代後半以上の世代だけですか。


気になったので、腰巻きスタイルと肩掛けスタイルの写真が何枚あるか、5月号の全ページをチェックしてみた。腰巻きはちょうど20枚、肩掛けは10枚もあった。爽やかさを強調すればするほど、ほのかに漂ってくるあの頃の匂い。もうこれはあれだ、アベノミクスの陰謀だ。
カップル写真に出てくる男性モデルも肩掛けしていないかとヒヤヒヤしながら探したが、小石田純一を連想させてしまうからかさすがにそれはなかった。だが女性ファッションにおいては、着崩しスタイルとして堂々とプッシュされていた。ということは、同じ光文社の『JJ』でも『VERY』でも『HERS』でもそういうのが出てくる、のみならず赤文字系ファッション雑誌界全体でOKになっている可能性がある。
20代からアラフィフまでの女子カースト上昇志向クラスで、知らないうちに復活していたバブル時代のカジュアルスタイルの代表格、腰巻き・肩掛けファッション。誰が予想できただろうか。流行は巡るとは言え。


achachum-muchachaの猫バッグを持ったりサルエルパンツ穿いたり「いい歳こいて」と言われそうな私だが、腰巻きと肩掛けはできない。年齢を度外視したとしてもできない。‥‥‥今更できるものですか。