書ける時間、描ける時間

以前、時々行っていた近くの喫茶店に、一人で来るおばあさんがいた。歳の頃は80歳を過ぎたくらい。
一人だけで来る人は珍しいので観察していると、彼女はコーヒーを注文した後、ラックから写真週刊誌を持って来た。次に、手提げ袋からお絵描き帖と色鉛筆のケースを取り出して、テーブルに並べた。そして、週刊誌をめくってしばらくあちこちのページを眺めていたが、あるところに目を留め、そこに載っていた女性タレントの顔を、色鉛筆でお絵描き帖に描き出した。
写真を覗き込んで少し描いてはまた真剣に見比べて描き、とても熱心にやっていた。コーヒーが運ばれてくるとミルクと砂糖を入れてちょっと口をつけ、またお絵描きに集中している。


店のマスターの話だと、その人は週に2、3回来て、小一時間ほど週刊誌の写真を見ながら絵を描いていくそうだ。帰りがけにチラッと覗いたら、ちゃんとそれなりに似せていて、一生懸命色を塗っていた。
おそらくデイサービスか何かで写真を見て絵を描くリクレーションがあって、家でもやることを薦められたのだろう。それで、写真週刊誌のたくさん置いてある喫茶店に通って描いている。
他の席でおばさんやおばあさんたち(私の住んでいる町は田舎なので老人が多い)が孫の話や通院の話で盛り上がっているのをよそに、その人は片隅で一心にお絵描きに没頭していた。
なんだか、将来長生きした場合の自分の姿を見るようだった。


ブログを書き出して10年くらい(はてなに来て6年半)になる。最近思うのは、いつまで続けられるのか、続けて大丈夫なのかということ。
書くことは好きなので、ブログという形式がある限り細々とでも書き続けたいと思うが、やがて年老いてボケが入ってきて、文章の「てにをは」がおかしくなったり、内容が明らかに支離滅裂になったり、同じ文章を何度も何度も繰り返したり、人を突然攻撃し始めたり、逆にくどき始めたり、これは炎上するかもしれないのでやめとこうと思っていたことをダダ漏れで書き出したり、というような症状が次々出てきたらどうしよう。
コメント欄やブコメで指摘されても、何を言われているかわからない。身近にやめさせてくれる人もいない。私のエントリーページにつけられるブクマのタグは [老害] から [認知症] に変わり、そのうちはてなの事務局に通報されてブログ凍結となる。‥‥‥厭だよそんな終わり方。
その前にブログサービスというものがなくなっているか、文章を書くという作業そのものが面倒になってやめている可能性は高いけど。


それに比べると、絵はいいと思う。まとまった文章が書けなくなっても、何か描きたいという気持ちがあれば気楽に続けられそう。もしボケたせいで変な絵になっても、顰蹙を買うようなものを描いても、アールブリュット(アウトサイダーアート)ということで大目に見てもらえる。かもしれない。
もの書きと画家を比べると、画家の方が現役が長いのではないだろうか。老いて集中力が続かなくなっても、数分で描けるスケッチやクロッキーをすればいい。書く方はなかなかそうはいかない。
何歳くらいまで書けるかな。



件の喫茶店はなくなってしまったが、あのおばあさんを思い出し、手近にあった週刊誌の真木よう子のグラビアを見て描いてみた。
元美術畑だが画家でもイラストレーターでもないので、基本的に描き込んで似せるという方向にしか行けない。でも手を動かしていると時間を忘れる。これは公開するのだと思うと、それなりに頑張れる。50代半ばから始める私のボケ防止。



真木よう子の顔は整い過ぎてて逆に難しい。石膏デッサン調。



別のグラビアをクロッキーした。似てない‥‥。