WEBスナイパー(18禁)に連載中の映画エッセイ「あなたたちはあちら、わたしはこちら」の第四回が更新されました。ティルダ・スウィントンとエズラ・ミラーが親子を演じた異色作『少年は残酷な弓を射る』(リン・ラムジー監督、2011年)を取り上げています。
- 出版社/メーカー: 東宝
- 発売日: 2012/12/21
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子供を産むのがなんだか恐い、子供がちっとも自分に懐かない、努力しても子供を愛せない‥‥‥。
不安と焦燥の中で、何を考えているのかわからない少年に育った子供がある日、全米を揺るがすような重大な事件を起こし、かつて著名な旅行作家だった母親はすべてを失う。「加害者の母」となったことで、壮絶な受難の日々に直面する女性の物語です。
ティルダ・スウィントンはこの作品で数多くの主演女優賞を獲得しましたが、サイコパスな美少年を演じて話題になったエズラ・ミラーの存在感も強烈で、幼年期を演じた子役がまた可愛い顔して無茶苦茶憎たらしく、その演技力に舌を巻きます。
お人好しの夫を演じるジョン・C・ライリーは、わりとよくこういう役を振られていますね。息子役のエズラ・ミラーが全然父に似ていないのは、母と息子の近似性を強く提示するためでしょう。なんとなくエディプスコンプレックスは匂ってきますが、それが直接的なテーマではありません。
映像はスタイリッシュで美しく、残虐シーンが露骨に描かれていない分、微妙に神経を削るような恐怖があちこちに散りばめられています。
今回のタイトルは、「「異物」と向き合う女」。
母性愛が謳われる映画は多いですが、子供とは「異物」なのではないか?というところから書き起こしました。「異物」とは、境界線の向こうにいる者=エイリアンであるとも言えます。でもそれは、どこか遠くではなく、<今ここ>にいる。
地球上のあらゆる場所が探索され、ネットに公開されて情報が行き渡っている現在、本当に未知で不可思議なのは身近にいる人間の心理。一般に男性より深く家庭、家族に関わることの多い女性ほど、それを実感するのではないでしょうか。そして親密圏は憩いの場であると同時に、闘いや冒険の場でもあることを。
イラストはキーカラーである赤を基調にして、母とその背後に息子の顔を描きました。濃い色を何度も重ねているため、撮影時に色鉛筆のテカリをカメラが拾ってしまい少しチラついているところがありますが、ティルダ・スウィントンの硬質で薄い陶磁器のような顔の雰囲気は、まあまあ出せたのではないかと思います。是非ご覧下さい。