WEB連載更新されました。「恋する女」。絵はキャサリン・ヘップバーンです。

WEBスナイパー(18禁サイト)に連載中の、映画に描かれた中年以上の女性を取り上げるシリーズ「あなたたちはあちら、わたしはこちら」第五回がアップされています。今回のテーマは恋愛。


中年女の恋愛ドラマというと、日本では一時期「失楽園」的不倫ものばかりがクローズアップされていた感がありますが、洋画を見ると結構多彩です。
未婚者や一度パートナーを失った男女の恋で思い浮かぶのは、『めぐり逢い』(1957、デボラ・カー×ケイリー・グラント)『男と女』(1966、アヌーク・エーメ×ジャン=ルイ・トランティニャン)、『恋愛適齢期(2003、ダイアン・キートン×ジャック・ニコルソンキアヌ・リーヴス)、『恋するベーカリー(2009、メリル・ストリープ×スティーブ・マーティンアレック・ボールドウィン) など。昔はメロドラマですが、最近はコメディタッチが受けている模様ですね。
既婚者同士あるいはどちらかが既婚者の恋愛ものは、『逢びき』(1945、セリア・ジョンソン×トレヴァー・ハワード) に始まって、『恋におちて』(1984メリル・ストリープ×ロバート・デ・ニーロ)、『ピアノ・レッスン(1993、ホリー・ハンター×ハーヴェイ・カイテル)、『マディソン郡の橋(1995、メリル・ストリープ×クリント・イーストウッド)、『イングリッシュ・ペイシェント(1996、クリスティン・スコット・トーマス×レイフ・ファインズ)、『ことの終わり』(1999、ジュリアン・ムーア×レイフ・ファインズ)、『最後の初恋』(2008、ダイアン・レイン×リチャード・ギア) など。
また、年下の男性との恋愛では、『ぼくの美しい人だから』(1990、スーザン・サランドン×ジェームズ・スペイダー) を思い出します。樋口可南子稲垣吾郎主演でTVドラマ化されていました。*1
ある程度の経験値はあるものの家庭から仕事までさまざまな事情を抱え、若さで突っ走るということができない分だけ複雑な陰影に富む中年女性の恋愛物語は、いろんな意味で見応えがあります。


その中で今回は、不倫恋愛の古典『逢びき』(1945)と『旅情』(1955)を取り上げました。二作ともデヴィッド・リーン監督作品。またそんな古いのを‥‥と言うなかれ。恋愛ものに古い新しいはありません。むしろ昔の作品で真実がズバリと語られており、後に出てくるのはほとんどそれの焼き直しやバリエーションと言ってもいいでしょう。

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旅情 [Blu-ray]

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『逢びき』(原題: Brief Encounter)はイギリスを舞台に人妻と医師の恋を細やかに描いた名作。劇伴として使われているラフマニノフのピアノコンチェルト第二番が印象的です。
『旅情』(原題:Summer Time)ではガラリと作風が変わり、カラフルなイラストが楽しいタイトルロールにスピード感があって、いかにも戦後のアメリカ映画といった趣き。異国での奇跡のような恋を夢見たハイミス(38歳)、ジェーンを、50歳近いキャサリン・ヘップバーンが見事に演じています。
いい歳して頭の中がお花畑のジェーンの妄想ぶりと自意識過剰ぶり、そこから来るいささか挙動不審なさまは、何度見ても笑えますね。イタい、滑稽、大人げない。もう自分の姿としか思えない。
この作品、アラフォー世代の女性には、特に沁みるのではないでしょうか。不器用な中年女の恋のほろ苦さと、そこを通過した後の清々しさ、それらをしみじみと味わえるようになったのは、私も35歳を過ぎてからでした。50代の今も3年に一回くらいは観直しております。


最後に、テキストではあえて触れませんでしたが、よく言及される有名な台詞を書いておきましょう。
レナート「空腹ならあるものを食べるんだ。肉がないならラビオリでもね」
ジェーン「飢えてないわ」
レナート「嘘だ。欲望に素直になるんだ」
すごいストレートな口説き方です。二十歳頃にこの映画を名画座で初めて観た時は、「ヤだこのおっさん、そんな露骨なこと言わなくてもいいのに」と思いましたが、中年になったらこういうのが効くんだとよくわかりました。
最後の我を張り、「だって夢と違うんだもん」と拗ねて背中を向けてツンツンしていたけど、やがて自分の滑稽さに気付き、すっかり打ち解けてデートを楽しみ、露天で売ってるようなオモチャにキャッキャしてるキャサリン・ヘップバーン‥‥‥つくづく素晴らしいです! 


そういうわけでイラストは、ジェーンが初めてサンマルコ広場に出た時の晴れやかな顔を中心に、重要モチーフであるベネチアングラスのゴブレットとクチナシの花を配しました。バックの色は運河のイメージです。どうぞよろしく。

「あなたたちはあちら、わたしはこちら」第五回 恋する女

*1:恋愛適齢期』でもダイアン・キートン演じる54歳の脚本家が、一回り以上歳の離れた青年医師のキアヌ・リーヴスに熱烈に求愛されてました。うらやましすぎます。ちなみにキアヌ・リーブスは『ラジオタウンで恋をして』(佳作)とか『50歳の恋愛白書』(駄作)とか、年上の女性に恋をする役をちょくちょくやってますね。