連載最後は「わがままな女」、ジャンヌ・モローです。

WEBスナイパー(18禁サイト)に連載の映画エッセイ「あなたたちはあちら、わたしはこちら」の最終回がアップされています。
2012年公開のフランス映画『クロワッサンで朝食を』(原題:Une Estonienne à Paris)を取り上げました。



50代のエストニア人女性がパリの老婦人の住まいに家政婦としてやってくるというこの物語、老婦人フリーダを演じたジャンヌ・モローがとにかく圧倒的です。彼女が登場するすべての場面に、異様な緊張感が漲っています。観客は中年女性アンヌの視線と半ば同化して、この80歳を超えたヒロインを注視することになります。
年老いても丸くならないわがままな老女ほど、周囲から見たら手の焼ける厄介な存在はないでしょう。しかし、そのわがままさをよくよく観察していくと、彼女独特の美意識や矜持や拘りがあったり、密かな個人史がうっすら浮かび上がってきたりします。
このフリーダという強い個性をもつ女性の人物造形に、女優ジャンヌ・モローが60年に渡って演じてきた数々の女たち、そしてモロー自身がギュッと凝縮されているように感じます。「年代もの」はやっぱり面白いですね、人も物も。(ジャンヌ・モロー名言bot (@la_moreau_bot) | Twitterなんてのもあります)


ファッションを眺めるのも楽しいです。フリーダは常に全身シャネル。似合い過ぎと思ったら全部モローの私物だそうです。それに対してアンヌの普段着は質素ですが、仕事着にしているギンガムチェックのエプロンドレスや刺繍の施された室内履きはとても可愛い。
二人の関係性の変化が描かれる場面で、フリーダのバーバリーのトレンチコートが登場します。フランス人とイギリス人のハーフというモローの背景を、ちょっと意識したものかなと思ったりしました。
高齢化が進む現在、気付くと中高年や老人を主人公とし、老いや介護について描いた映画が目につくようになってきましたが、その中でも異色の作品と言えるのではないでしょうか。アンヌの目から見たパリの映像も美しく、物語はビターな味わいながら深い余韻を残します。


観る前は、中年女性アンヌを演じたライネ・マギをイラストでクローズアップする予定でしたが、見終わった後はとにかくジャンヌ・モローの顔を、その皺を一本一本描きたい!という感じになりました。
テキストと合わせてお楽しみください。


「あなたたちはあちら、わたしはこちら」最終回 わがままな女