あの「猫の刺繍のシャツ」が本に

以前この記事でもご紹介した刺繍アーティストのhirokoさんが、本を出されます。

neko shirt ねこ刺繍

neko shirt ねこ刺繍


次男のリクエストで作った、シャツのポケットから猫が顔をのぞかせているシャツがネットで紹介されて有名になり、世界中からねこシャツの依頼が殺到しているhirokoさん。注文主から送られてくる飼い猫の画像を参照して刺繍した猫は、これまで100匹以上になるという(あまりに有名になってパクリ商品まで出回っているがクオリティは低そう)。
刺繍糸一本取りで一針一針、細かな毛並みから瞳の輝きまで、まるで生きているかのように再現された驚異的な手刺繍が、オールカラーでたっぷり掲載されている。キジトラ、チャトラ、サバトラ、シロ、クロ、三毛、ロシアンブルー‥‥‥、個性豊かな猫たちの表情が文句なしに可愛いし、シャツの色と猫の色の取り合わせの妙も楽しめる。「いぬシャツ」の写真もある。


もちろん刺繍の本なので、使っている生地や糸、道具、刺繍のやり方も、すべてが余すところなくとても丁寧に解説されている。作り方ページも写真ページもレイアウトがきれいで、ねこシャツ同様、さりげないセンスの良さが感じられた。
終わりの方には、ねこ刺繍入りオリジナル小物の作り方も掲載。リアルな猫は難しくても、こういうシンプルにデザインされた猫ならやってみたいと思う人は多いだろう。


だがこの本の中で一番すばらしいのは、特にやりとりの多かった注文主たちから提供された写真で構成されているページだ。
イギリス、アメリカ、ロシア、サウジアラビア、日本、中国、フランス、韓国、スイス、カナダなど、さまざまな国のさまざまな年代、性別、職業の人々が、hirokoさんに刺繍してもらった自分だけのねこシャツを着て写っている。モデルとなっているペットの猫と一緒の写真もいくつか。当然ながら、みんな幸せそうな顔(実は私も依頼を受けて自撮り写真を送っている。その関係で本を送って下さった次第)。
飼い猫が好きなあまり、シャツの胸ポケットから顔を出してるところを刺繍にしてもらって着ている人というのは、客観的に見れば”自分の愛着の対象をダダ漏れにしているお人好し”かもしれないが、そこがいいのだ。


海外の人とはほぼ英語でのコミュニケーションとなるので、辞書を引き引きのメール交換だったそうだ。一人一人の写真の横に、注文時に交わしたやりとりなどからまとめられた短いエピソードが添えられている。
送られてきた写真の猫はどういう猫で、注文主とはどんな関係で、彼/彼女はなぜこの注文をし、どんな仕上がりを希望していて‥‥。そういう細かな情報を知り、やりとりする中で、それぞれに異なる相手の背景や人となりも垣間見えることが、文章の端々から読み取れる。
ささやかな情報でも相手について知ることが、「その人のための世界で一枚だけのねこシャツを作る」という仕事の重要なモチベーションになっているのだろうなと感じた。


服のオーダーというのは大昔からあり、一方に注文を請けて描かれるペットの絵がある。ねこシャツは、その二つの良いところを併せ持った仕事に思える。
シャツは身につけてどこにでも行けるし、猫のリアルな刺繍はわりと人目を引くので、会話のきっかけにもなり易い。「それって手刺繍なの?」「どんな人がやってるの?」と聞かれたことは、私も一度や二度ではない。
奈良に住む一主婦の手仕事に世界中からオーダーが来ているという話は、まさに「ハウスワイフ2.0」的な生き方の成功例だが、この本から伝わってくるのはその真剣さ、丁寧さ、レベルの高さだ。


刺繍の本であり、猫の本であり、仕事について考えさせる本でもあります。



Go!Go!5 hirokoさんのブログ(「現在ねこシャツのご注文は受け付けておりません」との表示。既に多くの注文を抱えているためと思われます。一人で受注、刺繍、シャツの仕立て、商品梱包・発送までされているので大変です。ただ本の帯には「ねこシャツ応募優先権」なるものがついており、抽選で5名の人に「優先して注文できる権利」がもらえるとのこと)


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