40年後の三人

台風が来て、ムシムシ暑くて、かと思えば今日は雨‥‥という変わりやすい天候の中で奇跡的に清々しく晴れた先日、高校時代の友人二人と日帰りで篠島に行った。
名鉄のフリー切符で「夏の篠島 はも&あわび(日帰り昼食8900円)」というのを利用。名鉄の最寄りの駅から知多半島河和駅まで電車、そこから無料バスですぐ近くの河和港に移動、フェリーで日間賀島を経て篠島へ。
フェリーの中では、名古屋のスイミングクラブの小学生に包囲される。賑やかだ。そう言えばもう夏休みなのだ。ピーカンで夏休みの幕開けに相応しいお天気。
篠島港に着くと、ホテルの送迎の車で高台のこじんまりしたホテル海原へ。平日だったせいか客が他にいない。爽やかな海風の入ってくるお風呂に入ってから、渥美半島を臨むお座敷ではも&あわびコースを味わう。美味。昼間からビールに日本酒。ああ贅沢‥‥。


仲のいい中年の女優さん3人くらいが地方の温泉旅館に行くという旅番組を、たまにやっている。若い頃は、田舎に行って温泉入って刺身や天ぷらを食べるってことの、一体どこがそんなに面白いんだ、そこまでのんびりする時間があるなら、私なら他のことするなぁ、などと思っていた。
40代の半ばを過ぎてから、人生には時々そういうことが必要なんだなと思うようになった。温泉とか、いい景色とか、旅先で味わうちょっと美味しいものとかお酒とか。
平凡と言えば平凡なそれらのことがとてつもなく楽しく貴重に感じるのは、やはり一緒にいるのが気心の知れている人だからだ。まあ配偶者でもいいのだが、親しい女友だちだけで楽しむのはやはり格別なものがある。行楽地に中高年のおばさんグループが多いわけである。


小津安二郎の風俗喜劇『お茶漬けの味』の中で、木暮実千代演じる「有閑マダム」が、女友だち二人に姪を連れて伊豆の修善寺温泉に行く。お嬢さん育ちで上流趣味の妻は、田舎出身で実直な夫と今一つソリが合わず、夫を騙して鬱憤晴らしで遊びに行くのだ。
お酒を飲みながら「鈍感なのよ。鈍感さんよ」と夫の悪口で盛り上がったりしているシーンが、いい気なもんだねと思う一方、とても気楽で楽しそう。余談だが、ここで四人が着ている浴衣は、白地に尋常じゃなく大きな瓢箪柄(最初、牛柄かと思った)で、旅館の浴衣と思えないくらいアヴァンギャルドでカッコいい。


私たちは「有閑マダム」ではない。友人は二人とも自営業。一人は既婚で子どもが昨年大学生になり、もう一人は独身。私は既婚だが子どもがおらず、非常勤職。今はそれぞれ少しずつ立場や環境が違うが、高校の美術科で三年間同じクラスだった。つまりお互い16歳から知っている。
普段はしょっちゅう会わないので、お正月明けに三人で飲み会をするのが恒例だったが、友人の一人が親の介護生活に入り、私の方もバタバタして、しばらく三人揃って会うことはなかった。昨秋に一人の提案で日帰り温泉をやってから、3、4ヶ月に1回くらい「三人会」をするようになった。
この年齢になると、そういうプライベートのちょっとしたレジャーを定期的に作っていくことが案外大事になる気がする。それを楽しみにすることで、今もう少し頑張ろうと思えるから。



「私たち、40年前は16歳だったんだよね」
「うん‥‥」

申し合わせたわけでもないのに、オーバーブラウスの三人。ヒップを隠すトップスはおばさんの必須アイテム。