岩下志麻漬けの日

たまには日記を書いてみる。
7時に起きると雨だった。「散歩は雨が止んでからね」と犬に話しかける。ゆで卵とトマトとチリメンジャコのチーズトーストとコーヒーの朝食。
昨日一旦書き終えた原稿に手を入れていると、履物屋さんから電話。頼んでおいた下駄の鼻緒のすげ替えができましたと。しばらくして雨も小降りになったので、浴衣に着替えて出かける。ちょっとそこまでだけど浴衣、なのか、そこまでだから浴衣なのか。どっちでもいいや、着ていて楽しいものを着るのだ。
履物屋で下駄を受け取り、手芸屋で糸とコットンレース生地の端切れ(半襟にする)を買い、レンタルショップでDVDを借り、コンビニで缶ビールを買って帰る。雨が上がったのでそのまま犬の散歩に行く。帰って着替えて、稲庭うどんを茹でて食べる。おかずは昨日の豚しゃぶの残りとカボチャを煮たの。


岩下志麻について短いコラムを書く必要があって、借りてきたDVDを順に観る。初めて観る作品と、昔観たけどだいぶ忘れている作品。順に『風の視線』(1963)、『内輪の海』(1971)、『鬼畜』(1978)。全部、松本清張原作作品。こちらで『疑惑』(1982)について書いたので、ついでに同じ原作者の作品を観ておこうと。
小津安二郎の『秋刀魚の味』(1962)の岩下志麻からすると、『風の視線』はともかく、その後の岩下志麻はなんという変貌ぶりかと思う。『内輪の海』の濡れ場とか驚く。1971年くらいって、奥様のお出かけが着物というのは普通だったっけねぇなどと思いながら観る。
二本観て疲れたのでネットで岩下志麻情報を漁っていたら、ひどいものを見つけた。昭和の名女優の若い頃の画像まとめ【岩下志麻/大原麗子/若尾文子】の2ページ目若尾文子のところに、南田洋子(たぶん)と高峰秀子の写真が紛れ込んでいる。全然顔がちがうじゃないか‥‥。
夕食はビール、ナスのゴマ油炒め、鶏肉の野菜巻き、ポテトサラダ。


『鬼畜』(たぶん2回目)を観る。小川真由美、最初の方しか出てこないが素晴らしい。浴衣のすごく杜撰な半幅帯(にしては細く見えたが)の結び方も、いかにも面倒くさそうな感じでいい。緒形拳岩下志麻もむちゃくちゃ巧いし、特に岩下志麻は極妻なんかよりずっと恐いし、話は救いようがなくてドッと疲れるし、10年に一回くらいはじっくり観返したくなる作品。1978年頃の東京の風景も懐かしい。上野公園は変わらないが。
『鬼畜』のwikipediaのストーリーのところを読んでいたら、最後にひっかかる記述が。

自身を崖から突き落とした父を目のあたりにしても、利一は刑事たちに宗吉のことを庇い「知らないおじさんだよ!」と否定する。そんな利一にすがりつき、宗吉は後悔と罪悪感で号泣するのだった。


ええ〜? 最後まで利一は宗吉を庇ったというのが定説になってるの? そうじゃないと思うけど(原作は読んでないので知らない)。
父親に会わされるまで警察署で利一は、「お父さんに崖から落とされた」と言わず、「(自分で)落ちた」と言っていた。落とされた時寝ていた利一自身にも真実はわからないが、最後まで父親を信じたい気持ちがあったから、そう言っていたのだ。それを刑事たちは、父親を庇っていると見なしていた。
しかしついに父親が犯人として連れて来られ、その顔を見た時に、利一は総てを悟ってしまった。それで、深い落胆と悲しみと怒りを込めて「お父さんなんかじゃない、知らないおじさんだよ!」と、涙ながらに言い放ったのだ。もうお父さんとは呼べない、呼びたくないということだ。それがわかったから緒形拳は号泣したんじゃないか。
親にどんなに酷いことをされても、親が「鬼畜」でも、子どもは親を庇うものだって話じゃないよ。どんだけ都合のいい解釈かと。だいたい利一の心理を全然読めてない。弟が死に、妹がいなくなる中で、不安と疑惑に苛まれながらも父親を信じ慕っていたのに、その気持ちを完璧に裏切られてどんなにショックだったか。養護施設に送られる時の利一の顔には、「もう誰も信じない」と書いてあったよ。
明日は『心中天網島』(2回目)と『疑惑』(4回目)を観る。 さて、夜の犬の散歩に行かねば。そう言えば今日もほとんど犬にしか喋っていない。


<あの頃映画> 鬼畜 [DVD]

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