きものと頭痛

きものを買い過ぎてお金がなくなり頭が痛い、という話ではないです。涼しくなってきものを着やすい季節になってきたのは嬉しいが、頭痛に悩まされているという日常雑記。


昨秋、偏頭痛と肩凝りが酷くなり、神経内科で頸椎の椎間板ヘルニアと診断されたので、そこから来ている痛みだろうなと思いつつ、前も一週間くらいで引いたからそのうち直るだろう、我慢できないほどではないし‥‥と、一昨日はひさしぶりにきものを着て出かけた。一日パソコンに向かって仕事(時々ネット)しているのは、持病に良くない。


10月からは袷ということになっているが、まだ日中は少し暑いので単衣。温暖化で、従来のきものルールと体感が合わなくなっている。礼装の際やお茶会などならルールに合わせねばならないのだろうが、普段着なので気にしない。知り合いの呉服屋さんも、変わり目の時期は日中の気温が20度くらいまでなら袷、20〜25度なら単衣、それ以上なら薄物(夏用)でいいと言っていた。
この日は、塩沢紬に鳥獣戯画名古屋帯を合わせた。ちょっと暗いかなと思い、帯揚げを明るく、帯締めで色味を。
前は反対巻きにすると兎が出るので、気分で変える。


お太鼓の下線をグイッと斜めにして締めるという着付けにトライしてみたいが、まだ初心者に毛が生えた程度なので大人しく普通に着る。
昔の日本映画では、時々そういう粋な帯の締め方を見る。玄人筋の女性だけかと思ったら、『東京物語』でも、杉村春子が夏帯をかなり斜めに締めていた。それがわざとだと知らなかった頃は、一瞬「あれ?お太鼓が歪んでる」と思い、「あれが着慣れた風で粋なのね」と後で納得した。


友人のやっている美容院へ。私より年期の入ったきもの好きなので、帯の話でひとしきり。彼女曰く「そのうち挑戦したいことなんだけど。自分で帯に絵を描きたい」。飼っている猫をモチーフにしたいと。この人は同じ高校の美術科出身で絵が上手い。
「ついにそういうとこまで来たか」と私。「私もそれ、いつかやってみたいと思ってる。一度、Sさんに相談する?」
Sさんも同じ美術科で京都の美大日本画に進み、長らく帯の絵付けの仕事をしていた。いろいろ細かいことを教えてくれるだろう。


友人と来月きものでおでかけする約束をし、実家へ。夏物と単衣と夏帯を預け、預かってもらっている袷を数枚持ち帰る予定。そんなに大量にあるわけではないが、自分の家の箪笥には収納しきれないので。
きものを着て行くと、母はとても喜ぶ。私の帯を見て、亡き父が大切にしていた鳥獣戯画の扇子を出してきて、「同じ図柄があるわ」とはしゃいでいる。
本人はきものを着ないが、祖母はよく着ていたので、またその話になる。老人は同じ話を何度も繰返す。それを初めて聞くような顔で聞いてやるのが、こちらの務め。私のきものライフは今のところ、半分くらいは母のためかもしれない。
帰りに美術館とギャラリーを回ろうと思ったが、やはり頭痛がしつこいので諦めて帰宅。



翌日、一年ぶりに神経内科に行くと、「これは後頭神経痛。頸椎ヘルニアとはとりあえず別です」と言われた。「とりあえず」というのは、痛めている頸椎より上の部分から、後頭部にかかる神経が出ているため。念のためCTを撮るが異常なし。
後頭神経痛は最近多いらしく「今日も3人いました」とのこと。痛みはズキンズキンやガンガンではなく、軽めの頭痛が時々変則的にズッキンと刺すような強い痛みになるというもの。突然激しく来るので、思わず「いたた‥‥」と声が出ることがある。
ストレスなどでなりやすく、これといった予防策や治療法はないそうだ。枕を高くしない方がいいくらい。現代病の一つかもしれない。鎮痛薬を大目にもらって帰る。


頸椎ヘルニアの方は、おそらくパソコンをしている時の姿勢が原因の一つだろう。昨年あたりから書き物仕事が少し増えたのは有り難いが、その分長くパソコンに向かうことになった。首がだんだん前に出て、首に負担が掛かったまま固定した姿勢でいた。もともと肩凝り体質の頭痛持ちだったが、それが酷くなり左腕に時々軽いしびれも感じ始めて、やっと病院に行ったのだった。
この症状が広がり手足が動かせないくらいになった人は手術をするが、医者が下手だと半身不随になることもあるらしいので恐ろしい。せいぜい姿勢を良くし、マメに肩を回す運動をしたりして、これ以上の悪化を防ぐしかない。


きものを着ると、帯を締めるせいか姿勢が良くなるので、家でも着ようかなと思い始める。木綿のきものに割烹着を着れば家事もできるし、長い前掛けをすれば犬とも遊べる。きもの着ているという楽しさで、少しは頭痛も紛れるかも。
困ったことからは極力逃げる私だが、どうしても逃げ切れないとなると、それを好きなことと結びつけてなんとかならないかと考える癖があるようだ。


「仕事(学校)には着ていかないの?」と友人に聞かれるが、喋りながら結構板書をするタイプで手を思い切り上げるので、相当着崩れるはず。着崩れ気にしながら講義するのは厭だ。「タスキ掛けするとか」。いやそこまでして‥‥ですよ。
今期、京都造形芸術大学に週一で行くことになった時も、友人に「きもの着ていくの?」と言われたけど、まあ無理です。洋服を着て外で過ごしている時、服のことなど忘れている。たまにトイレの鏡でちょっとチェックするくらいだ。きものを着ていてもそのくらいにならないと、なかなかね。でも京都に行くと、必ずきものの人を何人か見かけるので、それが楽しい。
‥‥などと書いている間に、出かける時間になった。