魔女の秘密展

魔女の秘密展 Secret Witches Exhibition
2月19日から3月13日まで原宿ラフォーレミュージアムで開催される模様。


去年の夏、名古屋市博物館で見た。展示に工夫が凝らされており、特に処刑関係のブツは生々しかった。
最後には安野モヨコを始めとして漫画家やイラストレーターが描いた「現代の魔女」も登場。『魔女の宅急便』がなぜ入っていなかったのかはわからない。いろいろ理由があるのだろう‥‥。


その時に新聞のコラム欄用に書いた短いテキストを掲載しておきます(「普通のレビューではなく、展覧会を通して”現代”に言及してほしい」という編集部の依頼に沿ったものなので、展示の記述は少ないですが)。

←使った図版(カタログから)

 先月、インド東部の村で、魔女の疑いをかけられた女性5人が、村人の集団リンチで殺害されるという事件が起きた。災いや不幸を特定の誰かのせいにし、皆で制裁を加えて溜飲を下ろしたいという集団心理は根強い。魔女はその象徴だ。
 この展覧会は、魔女を描いた木版画や油絵、魔女のものとされる道具類、魔女裁判で使用された拷問や死刑執行の器具など、日本初公開を含む貴重な史料約百点を展示し、ヨーロッパで魔女という存在がどのような歴史を辿ってきたのかを解き明かしている。
 魔女裁判が最も盛んだったのは、活版印刷の発明で情報革命が起きた15世紀半ばから18世紀。魔女にまつわる扇情的な情報が広く共有され、誰でも魔女を告発できるようになったためだ。また司法の近代化によって証拠が重視され、自白を得るための拷問が合法化。その結果、300年間で6万人強の人々が、魔女として処刑された。スケープゴートとなったのは、共同体の中で異質な者や貧者たちだった。
 魔女狩りの時代が終わっても、魔女のイメージは人々を捉え続けた。図版は、恐ろしく邪悪な者から、ミステリアスで知恵者でもある現代の魔女のイメージへと移り変わる、ちょうど中間にあるものだ。一見、台所の隅で鍋を掻き混ぜる老女。そこに、鍋から覗く薬草、膝に載せた魔法の本、足下に散らばるタロットカード、動物や人の頭蓋骨が加わって、魔女らしさが醸し出されている。
 さて、21世紀にもなって魔女狩りが行われたと聞くと驚くが、似たようなことはネット上でも起こっている。個人への誹謗・中傷が瞬く間に多くの人に共有され、時に、誰かを血祭りに上げたいというネガティブな心理を煽っている。私たちに今必要なのは、多勢に流されない孤高の賢者としての魔女だろう。

(2015年9月13日、朝日新聞東海版日曜版+C『百聞は一見』欄)


カタログも充実。「日本人から見た魔女概論」「魔女小史」「今こそ魔女を知るべき理由」「魔女と薬草について」などテキストが良い。