映画レビュー「親子でもなく姉妹でもなく」、第三回がアップされています。

他人同士の歳の離れた女性を描いた映画を通して、女性たちの関係性について考えるこのシリーズ、今回はサマンサ・ラングというロンドン出身の女性監督の撮った1997年の映画『女と女と井戸の中』を取り上げました。
表題の井戸をはじめ、いろいろと見る者の”解釈脳”を刺激する要素が散りばめられた、サスペンス風味のちょっと変わった心理劇です。


孤独な中年女と若く奔放な娘――男を葬り去る女たちの『女と女と井戸の中』


相手に夢中になってだんだんタガが外れていく中年女と、彼女を利用する気紛れな娘。
これが中年男と若い女ならよくある陳腐な話になりそうなところですが、肚の探り合いや無邪気な共感や世代ゆえのズレなど、同性同士ならではの安心感と緊張感の微妙な共存ぶりが面白いです。
土地と父親に縛られる抑圧的で地味な暮らしを続けて歳をとってしまった女の夢見た「解放」はどこか痛ましく、家父長制と同性愛がいかに相容れないかもじんわりと伝わってきます。


中年女ヘクターを演じた、オーストラリアで活躍する女優パメラ・レイブはこの一作しか知りませんが、長い年月の間にさまざまなものを抱え込んだ心と体の重みが伝わってくるような演技です。
若い女キャサリン役のミランダ・オットーは、捉えどころのない猫のような雰囲気がよく出ています。この後ハリウッドに進出し、『ロード・オブ・ザ・リング』にも出演して有名になりました。


女優たちの演技以外で見どころは、風の吹きすさぶオーストラリアの荒れ地の風景。
この茫漠とした何もない土地で孤独に老いていくだけだと思った時、後先顧みず「今の輝き」だけを切実に求めてしまう女の気持ち、中年を過ぎてしみじみわかる気がしました。


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