温厚なクマと利発なリス‥‥中年夫婦の店に見る安定のパターン

私は普段外食はほとんどしないけれど、夫が単身赴任先から帰ってくると、一緒に行く近場の店が何軒かある。
いずれも中年の夫婦でやっている、カウンター中心のこじんまりした和食屋や居酒屋。値段はわりとリーズナブルで料理は普通に美味しく、何よりくつろげて居心地がいい。
自分たちと年齢の近い夫婦がやっているからそう感じるのかと思っていたが、それ以外に共通点があることに気づいた。


包丁を握る旦那さん *1 は見かけノッソリしていてあまり喋らないが、こちらから何か聞いたおりに口を開くと、どことなくユーモラスな人柄がうかがえる。奥さんは小柄で、シャキシャキしていて明るい。
動物に喩えると、温厚なクマと利発なリス、みたいな感じ。
今月初めに観光で新潟に行き、夫のマンションの近くの鮨屋に連れられていったら、やや年代は上だったがやはり見事に同じパターンだった。良い店、旨い店はたくさんあると思うが、自分たちが安心できるのは、こういうバランスの夫婦の店だと思った。


これが逆に、旦那さんが陽気で口数が多くて、奥さんがいかにも陰で支えてますという風味だと、なんか落ち着かないのだ。
まあ調理担当の人は仕事中あまりペラペラ喋ってほしくないし、接客の人は明るい方がいいという基本的なこともあるが、夫婦の関係性として見ていても、その方が何となく収まりが良く見える。
‥‥という話を夫とした後で、ちょっと考えた。


今の50代から60代というと、その親世代は高度経済成長期、夫が外で働き、妻は家事育児に専念していたケースが多いと思う。自分たちの生活スタイルはそれとは違ってきているし、「男女平等」は当たり前のこととして頭では理解しつつも、感情や感覚的なところは保守的な部分を残している。
お店でも、包丁を握っているのは旦那さんであり、夫の側が店の「主人」となっている構図は従来的なものだ。でも見た目の関係性としては、旦那さんが大人しめで奥さんが活発、旦那さんがボケ役で奥さんがツッコミ役、となっている。
それによってある種のバランスがとれて、安心できる感じが醸し出される。そこに、長年一緒に暮らし一緒に仕事をしてきた人同士の、一朝一夕では作れない安定感が加わる。


もちろんこちらの知らないところでは、いろんなことがあったんだろう。それはこちらも同じ。でも、何とかかんとかここまで来た。お互い、まあ頑張りましたよね‥‥‥。そんな同世代・同族意識が、カウンターの向こうのクマさんとリスさん見てると、自然と共有できるような気がしてくるわけです。
旦那さん=リス、奥さん=クマのパターンも、乙なものだと思う。小柄でよく動く職人肌の旦那さんと、どっしり構えた貫禄のある奥さん。ノミの夫婦。


ちなみに私のところは2人とも小柄なので、ビジュアル的には面白みがない。夫はいろんなことを次々思いつきで喋る人で、こっちはもっぱら聞き役。そして時々変なところをツッコむ。口数は(外では)夫の方が多めだが、やはり同じボケとツッコミのパターンになっているようだ。

*1:「旦那」や「主人」という言葉、夫婦に上下関係が持ち込まれている感があるので、あまり好きではありません。「その言葉は性差別を含んでいる」と批判する人もいると思います。が、世間では通りのいい言葉なので、対人的には「旦那さん」「ご主人」などと使うことがあります(自分の夫は「夫」です)し、ここでも他に適当な言葉が見当たらないので使ってます。「奥さん」も同様。あえてカタカナで書くことも考えましたが、不自然に見えたのでやめました。