きもののボンデージ性とは

週一平均できものを着始めて2年と9ヶ月。きものの持つ拘束感にはまっている大野です、こんばんは。


ボンデージ(拘束)のコスチュームはいろいろありますが、全身を締め付ける特殊なものを除くと、基本的に洋装下着が原型になっていますよね。ブラジャー、コルセット、ボディスーツ、ガードルは、乳房と臀部を丸く持ち上げ、主にウエストを締めつけて、女っぽくセクシーなボディラインになるよう身体を成形するアイテム。
もっとも強く締めつけられるのは、今も昔もウエスト近辺でしょう。私も昔、ウエストマークのスカートのホックが掛からなくなって、泣く泣くウエストニッパーで締めつけたことが。あと、寄せて上げる系のブラも、胃のあたりが結構きついですね。年齢的に、もうそういうのはしないけど。


きものの場合、洋装のように身体を誇示する思想がありません。基本的かつ古典的な洋装女服は、下着で成形された身体ラインを活かすように立体裁断、縫製されますが、きものは直線裁ち・縫いの衣服で身体全体を包みます。きものは、身体の存在を曖昧化する衣服なのです。
その中に、きもの独特のボンデージ性があります。たしかに女性のきものは、紐が多くて拘束的な点も帯巾が広いのも、封建制の反映と言えるかもしれません。でも、着る過程で味わう、洋服とは異なるフェティッシュな感覚や、着終えた時の身体感覚が私は好きです。それらについて、日頃感じていることを書いてみたいと思います。


フルコースだと足袋以外に、胸の膨らみを押さえるきもの用ブラ(または晒し)、補正タオル、肌襦袢長襦袢、長着(きもの)、帯、帯板、帯枕、帯揚げ、帯締めと、身につけるものが多いきもの。ここにそれぞれを装着・固定する紐類が加わって、胴体は下手をするとボンレスハムのような状態に‥‥。
しかし、しっかりキツめに締めねばならないのは、きものがずり落ちないように固定する腰紐、お太鼓を固定する帯枕の紐、帯自体を固定する帯締めの三本だけ。それ以外の紐類は、合わせた身頃や衿が動かない程度の強さに締めれば大丈夫です。


下ごしらえ(下着と長襦袢)ができたら、きものをマントみたいに肩にはおってから、袖を通します。片腕を通してから着る洋服と順番が違うのは、布地の面積が大きいためです。
その分、重さもあり、重さもある分、「まとう」という感じになります。これがいい。生地の種類によって、結城紬のようにふわっと包まれる感じだったり、大島紬のようにひんやり滑る感じだったり、縮緬のようにしんなりとまとわりつく感じだったり。この最初の段階でフェチな感覚が刺激されて私はワクワクします。


裾を上げ左右の身頃を合わせてかける最初の腰紐は、裾が下がってこないよう、キツめに締めます。紐の位置は私は、腰骨から臍の下、やや前下がりで、後ろは尾てい骨の上部あたり。
相当ギュッと締めてもここは別段苦しくも痛くもありません。むしろ気持ちがいい。褌やまわしを締めるとはこういう感じだろうなという、キリッとした体感があります。ついでに下腹のお肉も持ち上がって一石二鳥。
衿を合わせ、動かないよう胸紐を締め、最後は伊達締めです。後ろで交差させた時にやや強めに左右に引いてシャキっとさせる瞬間が、「きもの完成だぜ!」という感じがして好きです。


この時点で体に巻き付いている紐類は、最低4本。それに加え、私はきもの用ブラの下のラインに、補正と汗取りと帯枕の紐を受けるクッション用に、畳んだハンドタオルを挟んでいます。
こうして、ウエストのくびれに乏しい中年は、ほどほどに寸胴の、帯の巻きやすい形に体が成形されます。


きものの帯は、世界の民族衣装の中でも特異な存在です。衣服を帯で固定する形式は多いですが、ここまで巾と長さがあり、さまざまな意匠を凝らすようになったものは他にない。
帯を締める時は、巻く方向と逆回りの方向に自転しながら、一巻きごとに下側を持ってキュッと締めるのがコツです。自分が帯を巻いているのか、帯に自分が巻かれているのか。とにかく長くて美しいものが、シュッ、シュッという絹ずれの音をさせて胴体に巻きついていく拘束感はたまりません。


帯枕の紐は肋骨の上で少しキツめに結んでから、前帯の内側でぐっと下に押し込みます。ここでお太鼓が背中にピタッとついてくるのが気持ちいい。前帯の上部にはハンドタオルを挟んでおいて後で抜くと、胃のあたりに余裕ができて楽です。かさばる財布を持ち歩きたくない時は、ここに直接お札と小銭入れを挟んでます。スマホを突っ込んでる人もたまにいます。
ほぼ飾りの帯揚げはふんわりと。帯を胴に二重に巻いている(場合によって間に帯板も挟む)ので、最後の帯締めをしっかり締めても苦しくはありません。


着付け完成。
一番締めつけ感がある箇所は、前は胃の下から臍下あたりまで、後ろは尾てい骨あたりから肩甲骨の下まで。このエリアが幾重にも布で巻かれて固定されている感じは、きものに守られているようで、安定感があってとてもいい。ぎっくり腰をやってから、特にそう感じるようになりました。帯がコルセット代わりになっています。
胸元はきっちり衿が重なり合い、腕も脚も隠されていて安心。肩、腕、脚には見た目ほど窮屈感はありません(大股では歩けませんが)。気持ちいいところをしっかり締めつけつつ大事なところを守り、襟足や脇や袖口や裾はスースーと風を通す。
私にとってきものを着る楽しみの一つはこの、一度はまると病みつきになるボンデージ感を味わうことです。