現代ロシアの階層差を静かに告発する『エレナの惑い』(「シネマの女は最後に微笑む」更新されました)

告知遅れました(←いつものこと)。。

映画から現代女性の姿をピックアップする映画レビュー第38回は、アンドレイ・ズギャビンツェフ監督の『エレナの惑い』(2011)を取り上げています。
現代ロシアの階層差や性差の生む問題を、一人の中高年女性の”許されざる行為”を通して浮かび上がらせた、鋭利にしてずっしり重い作品。テキストではネタばれギリギリまで書いています。

 

持てる者に依存して生きるしかない、階層社会の生んだ深い諦観 | ForbesJAPAN

 

エレナの惑い アンドレイ・ズビャギンツェフ HDマスター [DVD]

エレナの惑い アンドレイ・ズビャギンツェフ HDマスター [DVD]

 

 

冒頭の固定カメラの妙に長いシーン、初めて観た時は「なんだろう、このオープニングは‥‥」と思いますが、最後まで見て深く納得。


誰か特定の人間に感情移入させることなく、淡々と出来事が積み重ねられていきます。

殊更興味深く思ったのは、登場する3人の女性(富裕層のウラジミルを夫にもつエレナ、エレナの息子セルゲイの妻、ウラジミルの一人娘カタリナ)の、所属する階層によって生じたであろう性格のくっきりとした差異。


貧しさに甘んじ夫の言いなりになっているセルゲイの妻には、状況を変えようという意志もうかがえず流されている。

一方、カタリナには、自分の位相に甘えまいとする自立心と、父や社会への反骨的な批判精神がある。
その中間にいる不安定なエレナが、どういう知恵に頼ろうとするかが後半見えたところで、「それしかないのか」「ないんだろうな、やはり‥‥」という気分になる。

 

傑作です。未見の方は是非!