『15年目のラブソング』と『おもかげ』

お待たせしました。「シネマの女は最後に微笑む」第80回と81回のお知らせです。

 

◆『15年目のラブソング』(ジェシー・ペレッツ監督、2018)

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邦題がいまいちですが、中年前期の男女の微妙なずれの描き方がリアルで、何気ない細部も楽しめる作品。ヒロインを中心に、オタクな大学講師の恋人と、彼が崇拝するロックスター(今は落ちぶれている)との対比が、だんだん鮮やかになっていくさまが見事です。
とりわけ、元ロックスターを演じるイーサン・ホークが素晴らしい。妻や恋人との間に子供を作っては捨てられたり逃げたりするダメ男で非常に情けないけれども、そこを「ま、しかたないよね」で終わらせないところがいいです。
一方、クリス・オドネルの演じる自分の世界にこもり切りの恋人も、非常に「いるいる」感があり、なかなか笑えます。

客観的に見ればどちらも身勝手な男ですが、元ロック・スターの方に年の功とユーモアが感じられます。ヒロインは一緒に成長していける相手を選んだのでしょう。しかし大人になるのは難しいものです。

 

◆『おもかげ』(ロドリゴ・ソロゴイェン監督、2019)

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2017年に多くの賞を得た短編がそのまま置かれている冒頭の15分でかなりもっていかれ、その後、幼い息子を突然失ったエレナの10年後が描かれます。
エレナに恋する美少年ジャンの「クソ生意気さ」が、さすがフランス人のガキンチョという感じです。親が海辺に別荘を持っているプチブルの16歳でどうやら既に性体験済み、友達も多く頭も悪くなく23歳も年上の女性に臆せず対等に接しており、変な策を用いず無邪気な点だけが年相応。
こんな男の子、日本人に置き換えてみると希少種、むしろファンタジーの領域でしょう。うんと年上の女を落とそうと寄ってくるのはもっとチャラい遊び人の少年だろうし、そうでなければ恋愛感情を抱いてもあそこまで近づく勇気は持てないはず。
積極的な16歳と大きな傷を抱えた39歳という設定でも少し危うさを感じさせるのに、それが「息子と母」であったら完全にヤバい領域に足を踏み入れます。この作品はその瀬戸際を主人公に行ったり来たりさせていて、その意味でもかなり大胆な試みをしていると感じました。深い後味の佳作。