チャウシェスク政権下の女子大学生に現代を透かし見る(「シネマの女は最後に微笑む」第24回更新されました)

映画から現代女性の姿をpickupする連載「シネマの女は最後に微笑む」第24回は、『4ヶ月、3週と2日』(クリスティアン・ムンジウ監督、2007年)を取り上げています。
人口増加を目指して中絶が禁止されたチャウシェスク時代のルーマニアで、友人の違法中絶に協力する大学生の一日を描いた佳作。第60回のカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。


「こうするしかない‥‥」友人のために奔走した女子学生の諦念 | ForbesJAPAN



わりと地味な感じの冒頭から徐々に、本当に徐々に引き込まれて、気づくとにっちもさっちもいかない緊張感の中に見る者を巻き込んでいく演出は秀逸。
「悲劇」と言っていい内容ですが、しかしこれはありふれたものだったろうと思わせる出来事が、長回しのカメラを多用しながら淡々と語られます。
深刻な状況の中に脱力系の笑い(というか笑い未満か)がふと挟まれるところは、ちょっとカウリスマキを思わせたりもしますが、ほのぼの‥‥とはなりません。無情です。


主人公のオティリアにおんぶにだっこの友人ガビツァは、「いるいる、こういう人!」と思う人が多いのではないでしょうか。困ると泣きつくくせに、こっちが心配して走り回っているのに結構シレッとしている。悪気がなさそうだから余計に厄介なのだけど、案外相手の人の良さにつけこんでいるのかも‥‥?とか思ったりして。
オリティアが渋々顔を出す、恋人の母親のバースディパーティでの大人たちの遠慮のない会話も、聞いていて陰鬱になってきますが、「今」に通じる興味深いものがあります。


私の好きな箇所は、「処置」が済んだ後、ホテルでガビツァを問いただしつつも、怒りには至らず諦めが見え隠れするオティリアの横顔を、アップで延々と映し出すシーン。ここでの印象がラストで効いてきます。オティリアを演じたアナマリア・マリンカという女優、すばらしいです。
終盤に近いところで(作り物の)「胎児」が結構長く映るので、そういう画像が苦手な方は要注意(出てくる前触れはわかりやすいです)。