2012-01-01から1年間の記事一覧

父の手とオリオン座

老人介護施設に入所して5ヶ月、今月7日には「ハイ」「ネコ」「サキコ」という単語しか発せなくなっていた父は、その一週間後に訪ねた時、一切の言葉と表情を失っていた。 数日後、スケッチブックとサインペンを持って再び訪ねた。いつも書き物をしていた父…

イブの日の葬儀

一昨日と昨日、知人の通夜と葬儀に出席した。 夫を通じて知り合い、いろいろ御世話になった先生である。癌が見つかって入院されているのを人づてに聞いた時は既に面会謝絶の状態で、それから一ヶ月足らずで亡くなった。70歳。秋に拙書を送ったのに丁寧なお礼…

大学は「幸せ」について話し込む場所

昼休みに、一般教養の講義に来ている学生の一人に「作品を見てほしい」と言われ、アトリエの外壁に立てかけたかなり大きなそれを見ながら、立ち話をしていた時のこと。 まもなくアトリエからその科の実技助手(たぶん)の人が出てきて、「ふむ」というような…

言葉の抜け殻と紙の帽子

このところは毎週金曜日に、仕事の後で実家に寄って母をピックアップし、介護施設の父を訪ねるのが習慣になっている。 昨日、他の老人がテレビを見たり、クリスマスの飾り付けをスタッフの人と一緒に作っている食堂の中で、父は一人だけ離れたところで窓の方…

「はてサ」で盛り上がる人々

先週は、はてなブックマークのお気に入りを見るに、「はてサ」の話題が目についた。そこで言われていた「はてサ」とは、はてなブックマークを中心に左翼的な立ち位置を表明している人の中で、言動に一貫性がなく党派的且つ攻撃的で人の批判を受けつけない代…

田舎の通夜、喪の作業

夫の伯父が、突然亡くなった。伯父は義父兄弟の長兄で、岐阜の山奥の川沿いの古い田舎屋敷に住んでおり、夫が従兄弟と仲が良いこともあって、私達は年に一回くらい泊まりに行く。 夏頃、脳溢血を起こして入院したが回復し、奥さんと一緒にデイサービスに通っ…

お知らせ

9月末に出た拙書ですが、ようやく紙媒体で言及されました。今朝の読売新聞9面の『時の余白に』(編集委員 芥川喜好)という長めのコラム欄の終わりの方です(書評欄ではありません)。*1 *2 アスリートという言葉の流行への違和感が綴られた後に、『アーテ…

「現代美術って、やおいだな」「は?」

何をどこで聞き齧ってきたのか知らないが、夫が突然、「やおいって何だ?」と言った。 彼は「腐女子」も「BL」も知らない。そもそもあまりマンガを読まない。エヴァですら、テレビ放映も劇場版も見てなくて偶然パチンコで知ったのである。50代の普通のおじさ…

「壁がないからアートが売れない」という話

「ネット上の他者の言葉と自分の言葉を併置してみるシリーズ」第二弾です(第一弾はこちら)。 昨日見たやりとり。@asakasaku そんなものですwでもヨーロッパでは壁にかける安い絵を探してる人は結構いて、アートもそこそこ売れるんだよね。市場があるのとな…

アート、症候、ドーナツの穴

私はTwitterをやっていないが、興味をもった10数人のアート関係の人々のtweetを時々見ている。その中で最近印象深かった発言。 ともあれ、ブリュットであろうがファインであろうが、「アートは表現する」と言うのは正しくない。もしくはきわめて瑣末な属性で…

丸木俊と丸木俊子

雨がシトシト降る中、三岸節子記念美術館で開催中の「生誕100年記念 丸木俊展」を観に行った(私の今住んでいる一宮市は三岸節子の出身地)。2月から5月にかけて丸木美術館で行われた企画展の一部が来たものらしい。 洋画家 丸木俊(旧名 赤松俊子、1912−20…

美術館の人々、あるいは「人間の方が気持ち悪いがや!」

先週末、金沢に遊びに行ったついでに、金沢21世紀美術館で開催されていた現代美術展『ソンエリュミエール―物質、移動、時間』、『ソンエリュミエール、そして叡智』を観てきた。 ほぼ旧作の展示なので、村上隆の「シーブリーズ」を初め、個人的には既に観た…

縮んでいく人

既に通い慣れたと言っていい感じになってきた老人介護施設の、父の入居しているフロアに上がり、この時間帯ならいるはずの食堂を覗くと、車椅子の父は見当たらなかった。部屋かな?と個室を覗いても、もぬけの殻。 おかしいなぁと食堂に戻りつつ、ふと今通り…

とてもささやかながら若松監督の思い出を

若松孝二監督が亡くなった。告別式の事務を取り仕切る東京の友人から夫のところに、通夜と葬儀の連絡が届いた。夫は仕事があって行けないので、別の友人と連名で花輪を出すことにした。 夫は映画業界の人間ではないが、若松氏とは二十数年来の知古だった。監…

「私、朝鮮の人になっていたかもしれない」と母は言った

実家に行ったら、母が昔のアルバムを見ていた。なんと、自分の幼少期からの年代ものである。 母は昭和12年(1937)生まれ。最初のページに、一つ上の姉と一緒に写っている2歳半の母の写真があり、その上にずっと後で父が母だけ引き伸ばした写真が貼ってあっ…

わたしの叔父さん

タイトルはジャック・タチの『ぼくの伯父さん』の真似です。 私の叔父は母の歳の離れた弟で、私より十歳上の63歳。タチのユロ伯父さんとは違い、既婚で、成人した子どももおり、仕事はしていなくて、別にオシャレでもない。‥‥が、ひょろりと背が高く、飄々と…

車椅子を押して

昨日、昼で終わった仕事の後、介護施設の父を見舞った。食堂のテレビのすぐ前に、車椅子に乗せられた父がいた。勝手に立とうとして転ばないようにシートベルトをされていた。声を掛けると、夢から醒めたような顔をして私を見、片手を上げた。 「今日は一人で…

非ヤンキーはヤンキーを語る

斎藤環先生の「ヤンキー文化」ツィート - Togetter 『世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析』(角川書店、2012)で、ヤンキー文化論(という名の日本人論)の最前線に躍り出た感のある斎藤環。以下は、特に印象に残った斎藤先生のtweet。 ●地方の学校…

父が施設に慣れるまで

老人養護(介護)施設に入った人がその環境に完全に慣れるまでに、平均して一ヶ月くらいかかるという。しかし8月半ばに入所した父はいまだに気分の波が激しく、いろいろ問題行動を起こしているようだ。 それというのも、入所して10日、少し慣れ始めた矢先に…

「愛知ビエンナーレ」なんてありません

新著を読んでくれた知人から、メールで間違いを指摘された。「はじめに」の最初の方。 「P7、愛知も、ビエンナーレではなくトリエンナーレですよ(笑)。」 ぎゃーっ!! なんてこった!!!! あまりに堂々としたミスに3センチくらい飛び上がってしまった。 地元…

「書き手だけが読む特殊な形式」と「誰もが読む一般的な形式」の違い

マクルーハンの説明はこうです。紙に印刷して読むとき──つまり、反射光で文字を読むとき、私たちの受容モードは自動的に、そして脳生理学的に「分析モード」になり、心理的モードは「批判モード」に切り替わる。したがって、ミスプリントを見つけやすい。 […

新刊のご案内 - 『アート・ヒステリー なんでもかんでもアートな国・ニッポン』

アート・ヒステリー ---なんでもかんでもアートな国・ニッポン作者: 大野左紀子出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2012/09/26メディア: 単行本購入: 39人 クリック: 508回この商品を含むブログ (15件) を見る ” その言葉が盛んに叫ばれ、常にプラスの価…

消費者でもクリエイターでもなくプロでもアマでもなく

ネットによって文章を書くようになった人たちは消費者でもなくクリエイターでもなかった – Togetter 素人が増えただけで仕事を失うプロなんて、淘汰されるしかあるまい – シロクマの屑籠 ネットによって文章を書くようになった人たちに淘汰されるプロの怨念 …

夏の終わりの変な夢

この夏は、父の入院から老人介護施設入居までのゴタゴタがあった後、やっと施設に落ち着いたと思った父がまた病院に逆戻りしたり、久しぶりに東京に展覧会を見に来た瞬間に父の件で名古屋に呼び戻されたり、ほぼ毎日母のおしゃべり(電話)につきあったり、…

上りエスカレーターを下り、改札を駆け抜ける

知人に会うため、夫と二人で出かけた時のこと。その日はお酒を飲む予定だったので、最寄りの駅まで歩いた。15分か20分に一本くらいの割合で来る田舎町の私鉄単線の無人駅。普段は車ばかり使っていてあまり利用することがないので、時刻表も調べていない。 踏…

夫の被災地出張授業(岩手県立高田高校)

今週の前半二泊三日で、夫が岩手県の陸前高田市に行ってきた。同業の予備校の先生の発案で、岩手県立高田高校で夏休みのボランティア授業をするため。東京の小さな出版社が支援のバックにいる。 その話を最初に聞いた時は、「私も行きたいな。美術のワークシ…

(追記)介護とお金と施設

介護ってもう心の底から考えたくない問題 - Togetter、入院2年、老親の2000万がなぜ底をついたか:PRESIDENT Online - プレジデントなどを読んで、自分の家のケースについて少し書いておきたい。 父に脳梗塞の後遺症のてんかん発作が頻繁に起こるようになり…

父と唱歌

介護付き有料老人ホームに入所して一週間になる父87歳を、先日の月曜日、初めて一人で訪ねた。実家の母はこれまでのバタバタが一段落ついたところで、疲れが出たのか熱を出して寝ている。夫が一緒に行く予定だったが、一人で行くことにした。一人で行きたい…

1964年の夏、波にさらわれたビーチボールの話

海とマリ ― 少女の思い出 それは、わたしがまだ五つぐらいの女の子だったころのことです。 そのころ、わたしのおとうさんは、とても遠いところにある学校の先生をしていました。その学校は、きれいな海のそばにあるので、ある夏の日に、おとうさんは、わたし…

隠喩から換喩へ、そして‥‥(「文学2.0」読書メモ)

『日本2.0 思想地図β3vol.3』に掲載の「文学2.0 余が言文一致の未来」(市川真人)読了。メインの分析対象として取り上げられている国民的マンガ『ONE PIECE』を読んでいないばかりか、そもそも最近の小説や文芸批評にもほとんど目を通していない私のような…