虹色ポンチョのワルツ、文鳥のお宅訪問––––あいちトリエンナーレ2016

昨日、開幕して一週間のあいちトリエンナーレに某新聞の取材で行ってきた。幾つかの作品の見どころをガイドするという記事。
本当は一度全部観ておいてから行く方がよかったのだが、お盆の間はプライベートな用事で動きが取れなかったので、公式ガイドブックで大体の当たりをつけ、当日は朝から名古屋、岡崎、豊橋の各会場を強行軍で回り、ぶっつけで作品について語る(私が喋ったのを記者さんが書き取って記事にまとめる)という、無謀な試み。
今月末に東海版に掲載される特集紙面では、作品写真6枚+絞った内容のガイド記事になる予定。デジタル版に出たらお知らせします。(追記:デジタル版記事→http://digital.asahi.com/articles/ASJ8L66JXJ8LOIPE01R.html?rm=871 後半です。非常に絞った内容になってます)


アートニュースサイトの開幕レポートや、id:zaikabouさんのレポートが、大きな写真入りで上がっている。
あいちトリエンナーレ2016開幕レポート!【名古屋編】- bitecho
あいちトリエンナーレ2016開幕レポート!【岡崎・豊橋編】 - bitecho
一日で全会場を巡る、あいちトリエンナーレ2016 - 日毎に敵と懶惰に戦う


本記事では、個人的に特に強く印象に残った外国人作家の2作品についてのみメモ。写真はやや甘いです。ご容赦を。




《機械騎兵隊のワルツ - The Machine Equestrians #12》2012 ウダム・チャン・グエン


カラフルなポンチョを纏ったオートバイの隊列が、整然と軽やかにホーチミン市街を走る。そこに被さるショスタコーヴィチのワルツ。
それぞれのポンチョは紐でゆるく繋がれていて、途中で隊列が二手に別れる時に切れる。三会場愛知芸術文化センターB2F、名鉄東岡崎駅ビル2F、穂の国とよはし芸術劇場PLAT 2F)で同じ映像が流されている。


ベトナム最大の都市ホーチミン市。デモの隊列にも軍隊のパレードにも見える「機械騎兵隊」の遊戯的な動き。色とりどりのポンチョの可愛らしさ。レインボーカラーから想起される性あるいは価値観の多様性。市場自由化された社会主義国ベトナム一党独裁民主化の桎梏。帝政ロシアに生まれソ連で活躍したショスタコーヴィチ。ワルツに漂う憂愁。遠くで反響するコミュニズムの夢の終わり‥‥。
ユーモアのある洗練された手法で、さまざまな連想を重層的に誘いつつ、不思議と感情に深く訴えかける。何度でも見たくなる。DVDがあったら欲しい。


「ジャズ・ワルツ第二番」。ちょっと泣きの入ったメロディが有名。


N響のサイトの解説より抜粋。

 1940年代後半スターリン体制の末期、ソ連は「反ユダヤ主義」の大キャンペーンを行っていました。その中でショスタコーヴィチは、公には反ユダヤの態度をとりながら、ユダヤ的素材をしのばせた作品を多く書くようになります。公的な顔と私的な顔を使い分けなければ生きられなかったショスタコーヴィチにとって、陽気と哀れが同居するユダヤ音楽は己の境遇に深く重なるものだったのでしょう。

第25回 ショスタコーヴィチ《ジャズ・ワルツ第2番》- ワン・フレーズ・クラシック|NHK交響楽団


ウダム・チャン・グエンがこの曲を選んだ理由が、なんとなく想像された。




豊橋の駅近く、「水上ビル」という元水路だったところに建っている古い商店ビル。細長く何棟も連なり、営業中の商店はあるものの、どことなく寂れた感が漂っている。
そんな空き家の一つが、全フロア丸ごと鳥のお住まいになっていると聞いて、お宅訪問。金網に囲まれたゲートを通り、階段を上がっていくと‥‥‥



鳥さんたちはどこ?

いた♡

いたいた♪(小鳥好き)。


ブラジル出身のラウラ・リマの作品《Fuga》。すっかり鳥のための空間を作り上げた上で、100羽の文鳥を放してある。



モビールっぽい。


芸術的な止まり木で団らんのひととき。


ちょっとしたところにも可愛らしい止まり木が。


「鳥の家」なので、あちこちに細密画職人の手による、鳥の描かれた鳥サイズの小さな屏風絵や絵画が飾ってある。しかしせっかくのインテリアに見向きもしない文鳥


トイレにも鳥のための絵。


階段の上。P.ブリューゲルの代表作『雪中の狩人』の超ミニサイズ(鳥用)。


右の鳥用張り出し窓には金網が張ってある。


鳥に人気ないのか、なぜか一羽もいない部屋。止まり木の造形がカッコいい。


屋上もそのまま鳥のお住まい。


普段は小さな鳥かごの中にいる文鳥たち、当初は慣れない場所に戸惑って、隅にかたまりがちだったらしいが、今は比較的自由に室内を飛び回り、いい声で囀っている。求愛行動をする鳥、既にツガイになったのか寄り添っている二羽、麦わらを咥えて巣作りの準備の様子などが見られた。
鳥の生活圏に過度に侵入して鳥たちに迷惑がかからないよう、一回の入場人数は制限されている。鳥と人間の関係が反転された空間。「お寛ぎのところ、お邪魔してすみませんね」という気分になる。そもそも人間が、自然にとっては「お邪魔してすみません」な存在かもしれない。
そして当然のことながら、先住民/侵略者の関係も連想させる。


●おまけ
名鉄東岡崎駅の「岡ビル百貨店」という昭和汁したたる素敵なビルも、ほぼ展示会場となっているが、その2階の片隅で営業していた「手作りレストランこも」。これは写真に収めずにはいられない。



オムライス(ミニサラダ付き)を頂きました。普通においしかったです。すごくお腹すいていたので写真は撮り忘れました。