タマがうちに来てから二ヶ月近くになる。タマとは猫のことです。
オスだけど、「タマ」という古典的な名前がなんとなく好きなので名付けた。柄はキジトラ。
十月に親戚の家に遊びに行った時、「猫、飼う気ない？」と年長の従兄弟に言われた。一人暮らしの娘さんが飼っていたのだが猫アレルギーだとわかって親の家に引き取ったものの、前から飼っているチワワが猫を怖がって困っているとかで。まだ産まれて四ヶ月。
私のところは犬を軒先で飼っているが、室内で動物を飼ったことがないし、飼おうと思ったこともない。猫は嫌いじゃないけど、うちの中は雑誌や書類や本があちこちに山積み状態なので、こんなとこで猫なんか飼ったら部屋がめちゃくちゃになると思っていた。
しかし「まあ見るだけでも見て」と言われて見たのが運の尽きでした。キジトラの仔猫は細いしっぽをピンと立て、物怖じもせず私の膝に乗ってきて「ミャ！」と鳴いた。
こりゃ連れて帰らねばなるまいよ。
私の顔にそう書いてあったのか、夫は「おまえがいいならいいよ、飼っても」と言い、それで話は決まった。従兄弟は喜んで、「子どもいないんだし、猫飼うと夫婦の会話も増えるよ」などと言った。そんなもんですかね。
増えたのは夫婦の会話ではなく、猫との会話だった（会話は一方的）。
朝起きて、まずコロ（犬）*1に餌をやる。家の中でタマがニャーニャー鳴いている。
「タマちゃん、ちょっと待っててねー」
餌をやる。
「ほーら、いっぱいお食べ」
タマが足に絡まってくる。
「後で遊んであげるからねー」
タマが私の食事を見上げて鳴く。
「これはタマちゃん食べちゃいけないのよー」
タマが椅子の上に乗ってミャーミャー鳴く。
「なぁに、だっこ？ はいはい」
タマがテーブルの上に乗って飛びついてくる。
「まただっこ？ 甘えっ子でちゅねータマちゃんは」
タマがゴロゴロ言って顔をこっちの顎にこすりつける。
「おおよちよち」
タマがパソコンの横に飛び乗る。
「邪魔しちゃダメー、お仕事中だからねー」
タマがキーボードを踏んだので、書きかけのテキストに「wwwwwwww」と打ち込まれる。
「こらぁ、ここで笑いはいらないのー」
タマが膝の上に踞る。
「そうそう、そこでねんねしてなさい」
タマが膝の上で爆睡する。
「タマちゃん、ちょっと重たくなってきたー」
タマが膝の上でもぞもぞする。
「さ、もうおっきしよか」
タマを抱いて庭に出る。
「コロちゃんでーす。コロ、タマだよー」（どっちも無関心）
出かける。
「タマちゃん、いい子でお留守番しててねー」
帰ってくる。
「ただいまー。いい子してたかな」
タマがトイレでうんこをする。
「いっぱい出たねー、くちゃいからお片づけー」
よく猫に赤ちゃん言葉混じりで話しかけている飼い主を見て、アホじゃないかと思っていました。そのアホを今、自分がしている。自分ながらちょっとキモい。犬にもここまでのことはなかった。
夫が何かのことで私に小言を言っても、「あ、おじちゃん、怒ってるよ」と、まずタマに話しかける。ムカついた時は「タマ、あのおじちゃんはワルモノだ。思い切り引っ掻いていいぞ」と、けしかける。
「完全におまえのおもちゃだな」と夫は呆れて言った。「更年期のアニマルセラピーだ」。
‥‥‥そうなのかもしれないけど、その解釈で見られてるのなんか嫌。
夫も猫を可愛がりはするが、私のような活発な「会話」はしない。「こら」「タマ、こっち来い」「おまえはなんで俺の足を齧るんだ」「よしよし」。だいたいこの四つで終わっている。
猫によく話しかけるのは、どちらかというと女性のほうが多い気がするが、どうだろう。しかも赤ちゃん言葉。自分が「ママ」になっている人もよくいる。「ママのとこおいで〜」とか。子どもの頃の人形遊びやままごとが影響しているのだろうか。それとも、小さくて可愛いくて庇護欲を掻き立てるものに対して、女は自動的に「ママ」化するのだろうか。
男性の飼い主で猫の「パパ」になってる人って、いないですよね（いや案外いるのかな？）。
ちなみに私は「ママ」にはなっていない。言いそうになったことはあるが、なんだか変な気がしてやめた。その代わり、たまに自分の名前で言う。「サキちゃんとこおいで〜」。「ママ」よりアレだ（ダンナが「おじちゃん」なら自分は「おばちゃん」だろ？という突っ込みはなしで）。でも私がおかしいんじゃないと思う。猫は人のキャラを変える、というか眠っていた別のキャラを引き出す生きものなのです。
追記：そう言えば、「にゃー」の語尾が気になって最初なかなか内容が頭に入らなかったブログが、あまり気にせず読めるようになった。
*1:今年の二月に一度死にかけましたが、奇跡的に回復して今はとても元気です。死にかけた時の話はこちら→http://d.hatena.ne.jp/ohnosakiko/20080228/1204169490
