『特集ワイド:言いたい!「おひとりさま」か「婚活」か』に見る上野さんと白河さんのすれ違い

特集ワイド:言いたい!「おひとりさま」か「婚活」か毎日jp/このページは1。2に続く)
「おひとりさま」を勧めるのは上野千鶴子氏、「婚活」を説くのは白河桃子氏。


まず白河氏は「結婚したいのに、結婚できない男女が多いことが問題」として、「結婚したいができない男女」に考え方やノウハウをアドバイスしている。ポイントをまとめると、
・結婚したいんだったら出会いを探して積極的に「婚活」することが必要。昔のように「自然に結婚できる」という考えを捨てよ。
・結婚の利点は子どもを持てること。日本では結婚しないと出産しにくい。
・女性は「男性に養ってもらいたい」という考えでは難しい。共稼ぎはリスクを回避しやすい。
・結婚を遅らせていると、資産形成も遅れる。
・男女とも対人関係のストレスに弱い。男性はもっとコミュ能力を。女性は受け身をやめて積極的に。


上野氏は「無理して結婚することはない。いずれは一人になるのだから、シングルライフを基本にした方がいい」という意見。ポイントをまとめると、
・「婚活」は時代錯誤。結婚に求める条件が上がったから、結婚願望があるにも関わらず結婚しない人が増えたが、別に問題ないのでは。
・シングルライフの不利益はなくなってきており、食事やセックスの確保もできる。結婚の方がDV、依存、コミュニケーションのないセックスなど問題が生じやすい。
・女性の晩婚、非婚化は経済力があるか、親の資産を当てにしているため。
・シングルでも安心して子育てできる環境整備が必要。
・結婚離婚の自由がある社会は良い社会。


現状認識についてはどちらにもそれぞれ納得できる部分はある(突っ込みたい部分もある)ものの、二つを突き合わせると微妙にすれ違っているのです。
白河氏は『「婚活」時代』(山田昌弘氏との共著)の著者で、目下「婚活アドバイザー」的立場から結婚したい独身男女の需要に応える言説を売っており、「結婚したいなら、こう考えて行動するべき」と言っている。
それに対し、上野氏は「結婚はもう古い。これからは「おひとりさま」の時代」と言っている。結婚制度を家父長制の温床として批判し、『おひとりさまの老後』を書いたフェミニストとしては当然の主張としても、もし「婚活」への反論だとしたらちょっとレイヤーが違っている。なぜなら白河氏は、「早くに「おひとりさま」を決意して、経済基盤や人間関係のネットワークを整えた人は問題ない」と言ってるわけだから。好意的に解釈すると、「いつか結婚できる」と思っていて「婚活」しなかったので結局できず、歳をとって貧困や孤独に取り残される可能性のある人を心配しているということになる。
だが上野氏の文章は、「おひとりさま」を決意した(しつつある)人に「それでいいのよ」と言いつつ、結婚したい人にも「そんなもんやめといたら?」と教化しているように読める。たとえて言うと、森岡正博氏の『草食系男子の恋愛学』に対して、「恋愛そのものが問題。やめといたら?」と言うのと似ている。恋愛から完全に降りた人には安心できる言葉だが、降りる気のない人、恋愛したい人には効果がない。


上野氏は最初からその主張しかしないつもりだったのかもしれないが、結局「「おひとりさま」か「婚活」か」を、「独身でいるべきか結婚するべきか」という設問にずらして答えているようなかたちになってしまっている。その意味では記事タイトルも誤解を招きやすい。
白河氏のスタンスに全面的に賛同する気はないけれども、上野氏は「婚活」を「すべての独身男女よ、結婚せよ」プロパガンダだと思っているのかな、という気もした。冒頭に「結婚が永久就職である時代も、経済的依存を可能にする時代も とっくに終わっているのに、なんで今時、「婚活」なんていう古い話が出てくるんでしょうね」とあるところから見ても(これ、「婚活」=結婚による永久就職、経済的依存が前提、と捉えればその通りかもしれないが、そういう意味ではないからなぁ)。


二人に共通しているのは、どちらも結婚/非婚を「経済活動」と結びつけている点。
白河氏:「共働きの場合は両輪経済。失業や病気のときに経済不安に陥るリスクを回避しやすい」、「「結婚待ち」をしている間に資産の形成が遅れる」(個人所得の低い女性は、ということか)、「特に男性は結婚しないとなかなか貯金できない」(独身の気楽さでパッパ使っちゃうとか?結婚しても子どももったらなかなか大変だと思う)。将来の不安回避のためには結婚(共稼ぎ)がお得です、という感じ。
上野氏:「経済力がある(女性は結婚しなくて済む)」(かつて結婚は死活問題だった、というのはある程度正しい)、「将来親の資産が転がり込むと期待している」(夫の資産か親の資産か、ということ?)。将来の不安がなかったら(女は)結婚なんかしないです、という感じ。
お金の問題は常時話題になるし、結婚においても看過できないファクターではあります。多くの人が生活の防衛に汲々としている中、一層そこが焦点化されるのもわかります。
でも「結婚するか独身でいるか」のレベルで迷っている人にとっては、問題はもっと他にいろいろあるよね?とは思った。


追記とブコメにお返事(随時追加)

記事のまとめとして一言。
上野、白河両氏は結局、<見ている風景>が違うのだなぁとつくづく思います。
白河氏は「結婚したいのにできない男女がたくさんいる風景」を見て、彼らの行方を心配している。
上野氏は「結婚にメリットを感じない男女が増えてきた風景」を見て、彼らの行方を心配していない。
両論並記の上で少し違った視点が必要かなと思います(次の本でがっつり書きますので御期待くださいませ)。


さてお返事ですが、記事の捕捉の意味合いも大きいので、特にレスを期待するものではありません(もちろんここでのやりとりも歓迎)。

id:lefthandedさん 家族が男女の結婚を基礎にするというところを疑うところから出発しなきゃいけないのかな。

たぶんそうだと思います。ただ現行結婚制度は基本的に男女の対と再生産を前提にしているので、同性婚を認めるかどうか(米・カリフォルニア州では反対派の声が大きくなって議会で不認可になってしまいましたが*1)で議論が起こるのですね。同性のカップルで養子を取る人もいるし、結婚せずに子どもを育てる人もいるので、そうした現実の裾野から家族形態や概念が変わっていかないと、制度はなかなかついてこないでしょうね。

id:suzu_hiro_8823さん こうして二元論が熟成されていくわけなんですね(違います

たしかに議論が交錯する感じはしませんね。この二つの考え方しかないのかなと。

id:yumizouさん 「「おひとりさま」か「婚活」か」と「独身でいるべきか結婚するべきか」は違うのか。「おひとりさま」「婚活」はそれぞれ「独身」「結婚するために行動を起こす」をいい感じに言い換えているだけかと思ってたが。

後半についてはほぼその通りだと思います。
で、「おひとりさま」=独身の反対は、「婚活」ではなく「結婚」です。婚活中の人は独身ですから。従って「おひとりさまか婚活か」=「独身でいるべきか結婚するべきか」にはならないのではないでしょうか。レイヤーが違うと。
To be, or not to be的に言えば「結婚願望を捨て独身で生きていく覚悟をするか、結婚願望を成就させるために積極的に活動するか」になると思います(記事のタイトルとしては長過ぎですが)。

id:nekolunaさん 結婚はお金が9割

‥‥ということなんですかね。相手の年収も把握せずに結婚した私は世間知らずだったということで(笑

id:b_say_soさん 結婚するなという主張には読めなかったけどなぁ…どうなんだろう/結婚を生活保障材にしない->貧困層ほど結婚するなと読むなら理解はできるが

上野氏は「結婚するな」という主張はしていませんね。ただ、結婚のメリット(経済依存、食事とセックスの確保など)もなくなったのになんで結婚なんかしたいの?と言いたげです。少なくともそういうニュアンスを私は感じたということですね。
結婚を生活保障材にすべきでないということは、白河氏も「女性は男性に養ってもらおうという考えでは難しい」という言い方で指摘しています。「貧困層ほど結婚するな」だったら、貧困層は親に依存しろと上野氏は言ってることになりますけど、そうですか? 女性の晩婚、非婚化の要因は親の資産に期待するからとは言ってますが。
ちなみに貧困層でも男性はなかなか結婚しにくいです(でき婚は別)。経済依存の結婚は上野氏の言う通り「逃げられない強制収容所」の可能性もありますが、ならば「そうなった時、離婚を可能にするために最低限の経済力は必要だから、そのための労働環境の整備が求められる」と言ってもいいのに、結局、結婚制度そのものを認めていないから言わないのだろうなと。政治的立場としては理解しますが、家族を作りたいと願う独身男女には、冷淡な態度に思えます。「おひとりさま」を生涯余裕で通せるのは、むしろ上野氏のようなさまざまな意味での「強者」じゃないでしょうか。
※ブログでお返事を書いていらしたので、コメントしました。http://goboubss.blog.shinobi.jp/Entry/633/

id:chazukeさん 上野さんは「結婚するなら覚悟しておけよ」と言ってるように思う。「婚活」の人は「結婚するなら子供を作れ」って言ってるのかな、元記事を読んでみよう。/読んだ。なんか違うって気が、、

何でしょう‥‥。

id:sadkadoさん 結婚するメリットは「ひとりじゃなくなる」ってことだと思います。デメリットも同じ。

同感です。両義的ですね。

id:takahiro_kiharaさん 血族のいない老後もありなのかなぁ?↓に同意見。というか、白川氏の考え方って、「女性は産む機械だ。」的な発想に感じられる。で、男は種をつける機械だ、と。

血縁関係が必ずセーフティネットとして機能するとは限らないですからね。
産む機械」「種つけ」云々は(個人的にはそこまでは感じなかったですが)、少子化を憂えている姿勢からきているのでしょうか。そういう姿勢はメディアでは売文しやすいのかもしれません。

id:usukeimadaさん マッチメイカーのミスですね。猪木とアリ、両者ではやりたいことが微妙に違った。

そうですねー、猪木とアリ以上の隔たりがあるかも‥‥。

id:narwhalさん 良縁鳥。上野氏は強者の論理というのはそのとおりだと思った。あと夫への経済的依存のかわりに親 (現実には主に父親) の資産に期待となるのはフェミニズム的に上野氏は不本意じゃないのかなあ

そこはひっかかったのですが、たぶん婚姻関係による依存、拘束より親子関係によるそれの方が、よりマシだという独身女性の判断を支持しているのかと。親は選べませんが夫はわざわざ選ぶものなので、結婚について消極的な態度それ自体を評価するのでしょう。

id:keijisさん 上野はどの話を見ても結論が「コミュニケーション至上主義」になればOKって結論ありきなような気も、何というか最近になってそういう発想から自由になれないかわいそうな人なのだろうと思うようになった。

「コミュニケーション至上主義」ですかね。個人主義ではあると思いますが。あとやはり功利主義的な発想は強いように思います。

id:umetenさん 上野は「私はフェミニストでバリバリやってきたんだから、あなたたちも私と同じようにやりなさい」というクチ。全体主義経営者と同じメンタリティ。

それが「私のように男社会でオヤジ共に認められて上昇しなさい」と言ってるように聞こえることに、御本人は気づいているのかなと思います。

id:heartless00さん どっちでもいいような。上野は逆シロクマですか。

結婚、独身の選択はもちろん自由ですね。「逆シロクマ」とは‥‥えー、「すべてを繁殖行動と適応行動と防衛機制で説明しない」ということなら、そうかもしれません。

*1:コメント欄参照