育児を教える高校

前の記事の中で「中学、高校で性教育の授業があったという学生に「どんなだった?」と訊くと、「男女差別はいけないとか‥‥」程度である。」と書いたが、先日、ある学生から興味深い話を聞いた。
彼女は沖縄の農業高校を卒業してから就職し、数年働いた後に大学に入学してきた20代後半の女性。高校時代はかれこれ10年近く前の話になる。


学生「農業高校で女子ばかりだったんです。性教育の授業では赤ちゃんの育て方を教わりました」
私「え?赤ちゃんの作り方じゃなかった、妊娠・出産の仕組みや避妊の知識じゃなくて?」(←一瞬、高校で戦前の良妻賢母教育が為されているのかと思ってしまった頭の回路の講師)
学生「もちろんそれも。ていうか、私の高校、ヤンキーが多かったんですよ。みんな大体、卒業してすぐ結婚していくんです」
私「じゃ、でき婚も多いとか」
学生「そう。お腹が大きい子が学年に二人はいた」
私「あぁ‥‥それでねえ」(なんとなく納得)


高校で育児の授業。保育科でもなければ、一般的ではないと思う。性教育の授業を採り入れているか否かもその内容も、自治体や学校によってまちまちだろうが、一般的にはどんなことを教えているのだろう。
埼玉医科大学雑誌第35巻第一号の「高等学校における性教育の現状と課題 -大学一年次生の認識調査をもとにして -」(「高校」「性教育」で検索すると出る)を見てみると、いろいろ興味深い。5大学の一年生(男子277名、女子420名)に調査した高校で受けた性教育の状況が紹介されていたので、一部抜粋してみる。

3)性教育の受講内容と使用教材
性教育受講内容について12項目をあげ、選択法で回答を得た(重複回答可)。最も多かったのは「性感染症」であり、以下「男女の身体のしくみ」「避妊の方法」「妊娠」「避妊の意味」の順に多かった。受講経験が少なかったのは、「異性の人格尊重」「異性の心理や異性とのつき合い方」「性被害」であった(図3)。12項目について「最も印象に残っているもの」は、「性感染症」41.7%と最も多く、次いで「人工妊娠中絶」、「男女の身体のしくみ」、「避妊法」の順であった。「人工妊娠中絶」と「妊娠」は女子学生に多く、男子学生では「男女の身体のしくみ」と「避妊の方法」が多かった(図4)。

グラフを見ても、「育児」はほとんどなさそうです。

4)性教育の効果の認識
高校時代の性教育が「理解できたか」「役立ったか」を段階法で質問した。その結果、「よく理解できた」と「まあまあ理解できた」を合わせ、「理解できた」は82.2%であった。「理解できた」は男子学生75.7%、女子学生87.0%であった(図5)。「性教育が役だっているか」には「どちらとも言えない」が最も多く45.8%であり、「とても役立っている」と「役立っている」を合わせ、「役立っている」は42.7%であった。「役立っている」は、男子学生40.3%、女子学生50.0%であった(図6)。

大体理解はできているけれども、役立ってるかどうかは微妙というところか。「役立つ/役立たない」にもいろいろありそうだ。「そんなこととうに知っている」から「セックスする機会なんかどうせなさそうだから」まで。


最近、十代で結婚するカップルの8割は、できちゃった婚だという(http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h17/01_honpen/html/hm01ho10002.html)。避妊の方法を知っていてもしなかったりして(相手に押し切られる場合も多そうだが)、うっかり妊娠してしまい、気づいた時は既に中絶できる時期も過ぎているとか、悩んでいるうちに時間が経っちゃったとか。産むと決めても、自分がちゃんと子育てできるか不安でたまらない子もいるだろう。
件の高校では、そういう心配や不安(経済的な不安が一番大きいかもしれないが)を少しでも取り除き、育児の心構えや知識を伝授しようというわけだ。
「本校の生徒は性的に早熟な者が多いので、妊娠が早い。望まぬ妊娠で1人で悩む生徒も多い。避妊の重要性を説くのも大切だが、それだけでは昨今の状況にはなかなか対応できない。ここは現実を直視して、出産、子育てについてきっちり教えていくのが、生徒のためになるのではないか」といったことを、職員会議で話し合ったのではないかと想像した。


授業で赤ちゃんの人形を使いながら「おしめの替え方は‥‥」などと実習しているうちに、「赤ちゃんっていいよね。早く作りたい(or 産みたい)」と思うようになるのか、「子育てって大変そう。しばらくはちゃんと避妊しよう」となるのか。どっちにしても生徒の役に立つならそれに越したことはないと思うが、「行き過ぎた性教育だ」「これでは本末転倒している」と言う人もいそうな気はする。


●関連
連載「男子にはなれない」・第八回・純潔の掟 - Ohnoblog2(2005)