ネズミにはネズミの、ネコにはネコの・・・琵琶湖博物館で『骨の記憶』を見た

この間、滋賀県立琵琶湖博物館で開催されている企画展示『骨の記憶 - あなたに刻まれている五億年の時 - 』を見てきた。実は、それを見に琵琶湖近辺まで行ったのではなく、その近くの温泉に行く(人生には時々温泉が必要であることをこの歳になって実感)途中で、たまたま見つけて立ち寄ったもの。


それほど広くはない会場に、ヒト、ヒキガエル、ヘビ、ワニ、コウモリ、ネズミ、リス、チンパンジー、サル、トナカイ(その他、魚や鳥も)など、さまざまな脊椎動物骨格標本が、200点ほど展示されていた。
大型動物の骨格はダイナミックでカッコいい。が、目が結構釘付けになるのは、小動物。細く折れそうな骨が何十個も寄り集まって奇跡のように一つの完璧な骨格を成している様は、本当に見事だ。精巧にして繊細。「はー、ほんとによくできてるわ。すごい完成度‥‥」と溜息が出る。万物を創造した神の技を、作ってもらった人間の一人がそんなふうに評価するのもおかしいが。
コウモリの骨が面白い。どう見ても昔のB級怪奇映画に出てくるコウモリ人間だ。レース細工のように優雅なヒキガエルの骨格は、ガラスケースに入れて飾っておきたい。
琵琶湖博物館始まって以来の入場者数だそうで、夏休み中だったらとてもこんなにのんびりした気分では見られなかっただろう。骨は質量が少なく色も地味だから、あまり人のいない静かな空間でぼんやり眺めているのが良い。11月23日まで。お近くの方は是非どうぞ。


専門家の指導を受けた地元のサークルの人による、比較的小さい動物の骨格標本がいくつかあった。標本を作るには、なかなか面倒臭い作業過程を要する。
まず標本にする動物の体のあちこちを細かく計測した後、皮を剥ぎ内蔵や筋肉をきれいに取り除き、すべての骨をバラしてから炭酸ナトリウム溶液で煮てよく水洗いし、どういうポーズにするか決めてプラモデルのように組み立てていく。足の指など小さな骨がたくさんあるところは、他の骨と混ざってしまわないよう気をつけなくてはならない。
そうやって苦労して作られた標本の中で私の目を引いたのは、ネコの骨(ネコ飼ってるので余計)。パネルには、見つけた時は既に屍体が黒くミイラ化していたとあった。野良猫だったのだろう。その野良猫が軽やかな足取りで歩いているようなポーズで、標本は出来ていた。


野で死んだ動物の屍体は普通他の動物や鳥に食われ、蠅が卵を産みつけ、蛆が湧いて残った肉や内蔵を食べ、やがてバクテリア蛋白質を分解する。長い時間をかけてすべてが無くなった後に、骨だけが残る。その骨もいつか砕け、風化し塵芥となって土に還る。
それで思い出すのは「小野小町九相図」である。当世一の美女の骸の凄まじい変化を突き放した目線で描いた掛け軸で、九相図の中ではこの小野小町のが一番有名だ。グリーナウェイの映画『ZOO』の冒頭にも、リンゴに始まりエンゼルフィッシュ、ワニ、白鳥、シマウマと屍体が腐敗していく様を連続して高速コマ撮りで見せる、ちょっとグロいシーンがあった。
それらに漂う無常感は、展示されている骨格標本には既にない。その代わり、どの動物の骨にも不思議とその動物なりの威厳と、それと相反するほんの少しの可笑しみが感じられた。ネズミにはネズミの、ネコにはネコの、サルにはサルの、ヒトにはヒトの。


会場を後にしながら、「タマが死んだらさー、庭に埋めて骨になった頃に掘り出して標本作ってみたいな。あんたの専門、生物なんだから教えてよ」と夫に言ったら、即座に「やめてくれ」と言われた。
「タマ、あと14、5年は生きるんだぞ。おまえ、ばあさんになっとるがや。白髪のばあさんが死んだネコの骨集めて。うわこえぇ!」。‥‥‥そんな言い方しなくてもいいと思う。


BONES ― 動物の骨格と機能美

BONES ― 動物の骨格と機能美

ミュージアムショップで、一目惚れで買った写真集。素晴らしいです。セクシーです。
なんとなくだけど、早く骨になりたくなってきた。でもその前にもうちょっと肉を落としておかなくては。