撫でる手が時折止まりこの人の心はここにないことを知る

 

飼い犬タロが詠んでいるという設定の犬短歌、2022年上半期の134首です

後で若干言葉を直したものもあります。俳句二句と私の短歌二首も入ってます。

特に気に入っている歌には、うしろに*をつけてます。

 

 

◆一月

 

掌で頬を挟まれことよろと言われたどこの国の言葉か

 

本年は全柴犬の地位向上目指しおやつの大幅アップを

 

本能の強き輪郭残しつつ風に吹かるる蝉の抜け殻

 

見えている世界が違うと言う君に死んだら俺の目玉をあげよう  

 

オリオン座横切る航空灯ひとつ寂しかったら戻っていいよ

 

散歩中スマホ見ているあの人をリードで引いて帰る夕方   *

 

セーターは冬の夜の友 飼い主のお古に埋もれ春の夢見る

 

嗅がせても嗅ぎに来てくれないあの子そこはかとなく片想い感

 

鳩が二羽休む枝だけぬくいよと枝垂れ桜の老木が言う

 

夜半過ぎ何かを思い出したかに舞う雪何かは秘密のままに   *

 

雪道に足跡点々つけた子はどこから来たのどこへ行ったの

 

柴犬は進化し超柴犬になる人類が退化してゆく世界で

 

電柱の上からカァと啼く声に「なぁに?」と足止め見上げるおばさん

 

こんな夜はあの子と散歩して月がきれいですねと言ってみたいな

 

小惑星近づいてきたら飛び乗って柴犬の星にしたかったのに

 

夜ごとに月も縮まる寒さかな   *

 

病院の帰りは自信がついている注射一本分の自信が

 

フサフサの金の毛並みのぼくちゃんと尻の匂いを嗅ぎあった朝

 

バケットのかけらの中に埋めたってすぐわかったよ、薬吐き出す

 

最高級骨付き牛にまぶしたらどんな薬も飲めるだろうな

 

近寄れば唸り遠ざかれば吠えるあのチビ俺にどうしてほしいの   *

 

タロなんて普通の名よりネロがいい暴犬ネロと怖れられたい

 

噛みついて振り回しても無抵抗 軍の手なのに軍手弱すぎ

 

パソコンは立ち上がるんだね立ち上がらなければ死ぬね犬と一緒だ

 

軍手との戦の写真逆さまに並べて歴史改竄されたり

 

あんパンの皮よりうまいどら焼きの皮のお土産なくて泣いてる

 

 

◆二月

 

下痢のことピーピーさんとか言いながらタロさんと呼んでくれたことなし

 

すぐそばにいるのにスマホ見ていたら遠くなるでしょ早く腰揉め

 

鬼たちは家に帰った頃だろか子鬼に豆食べさせてるだろか

 

三日月がみっつ出る夜におむすびを握るその手の匂い嗅がせて

 

飼い犬を攫って遠くに連れていく雪の女王が来るよ逃げよう

 

春を待つ鳥は麦藁色の腹シノワズリペイズリと囀る   *

 

シュークリーム買った彼女とカスタード色の蝋梅咲く道帰る   *

 

この地方一日雨の空気感 散歩に行けず残念的な

 

嗅がせてるだけだった子が今朝やっと嗅いでくれたよもうすぐ春だ

 

今日はチョコ祭りの日だねおばさんは自分用買うのも忘れたね

 

暴れ出す前に噛みつき振り回してるから軍手はおとなしいのだ

 

アーガイルニットお召しのお爺ワンお洒落ですねぇまだ寒いんじゃ

 

狭い庭三周駆けたら褒められた 人間どんだけ元気ないんだ

 

コツコツン屋根から落ちた種一つ朝飯終えて烏飛び立つ

 

まだ姿見せぬ雲雀の長々と息継ぎもせず春を告ぐ声

 

猫の日も世界猫の日もあるのに世界柴犬の日はないのか

 

世界柴犬デーには柴コスプレの君と並んでパレードしたい   *

 

緋の段に小さい人が座ってるコロボックルの婚礼だろか

 

音合わせしない?一年ぶりだしと笛と鼓が練習してる

 

膳の向きあれで良かったのかしらね頭寄せ合う三人官女

 

雛よりもずっと小さい乗り物はたぶん柴犬用なんだろね

 

お雛さん不憫だこんな寒い日に身じろぎもせずお座りの刑   *

 

偉大なるウラジーミルはソローキン、タトリン、ナボコフマヤコフスキー

 

叛逆の時は今だとプーチンの犬に我らの伝言届け

 

四つ脚は四つ脚同士戯れたい 二本脚には甘えたいだけ

 

◆三月

 

春雨に梅咲き犬は匂い嗅ぐ あるじなくともあるじあれども

 

ご近所の空き巣はカラスに違いない俺のごはんも盗まれたから

 

新しい鰯のごとく鉄光り滑車軋みて作業場の春   *

 

ガラス越しバイトの人の微笑みに一声返すコンビニの前

 

あの人の母上来たる娘より優しい口調細い声なり

 

なぜ春に悲劇起きるの万物が萌えるときだよ燃やさないでよ

 

春はいつも戦車のようにやってくる戦車と共に来るのではなく

 

陽のあたる更地は広し竹箒パワーショベルに凭れて休む

 

なくなった真珠は海で耳たぶの座り心地を思い出してる   *

 

ぐいぐいと急に来られても戸惑うな君ではないよ春のことだよ

 

花の名をなぜ知りたいの花は花あなたはあなた俺はタロです

 

電柱にかけたオシッコ町内を回ったあとで嗅ぐこの愉楽

 

この地層何万年かな卓上でバームクーヘン崩れゆくなり   *

 

ナルシスの水辺は遠く自己愛を知らないままの俺と水仙

 

おばさんもポンコツになるのもしかしてもうポンくらい行ってるのかな

 

缶詰のまぐまぐ感とカリカリの食感バランス今日は絶妙

 

ケアケアと烏が鳴いて柴犬はセルフケアする菜の花畑

 

暴力を抱えた君と本能に安らぐ俺に春の雨降る   *

 

撫でる手が時折止まりこの人の心はここにないことを知る   *

 

鋭角に曲がった大腸持つのならもっと鋭角に生きていいよ

 

パソコンの光の前で真夜中に食べる小さな堕楽のプリン/サキコ   *

 

眠れないおばさん何を食べてるの俺にも分けろ堕楽を分けろ

 

色のない空に桜は狂い咲き神様がどこにいるか見えない

 

 

◆四月

 

花冷えの雨脚細く年老いた柴犬行くを伏せて見守る   *

 

目覚めるとこっちに向けたスマホありやれやれまたか再び夢へ

 

朧月匂う今宵はあの人ともう千回は歩いた道を

 

猫までの距離は遠くて近いけど君までの距離は近くて遠い

 

花背負った俺の写真と思いきや俺がお花の引き立て役か

 

蕗味噌はオトナの味と言う人の生の苦さを舐めてみたいな

 

枝垂れ桜の下は異界あのひとが遠いところに連れていかれる   *

 

歯磨きのガムをおやつと偽って歯垢取らせる人の悪知恵

 

タロというステレオタイプな名はやだねロッタちゃんとか呼ばれたかったね

 

ホラ吹きの世界じゃ猫は空を飛び犬は短歌を詠んでるそうな

 

お座りと言われワクワクしていたら花と一緒に撮るためだった

 

雨止まず散歩のお誘い諦めて耳を澄ますはキーを打つ音

 

咲きほこる花に負けずに生きほこる散るのは考えたこともない   *

 

タロちゃんはいい子だねえと言う人の言葉ではなく声に癒され

 

花々の間で昼寝していたら大雨降って俺オフィーリア

 

膨らんだ黒猫なんかコワくないコワくないですいや怖いかな

 

ツバメらは四月の空の遊撃手 訓練機の影切り裂いて飛ぶ   *

 

散る花に自分重ねてレモンサワー酸っぱい人生いかがでしたか

 

ツンデレで褒められ調子に乗る質は柴の血じゃなくおばさんのせい

 

 

◆五月

 

ママに似た赤い毛並みの犬に逢うママの匂いはしなかったけど

 

新緑は俺の鼻腔を直撃し脳に五月の永遠刻む

 

雲雀鳴き子ども泣き出しすぐ笑う初夏の来るのが僕らの希望   *

 

花の庭キリ・テ・カナワが歌い出しあとに続くよナハトムジー

 

鉄線の花言葉っておばさんと俺みたいだね「甘い束縛」

 

柴犬は縛られるのは好きじゃない首輪くらいは我慢してやる

 

恋人の帰還を待つ黄色いリボン犬にとってはそっとしといて

 

柴犬はタロでいいんだマロンとかチョコとか食いもんじゃねえんだから   *

 

枇杷の蔭吹く風青し実も青し

 

朝寝坊してる彼女の夢に出て散歩に行こうと言えたらいいな

 

「止まれ」の「ま」カーブの線がかわいくて匂いを嗅いだ小雨の道路   *

 

おばさんは犬みたいだね薔薇の香で薔薇の花咲く庭を当ててる

 

伸びすぎた背丈気にせず花咲かすテッセン白き自由意志なり

 

俺はなぜ「俺」なの「僕」や「私」でもよかったよただ「我輩」は猫   *

 

腹減ったそろそろおやつを出してもよい時間だと思いませんか

 

さて皆さんそろそろヒトは柴犬のレベルにアップデートしませんか

 

柴犬になったあなたと今よりもアップなデートをしたいと思う

 

犬飼えぬ人はたくさんいるけれど犬イズベストと言っていいのだ

 

「草上の昼食」ごっこしたいけど君は裸にならなくていい

 

映画見て初めてフレンチトーストを作った人はこの指止まれ

 

フェミニストそれは食いものかと聞いて撫でられる俺オスで最強

 

人間はマスク着用是非で揉め犬は鼻キスして友になる

 

トイプーと鼻で挨拶済ませたらフッと笑って尻を向けたい

 

「表示する内容がありません」との画面に出られる犬うらやまし

 

ねえタロちゃんこの花は何?可愛いねって知らんよおばさん雨降りそうだよ   *

 

宙の蚊をパクッとしたら怒られた空飛ぶおやつと思ったんだよ

 

ババアとか言うくらいならばあばだよ ばあばと甘えりゃおやつもくれる

 

電柱の上の雲雀の長台詞 放尿しつつ聴き惚れる朝

 

用水路落ちないように車にも轢かれぬように歩かされてる

 

俺男だけど荷物は持たないしドア開けさせる当然だろう

 

 

◆六月

 

フェニキアの犬は毎日地中海眺めて青いガラスになった   *

 

二年後に君は六十五俺は十 仕込んだ梅酒呑み頃ですな

 

記憶力なくなってくのはしゃあないねところで朝飯まだじゃないかな

 

転がした肉球の記憶よみがえる 初めてボールに触ったあの日   

 

おばさんが切って飛ばした爪のよな三日月かかる水無月の夕   *

 

豆柴に逢うと自分がデカ柴になった気がして背中丸める

 

逃げもせず威嚇もしないトラ猫と世間話をしたかった午後

 

破壊欲俺にもあるよボロ軍手噛んで飛ばして解体したい

 

街角の彫刻そんなに揉めるなら全部ワンコの像でいかがか

 

老母から「あなた私が好きなの?」と聞かれおばさん泣きそうになる   *

 

桃香る手で俺を撫で呟いた マスカルポーネ」犬の新種か

 

人参と胡桃のサラダにしよかってヒトの献立相談されても

 

おばさんの口から漏れる加齢音「はー」以外の音出してみなさい

 

七割の猫に逃げられ三割に迫力負けだ強くなりたい

 

ささくれをわざと剥がして傷舐めた頃なつかしきすももの赤よ/サキコ

 

お隣に来た犬抱かれて朝散歩俺にもあんな時代があった

 

ただ歩くこんな素敵なことはない千の香りが泡立つ世界   *

 

蒸す午後にクールを運ぶ宅急便乗せてもらってクールになろうよ

 

ヒナギクのバスと黄色い動物バスどっちの園が俺に合うかな

 

柴犬の生きづらさなど歌にして文学犬でデビューしよかな

 

ガラス越し彼女の寝顔に子守唄鼻息だけで歌ってみたよ

 

人間はパンツ交換プレイするらしいが犬はできぬ寂しい

 

早すぎる梅雨明け夏の装いにしたくも衣替え遅れたり

 

「暗くなるまで待って」と呟きあのひとは何か企む闇に紛れて

 

 

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