罪悪感と復讐心

毎年、ジェンダー入門の授業で『風の谷のナウシカ』を見せて感想や意見を書かせている。7割くらいの学生がアニメは見たことがあるが、そのうちの半分以上は子供の頃であまりしっかり覚えておらず、漫画も読んだという学生は非常に少ない。そういう中で、今年こんな分析をしてきた学生がいた。
彼によると、ナウシカクシャナは共に女ジェンダー規範から自由な立ち位置の女性として描かれている(ここまでは大抵の学生が書いている)が、彼女達の「正義」の行動は、実は過去のトラウマ的な体験から生まれた感情に支配されているというものだ。
つまりナウシカは、幼少の頃に可愛がっていたオウムの幼生を父親に取り上げられてしまった(おそらくその後廃棄された)ことで、虫に対して深い罪悪感を抱くようになり、クシャナは虫との戦いで腕を失い満身創痍(「我が夫となるものはさらにおぞましきものを見るだろう」)となっているために、虫ともども腐海を焼き尽くしたいという復讐心に燃えるようになった。
彼女達の行動原理はそうした個人的感情に基づいており、それぞれが掲げる「正義」は建前に過ぎない。
昔のヒーロー物語ではヒーローは大義や正義のために戦っていたが、それも建前だ。人を動かすのはそういう大きなものではなく等身大の罪悪感や復讐心である。ナウシカクシャナは過去に大切なものを失い、深く傷つき、それが彼女達のスタンスを決定的にした。
‥‥という考察。なるほどね。
クシャナに復讐心(漫画版では虫へのと言うより、トルメキア国王と王子(兄)達への)があるのも、ナウシカが罪悪感を抱えているのも、ちゃんと見ていればわかるけれども、その後の考察が面白いと思った。
たしかに罪悪感と復讐心ほど人の心に棲みつき、後々まで考え方や振る舞いに影響を及ぼす負の感情はないだろう。それは大抵の場合「大切なものが失われた」という強い喪失感を伴うからだ。



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