アート・ヒステリー ---なんでもかんでもアートな国・ニッポン
- 作者: 大野左紀子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2012/09/26
- メディア: 単行本
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” その言葉が盛んに叫ばれ、常にプラスの価値が盛り込まれ、同調的空気が形成されている時こそ、そこで信じられているものを疑ってかかるべきです。アートという言葉にいつもくっついてくる「可能性」や「多様性」や「個性」や「自由」といった、既に手垢のついたイメージを信用しないで、それらの言葉によって隠されているものの方を見るべきです。”
(「はじめに」より)
2008年の『アーティスト症候群 アートと職人、クリエイターと芸能人』(明治書院)はこれまでたくさんの方に読んで頂きましたが、去年その文庫版が出た河出書房新社から今週、『アート・ヒステリー なんでもかんでもアートな国・ニッポン』*1 が刊行されます。
前著の読みやすさ、とっつきやすさはそのままに、より深い射程&濃厚な内容でがっつり読み応えのある一冊に仕上がっていると思います。
「症候群」を読まれた方はもちろん、初めての方にも広く手に取って頂けますように‥‥!と願って書きました。
どうぞよろしくお願いいたします!!
三章構成になっています。
第一章は、アートの受容格差と日本の美術の中にあった歪みについて(知ってる人は知ってる話です)。
第二章は、学校の図工・美術科目にまつわる問題について(これも知ってる人は知ってる話です)。
第三章は、アートのインサイド、アウトサイドで話題となったさまざまな事象について(これまた知ってる人は知ってる話です)。
以上、それぞれ知ってる人はよく知っているけど、少しずつ位相が異なる故に、これまで各々の業界周辺で個別に論じられてきたテーマ、物事です。それらを、アートの「外」からの視点で改めて見直し関連づけながら、私たちとアート - 美術の関係について根源的に考察する、というチャレンジングな試みをしております。これまで線の引かれていないところに線を引く試みでもあります。
ブログ記事を元にしたごく一部を除いて9割方書き下ろし。269ページ、1500円(税別)。早いところでは25日、そのほかは26〜27日頃に書店に並ぶ予定です。*2
ちなみに画像では見えませんが、表紙サブタイトルと横文字とオビの文字の一部、カバーを外した本体全体が、微妙に光るシルバー(特色インク)という贅沢な作りです。是非本屋さんで手に取ってみて下さい。
★オビ・表側文面
「何なの? これ」「アート」
「え、こんなことやっていいの?」
「うん、だって、アートだから」
『アーティスト症候群』から4年、
「アート」の名の下にすべてが曖昧に受容される現在を、
根底から見つめ、その欲望を洗い出す。
★カバー見返し文面
アートは”希望”の灯火ではない。
人々を結ぶ”絆”でもない。
「アート=普遍的に良いもの」ですか? そこから疑ってみませんか?
アートがわからなくても、それは当たり前。
民主主義の太陽が生んだ「自由」と「個性」を掲げる美術教育と、
資本主義の雨がもたらした増殖、拡大し続けるアートワールド、
それらを通して、アートと私たちの関係を読み解いていきます。
★オビ・裏側文面
こんな人に読んでほしい!
1. 互いの作品を批判せずなんとなく褒め合っているガラスのハートの美大生。
2. 「個性と創造性が重要」と「図工って何の役に立つの?」の間で困っている先生たち。
3. 「アートは希望」「今こそアートの力が必要とされている」と訴えたい業界回りの人。
4.「普通」を選んでいるにも関わらず「ちょっと謎めきたい願望」を抱く社会人。
↑「ここはこのくらい煽り気味で行きましょう」(by編集者)ということでこうなりました。これ以外に、アートに多少なりとも関心のある人、関心がないわけではないがモヤモヤすることが多いという人、アートを取り巻く言葉に疑問と不満を抱いている人、現代アートに(笑)をつけたくなることがある人、アートはよくわからんという人、アートがわからん人が多いのは問題だと思っている人、それは仕方ないし当然だと思っている人、学校の図工・美術教育ってどうなの?と思っている人、アートを通して日本について考えたい人‥‥に、おすすめです。
★目次
はじめに──アート島から漕ぎ出して
第一章 アートがわからなくても当たり前
1.ピカソって本当にいいですか?
「ピカソ的」なるもの/みんな大好き印象派
絵を愛で平和に癒される/占領された絵画
2.疎外される「わからない人」
わからない人の気持ち/わからない人は言葉を求める
「なぜ、これがアートなの?」の限界
3.アートの受容格差
知と欲望のヒエラルキー/「他者の欲望」の結晶化
ブルジョア、インテリ、大衆/芸術資本格差
4.「美術」はどこから来たのか
芸術の恩恵とは/西洋絵画と日本的空間
インストールされた美術
第二章 図工の時間は楽しかったですか?
1.芸術という「糸巻き」
母なるものとの分離と傷/「自然の本性」主義の美術教育
2.日本の美術教育
実用主義のお手本教育 - 明治期
自由画運動と子ども文化 - 大正〜昭和戦前
活発化する民間の運動 - 昭和戦後
心情主義の隘路 - 平成
3.夢見る大人と現実的な子ども
図工はどのように役に立つの?/なぜ絵の描き方を教えてくれなかったの?
先生の負担、親の願望
4.問い直される理想
「自由」と「個性」の変質/承認を求める若者たち
方法論主義vs創造主義/「去勢」を経て残るもの
第三章 アートは底の抜けた器
1.液状化するアート
インテリア・アートというジャンル - ヒロ・ヤマガタとラッセンその1
最大多数の最大幸福 - ヒロ・ヤマガタとラッセンその2
バンクシーになりたかった男/アウトサイドはインサイドにある
2.空想と現実の距離
「普通」からの反発/ナルシシズム市場の広がり
自意識の牢獄と菊千代の闘い
3.村上隆の「父殺し」
「セルフ・オリエンタリズム」アーティスト
闘争のゆくえ
4.アートの終わるところ
「問題」を「問題」とするアート/太陽と「母」
アートへの欲望/他者との出会いと出会い損ない
おわりに
★登場する人名・グループ名
第一章
ピカソ、ゴッホ、ダ・ヴィンチ、モネ、ゴーギャン、ムンク、ダリ、雪舟、ルノアール、フェルメール、シャガール、北斎、ポロック、セザンヌ、佐々木健一、猪熊弦一郎、岡本太郎、ピサロ、ドガ、岸田劉生、林忠正、マネ、デオドール・デュレ、ポール・デュラン=リュエル、稲賀繁美、黒田清輝、ラファエル・コラン、武者小路実篤、志賀直哉、ロダン、スーラ、梅原龍三郎、菊畑茂久馬、山本敬輔、シケイロス、ビュッフェ、デュビュッフェ、グラック、エルンスト、クレー、アルプ、ルオー、タマヨ、ベン=シャーン、ドーミエ、フォートリエ、前衛美術協会、丸木位里・俊、山下菊二、河原温、足立元、松井みどり、村上隆、デュシャン、アングル、アメリア・アレナス、ルネ・マグリット、ウォーホル、アーサー・C・ダントー、クレメント・グリーンバーグ、若林直樹、スタンダール、ボードリヤール、マイケル・ジャクソン、中平康、吉永小百合、浜田光夫、山口百恵、夏目漱石、五十殿利治、前田河広一郎、辻潤、ピエール・ブルデュー、AKB48、橋下徹、平井洋、小倉千加子、宮津大輔、草間彌生、小津安二郎、北澤憲昭、福沢諭吉、司馬江漢、高橋由一、フォンタネージ、小山正太郎、浅井忠、フェノロサ、岡倉天心
第二章
フロイト、ソフォクレス、ルソー、ペスタロッチ、フレーベル、エレン・ケイ、デューイ、チゼック、ハーバート・リード、フィリップ・アリエス、金子一夫、上野浩道、フェノロサ、岡倉天心、黒田清輝、小山正太郎、山本鼎、北原白秋、鈴木三重吉、芥川龍之介、有島武郎、泉鏡花、徳田秋声、島崎藤村、小山内薫、野口雨情、西条八十、室生犀星、小川未明、横光利一、与田準一、島崎藤村、中野重治、坪田譲治、金子みすゞ、岡本帰一、武井武雄、初山滋、清水良雄、本田庄太郎、岡本一平、竹久夢二、東山魁夷、古賀春江、村山知義、柳瀬正夢、藤田嗣治、亀倉雄策、河原和枝、マッカーサー、久保貞次郎、北川民次、羽仁進、開高健、岡本太郎、国分一太郎、井手則夫、上野省策、グロピウス、勝見勝、西野範夫、カンディンスキー、松本キミ子、酒井臣吾、結城昌子、ゴッホ、モネ、ピカソ、ルノアール、岩木秀夫、諏訪哲二、苅谷剛彦、村上隆、柴田和豊、藤澤英昭
第三章
ヒロ・ヤマガタ、クリスチャン・ラッセン、ウォーホル、長嶋茂雄、室伏哲郎、中ザワヒデキ、村上隆、栗原裕一郎、小田和正、わたせせいぞう、呉智英、オウムの会、キース・ヘリング、バンクシー、ティエリー・グエッタ、Mr.ブレインウォッシュ、宮崎駿、シュバル、デュビュッフェ、ヘンリー・ダーガー、草間彌生、ジーン・M・トゥエンギ、W・キース・キャンベル、フロイト、黒澤明、三船敏郎、椹木野衣、東浩紀、エドワード・サイード、浅田彰、彦坂尚嘉、森村泰昌、岡本太郎、平野暁臣、Chim↑Pom、岡本敏子、塚原史、カミール・パーリア、岡本かの子、岡本一平、平塚らいてう、長谷川和彦、志村喬、鈴木國文、アンドレ・ブルトン、リオタール、マレーヴィッチ、デュシャン
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消費者でもクリエイターでもなくプロでもアマでもなく
●9/30追記
早速、読者から間違いを指摘されております。
p.7 ×愛知ビエンナーレ→○あいちトリエンナーレ
まったく地元なのになんでこういう派手なミスを‥‥! すみません。